府中市のリサイクルプラザ
杉本裕明氏撮影 転載禁止
東京都内で唯一、「ダストボックス」にこだわっていた府中市。稲城市に「いまのままならごみ処理を引き受けない」と通告され、ダストボックスを廃止した府中市は、戸別収集とごみ袋の有料化を実施し、リサイクルに取り組み始めた。異物が多く、作業員が大変な苦労を強いられたリサイクルプラザを訪ねると、優良施設に生まれ変わっていた。
ジャーナリスト 杉本裕明
何でも捨てられる「ダストボックス」を廃止した東京・府中市の理由―高リサイクル率化の課題は生ごみと廃プラ対策―(中)
リサイクルに目覚めた府中市
かつて異物の多さに苦しんだリサイクルプラザを再訪した。前に訪ねたのは、リサイクルプラザの資源棟が完成し、プラスチック容器包装の選別を始めた2006年だったから、実に18年ぶりである。
応対した資源循環推進課施設係の鈴木崇之さんと破砕・リサイクル施設技術管理士の川和弘卓さんが、プラザを案内してくれた。
リサイクルプラザの施設を案内してくれた府中市資源循環推進課施設係の鈴木崇之さん(左)と施設係破砕・リサイクル施設技術管理士の川和弘卓さん
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「どこからお見せしましょうか」。18年前の幹部と違って、2人の表情には余裕が感じられた。やはり、プラスチック容器包装の選別を見たい。リサイクルプラザは、資源棟だけでなく選別棟にも選別ラインがあった。回収量が増えたため、選別ラインを増やしていたのだ。
収集した容器包装プラスチックは袋ごと、ピットで保管され、クレーンで運ぶ
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ごみ収集車からいったん資源棟のピットに落とされたプラスチック容器包装は、クレーンで破袋機に投じ、裁断された袋は、可燃ごみとして回収、中身の容器包装はベルトコンベヤーのラインに流される。資源棟と選別棟とは屋外コンベヤでつながり、筆者は選別棟のラインを見た。ラインは2本あり、それぞれ、ヘルメットと手袋をつけた5人の作業員が、異物の選別・除去をしていた。
手際よく異物を取り去る
見ていると、手際が良い。ペットボトルなど、異物を見つけては取り除いていく。市の調査では、当時に比べ、異物は大きく減ったとはいえ、いまでも分別不適合物が12.28%を占める。その内訳は、可燃ごみが4.60%、不燃ごみが6.07%。その他、ペットボトルが0.92%、紙類が0.52%など。「協会の審査では多くがAランクですが、Bランクになることもあります」と、鈴木係長。
府中市リサイクルプラザで選別した容器包装プラスチックのベール。容器包装リサイクル協会に引き渡され、千葉県君津市の日本製鉄の製鉄所でコークス代替原料として使われる
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2022年度は日本製鉄が落札し、2742トンが千葉県君津市と名古屋市の製鉄所で、コークス炉の原料として使われた。
一方のペットボトルは、2021年度までは容器包装リサイクル協会に引き渡されていたが、サントリーからの提案で、2021年10月にサントリーと協定を結び、2022年度からベール全量の約600トンを売却している。
ペットボトルはサントリーと契約し、売却
鈴木係長は「市内にサントリーの工場があり、さまざまな事業でつながりがあることと、サントリーが回収したペットボトルを原料にし、ペットボトルに戻していることが大きかった」と、契約に踏み切った理由を語る。従来は、衣料品の原料などになっていたが、最近、BtoBといわれるペットからペットに戻す技術開発が進み、サントリー始め、飲料メーカーは、BtoBに力を入れ、自治体との直接契約に力を入れている。
ペットボトルは有価で取引されており、よりきれいなペットボトルを求めての競争が激しくなっている。府中市の契約もその動きの1つだ。
ペットボトルのベール。きれいで、売却後はリサイクル工場でペットボトルに生まれ変わる
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ペットボトルの選別ラインを見たが、汚れたペットボトルは少ない。それを固めたベールを見ると、どれもきれいで、Aランクというのもうなずける。脇に、キャップを集めた容器があった。川和さんが言った。「これも別の業者に引き渡し、リサイクルされています」。
回収したペットボトルのキャップもリサイクルされている。リサイクルプラザ
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不燃ごみの選別ライン。CDなど製品プラスチックがかなり混じっている
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リサイクルプラザではこの他、不燃ごみの選別や空き缶の選別・圧縮、空き瓶の保管などが行われていた。
シルバー人材センターの市民がリユースに活躍
管理棟のフロアの一部には、家具が並んでいた。まだ、新しい机を見ると、800円の値札がついていた。安くて、きれいだ。「これは、粗大ごみとして引き取ったのを、シルバー人材センターに委託し、リサイクル家具に生まれかわり、販売しています」と鈴木係長。市のリサイクル品の展示会場に移し、市民に販売している。「安くて品質が良い」と売れゆきも好調という。
リサイクルプラザでは、粗大ごみとして回収した家具などを修理し、府中市のリサイクル店で販売している
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その隣の部屋では、人材センターの作業員らが、リサイクル自転車の修理に取り組んでいた。月に1回、販売会を開き、自転車販売業者に1台3000円で販売している。これも売れ行きがよいという。
リサイクルプラザで、シルバー人災センターから派遣された人たちが、自転車の修理に取り組んでいた。1台3,000円で自転車販売店に売却されている
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隣の小金井市では、販売不振で、シルバー人材センターとの契約を打ち切り、リサイクル製品の販売をやめてしまったが、府中市は、市民の応援もあって健在だ。
こうしてリサイクルの歴史を刻んできたリサイクルプラザだが、老朽化が進んだため、2028年に保管棟を建て替え、従来のプラスチック容器包装に加え、製品プラスチックのリサイクルもできるようにするという。収集した両方のプラスチックごみから異物を取り除き、ベールにし、容器包装リサイクル協会に引き渡す計画だ。
新しい基本計画で目標示す
市は、2023年度から、新しい一般廃棄物の処理基本計画に基づき、2022年度を基準年とし、家庭の燃えるごみを、2022年度の1人1日400グラムから、5年後の2027年度に356グラムに減らす目標を掲げる。一方、資源化量は、2021年度の実績値である76グラムから83グラムに増やす目標を掲げている。
先の製品プラスチックの回収量を市の計画では、スタートする2027年度は383トン。翌年度からは766トン前後回収出来るとしている。
ごみ減量で最も力を入れるのが、食品ロスの削減だ。市が生ごみの成分を調べたところ、その内訳は、調理屑が57.82%、食べ残しが16.18%、直接廃棄が26.00%だった。直接廃棄のうち、21.91%は手つかずで、食品ロスの削減に力を入れる必要性がわかった。
府中市はかつて生ごみの分別回収をして、肥料の原料にしたり、あるいは、他の可燃ごみと一緒に、固形燃料(RDF)にする試みを行ったりしたが、いずれも失敗に終わっている。生ごみ処理機を購入する家庭に補助金を出してもいるが、生ごみを電気で乾燥するタイプは、乾燥した食品廃棄物は堆肥の原料になりにくいし、大量の電気を消費するため、「カーボン・ニュートラル」を標榜するいまの時代にそぐわない。
食品ロスに力を入れる給食センター
こうして最近、国や自治体が注目しているのが、食品ロスを減らすことによる生ごみの削減だ。府中市の計画では、食品ロスを、2022年度の5,685トンから2027年度に5,420トンに削減するとしている。
「そのために、食べきり協力店を増やし、家庭で余っている食べ物を学校や職場に持ち寄り、地域の福祉団体や施設に寄付するフードドライブ、フードバンク、フードシェアリングサービスを拡大したい」と、資源循環推進課の大川享課長は抱負を語る。
給食センターが食品ロスと循環の輪作りに取り組む
その食品ロスの削減の中核として取り組みを進めているのが、府中市立学校給食センターだ。小中学校33校に毎日21,000食の給食を提供している。
府中市にある学校給食センター。毎日21,000食をつくり、学校に提供している
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給食センターは、地場産野菜を給食に使うため、JAマインズと契約し、「給食センター出荷の会」に登録している25軒の農家から野菜を出荷してもらっている。ユニークなのは、給食センターの調理屑(くず)と、各学校から戻ってきた残菜など、年間約274トンを八王子市の堆肥化施設に搬入し、堆肥の原料にしていることだ。
地元の農家と連携し、循環の輪を目指す
「約274トンのうち、堆肥にすると5%ほどになりますが、それを、野菜を提供してくれた農家に配布し、堆肥として使用できるか試行的に確認をいただいているところです。その農家がつくった野菜を給食センターが使い、給食に利用することで、循環の輪を目指しています。一方、食品ロスの削減では、調理担当者による調理屑を減らすための調理の工夫、栄養士による残す量の少ないおいしいメニュー作り、学校での食べきりの啓発活動などで、残菜は2021年度の30トンから22年度は28トンと1割近く減った」と、担当者は言う。
メニューの工夫等、知恵を絞る給食センターの職員たち
給食の思い出作りとして、小学生と中学生に好きな献立を挙げてもらい、人気の高かった献立を出す「リクエスト給食」を2月と3月に行った。アンケートで、人気の高かったのは、小学生が、①ジャージャー麺、②ラーメン、③カレーライスの順。中学生が①ジャージャー麺、②揚げパン、③カレーライスの順だった。「この結果をもとに日頃の献立に生かしていきたい。逆に子どもたちが苦手なのは、サラダとか野菜のようです。食べてもらえるようにメニューを工夫したい」と担当者。
給食センターで献立をつくる。大量につくるので釜も大きい
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給食センターのホームページの子ども向けの「ランチタイムズ」をのぞくと、2023年11月の小学生の目標は「感謝の気持ちを持って食べよう」。「学校給食は、栄養士が献立を考え、調理員がつくります。また、使われる食材には、農家さんや漁師さんなどの生産者の方々や食物を運ぶ人などが関わっています。このように、給食は、多の人に支えられ、みなさんのもとに届けられています。感謝の気持ちをもち、一口でも多く食べましょう」。
中学生には国の食品ロス削減月刊の10月に「食品ロス削減3つのコツ」として「①家にある食材をチェックし、使い切れる分だけ買いましょう、②家族の予定や体調を考慮し、食べきれる分を調理しましょう、③作った料理は早めに食べきりましょう」と呼びかけた。
リサイクル自転車もリサイクル家具も完売
もう1つ、府中市が取り組むリユースは、幸運なことに、リサイクル家具やリサイクル自転車の販売は好調で、リユースを広げる環境がある。市は、2021年度に株式会社ジモティーと、リユース活動の促進に向けた連携と協力に関する協定を締結し、リサイクル家具を市が出品し、市民とのマッチングを働きかけている。
大川課長は「他の民間事業者とも連携し、利用可能な品の交換・販売活動の支援等についても検討していきたい」と話している。
府中市の年間の1人当たりのごみ処理費は、府中市は約15,000円。概ね横ばいで、多摩地域の平均より約4,000円、全国平均より約2,000円安い。ただ、今後、老朽化したリサイクルプラザや多摩川衛生組合の処理施設の更新によって、上昇に転じる可能性もある。
市民の関心を高め、いっそうのごみ減量を
計画づくりのために、市は審議会を動かしたが、議論は低調で、市の作成した計画の素案がそのまま承諾された。計画案は、パブリックコメントにかけられたが、意見を寄せた市民はわずか1人。市民の関心は薄かった。ダストボックスをどう扱うか、委員たちが熱い議論を交わしたかつての審議会の熱気は感じられない。それは、かなり高いリサイクル率を達成し、ごみ処理に大きな障害がない現状から来ているのかもしれない。
2027年度を計画目標に掲げる新計画も、市の啓発活動や市民の自主的な取り組みに頼る部分が多く、どうやってごみ減量の目標を達成できるか、心許ない面もある。
リサイクルと処理の効率化を進めながら、ごみ減量とリサイクルをどう進めていくのか、それにはかつてのように市民の関心を高め、ごみ減量への参加を促すほかない。市の取り組みを注視したい。
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