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太陽光発電の光と影-トラブル続出で総務省が経済産業省に勧告 中国とのつながり疑われる事例も

太陽光発電は、再生可能エネルギーの中で一番のシェアを誇る。しかし、その開発行為は、森林伐採を伴う土砂崩れの危険性や生活・自然環境の悪化を伴いがちで、全国各地で住民紛争が起きている。そのトラブルの実態調査を総務省行政評価局が行い、3月、経済産業省に改善するよう勧告した。総務省の調査では調べた市町村のうち41.2%でトラブルが発生していた。

また3月には再生可能エネルギーの規制緩和を目指す内閣府のタスクフォースに、メンバーの公益財団法人「自然エネルギー財団」の幹部が中国の国営電力会社「国家電網公司」のロゴマークが入った資料を提出していたことがわかり、政府が調査する事態となった。財団は、ロゴが入っていたことを知らずに提出したと、中国との関係を否定している。国内の太陽光パネルの8割は中国製が占め、国内安全保障の関係からも、太陽光発電の普及について見直しを求める声も出ている。

ジャーナリスト 杉本裕明

目次

自治体の4割で太陽光発電施設でのトラブル発生

総務省は3月26日、市町村の約4割で、太陽光発電施設の設置をめぐり、土砂崩れによる土砂流出、光の反射、騒音などのトラブルが発生していたとする調査結果を公表した。約2割は未解決のままだという。同省は経済産業省に対し、発電設備の現地調査を行い、事業者に法律を守るよう指導すること、指導しても改善されない場合には固定価格買取制度(FIT、再エネの電気を高く買い上げ、その費用は各家庭の電気料金に上乗せ。再エネ業者に交付金を出したりする制度)による交付金を支給しない措置をとるよう勧告を行った。

太陽光発電を中心とする再生エネルギーの固定価格買取制度(FIT)は、2012年に開始され、高い価格で電力を買い取ることで、発電施設の設置と電力の供給を増やしてきた。導入件数は2023年3月末時点で約265万3千件、発電出力は約6,513万キロワットにのぼり、風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーの中でダントツ、世界でも三番目の普及量を誇る。

一方で、発電施設の設置に伴い住民とのトラブルが急増している。苦情は、所管官庁である経産省でなく、身近な自治体に寄せられている。自治体には指導したり、規制したりする権限はなく、対応に苦労している。トラブルを防ぐため、設置の際に自治体に届け出をし、住民説明会を開くことを義務づけたりする独自の条例を制定する動きが増えている。

こうした状況を憂慮した総務省は、2023年6月から再エネ特措法による太陽光発電施設の認定件数の上位24都道府県の全市町村(943市町村)に行い、861市町村の回答を得た。そのうち41.2%、355市町村でトラブルが報告され、143市町村(16.6%)で未解決であることがわかった。

自治体の回答は、さまざまなトラブルが満載

発電施設の設置等については再エネ特措法で定められ、違反などの発電事業者に対する指導は経済産業省が行うことになっている。しかし、総務省によると、住民は身近な市町村に相談し、市町村が対応し、経産省への相談は少なく、自治体も経産省への通報ルートがあることを知らないケースが多かった。

住民の苦情と自治体の対応について、

  • 泥水・土砂等の流出が、防災工事や排水対策の未実施から起きたり、市町村が発電事業者に、再発防止策の実施と住民への説明について助言したりしていた。
  • 市町村が助言等を行ってもトラブル等の改善が図られず、経済産業局に相談をしている自治体もあった。経産省は通報を受けた場合に現地確認を実施するなど地方公共団体との情報共有の「情報提供フォーム」を持っているが、6割以上の自治体が存在を知らなかった。
  • 発電事業者に対する経済産業局が問題企業に文書指導を行っていないなど、行政処分の前提となる経済産業局の文書指導の対応に問題があった。
  • 条例に基づき設備設置後に現地確認を実施し、トラブルの未然防止を図っている市町村もあった。

などとしている。

また、開発工事の施工でのトラブルとして、

  • 開発工事中の敷地や調整池から泥水や土砂が流出し、道路、河川等に流入。
  • 開発工事の施工内容が許可条件と違っていた。
  • 発電事業者等による地域住民への説明不足から、災害発生、騒音、反射、景観悪化などの懸念を起こした。

発電設備の稼働段階におけるトラブルとして

  • 設備の敷地から泥水や雨水が流出、のり面の崩壊や設備自体が損壊した。
  • 雑草の繁茂により通行の妨げや害虫の発生、火災発生の懸念

などの事例を挙げている。

導入件数は268万件にも

FITが導入されて全国で太陽光発電設備等の導入が拡大し、導入件数は約266万件(2023年3月末)、導入容量は約7,360万kW(同)に増えた。同法の施行前は約2,060万kW(2012年6月末)だから3倍以上になる。

しかし、発電施設が設置される現場では、上記のように、地域住民への説明が十分にないまま事業が開始されたり、発電設備の設置後に土砂が流出したりする例などのトラブルが発生している。

経産省もこの事態を静観していたわけではなかった。自治体等の苦情を受ける形で、2023年に再エネ特措法が改正(2024年4月施行)された。

発電事業の認定に際し、事業者に対し地域の住民に説明会を行うことを義務づけるとともに、法令を守らない事業者に対してはFIT交付金を一時留保し、違反が解消されない場合には交付金の返還命令ができるようにした。しかし、「このような規定は2011年の同法制定時点に当然やっておくべきだった」と自治体の視線は厳しい。

総務省は、今回、こうした状況の改善策として、法令違反等をしている発電事業者に対し、経産省は法令遵守状況等の把握のための現地調査を強化することを求めた。具体的には、現地調査の効率的・効果的な実施のため、不適切な維持管理をしている発電事業者の情報の活用や、写真等による標識及び柵塀の設置状況等の把握をすることとしている。

また、自治体との連携では、経済産業省は自治体に対し、発電事業者の連絡先等の把握ができるよう経産省の「事業計画認定情報公表用ウェブサイト」「再生可能エネルギー電子申請」サイト上でログインIDを取得した自治体が閲覧できる「認定設備情報等」を提供すること、自治体から経産省への通報制度の充実などを求めている。

経産省の取り組みにも不備が

一方、総務省は経産省の取り組み状況を調べたが、

  • 事業者との協議基準を定めている経済産業局はみられず、連絡がつかない発電事業者に対し、通報の受付から長期間経過しているが、文書指導を実施していない経済産業局や特定記録郵便を送付しても宛先不明で連絡がつかない発電事業者に対し、特段の対応を行っていない経済産業局(経産省の地方の出先機関)があった。
  • 指導等を行った後の改善状況の確認や通報への対応に係る記録等の実施について、写真がなくても口頭での改善報告で可としている経済産業局や、改善状況の確認を行っていない経済産業局があった。
  • 自治体からからの通報の記録を作成していな経済産業局があった。

とし、総務省は改善を求めた。

参考:総務省 太陽光発電設備等の導入に関する調査 <結果に基づく勧告>

内閣府のタスクフォースに中国の電力会社のロゴマーク入った資料を提出

3月23日、再エネ導入のため規制の見直しを目指す内閣府のタスクフォースに提出された資料に、中国国営企業のロゴマークが入っていたことが判明し、波紋を広げた。

2023年12月25日と3月22日に開かれた「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」の会議の資料として、中国の国営電力会社「国家電網公司」の透かしが入っている資料を、タスクフォースメンバーの自然エネルギー財団の大林ミカ氏が提出していた。

それを指摘する声がSNSで広がったため、23日、内閣府規制改革推進室は「X」の公式アカウントで 、《内閣府において事実確認を行ったところ、こちらは同タスクフォースの民間構成員の大林ミカ氏により提出された資料でありました。事務局より大林氏に確認したところ、財団の事業局長を務める大林氏が、数年前のシンポジウムに中国の当該企業関係者が登壇した際の資料の一部を使用したところ、テンプレートにロゴが残ってしまっていたとのことでした。なお、自然エネルギー財団と中国政府・企業とは人的・資本的な関係はないとのことです。念のため内閣府でも確認を行います。》と流した。

参考:内閣府規制改革推進室 X公式アカウント 2024年3月23日のポスト

中国との関係を否定した財団だが

この説明について、国民民主党の玉木雄一郎代表は同日、「大村ミカ氏及び内閣府の説明は到底納得できるものではない。我が国の再エネ政策が中国の影響が及んでいる疑惑であり見過ごすことはできない。内閣府は背景を徹底調査すべきだ。今後、審議会等のメンバー選定にも、ある種のセキュリティ・クリアランスが必要ではないか。再エネ賦課金についても廃止を含め、見直しを検討すべきだ」と指摘した。河野太郎担当相は、「チェック体制の不備」と釈明した。

自然エネルギー財団はその後、「設立以降これまで、寄付金、助成金・補助金、業務委託費など名目のいかんにかかわらず、中国政府・企業からのものは含まれていない」とする報告書を政府に提出した。財団の運営は主に、設立者のソフトバンクグループ(SBG)会長兼社長、孫正義氏が2011~2022年度に計31億5千万円寄付した財源によってまかなわれ、太陽光発電など再生可能エネルギーの規制緩和を主張している。

孫氏は、民主党政権時に再エネ普及を働きかけ、太陽光発電に対する破格の高額買い取りを実現させる要因ともなった。また自ら太陽光発電事業に進出したことでも知られる。

太陽光パネルの8割が中国製

太陽光発電パネルの製造は当初は国産が主流だったが、価格の安い中国製に押され、国内メーカーは次々と撤退、現在8割が中国製となっている。また、中国を中心にアジア各国が再生可能エネルギーを融通しあうネットワーク構想が打ち出され、同財団もその検討組織に参加したことがある。「FITで国民が負担したお金の多くが中国企業を潤している。国際ネットワーク構想は、国の根幹にかかわる電力の供給を中国に支配される恐れがある」との経済安保の面から懸念する声が強まっていた。

これら、2つのできごとを振り返ると、太陽光発電のメリットを無批判に受け入れるだけでなく、全国で起きている生活環境や自然環境に与える太陽光発電施設の負の影響を減らし、安全保障の観点でのチェックを行うことも必要ではないだろうか。

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この記事を書いた人

朝日新聞記者を経て、フリージャーナリスト。廃棄物、自然保護、地球環境、公害など、環境の各分野に精通する。著書に『ルポ にっぽんのごみ』(岩波書店)『ディーゼル車に未来はあるかー排ガス偽装とPM2・5の脅威』(同、共著)、『環境省の大罪』(PHP研究所)、『赤い土(フェロシルト) なぜ企業犯罪は繰り返されたのか』(風媒社)、『社会を変えた情報公開―ドキュメント・市民オンブズマン』(花伝社)など多数。NPO法人未来舎代表理事として、政策提言や講演会などをしている。

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