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武蔵野大学が日本初のサステナビリティ学科を開設!!最先端の学びとは? 白井信雄教授 インタビュー

2023年、武蔵野大学は有明キャンパスにサステナビリティ学科を開設しました。

「サステナビリティ」と名付けられた学科は日本で初ですが、これからの時代に必要な学びだということは間違いありません。

武蔵野大学のサステナビリティ学科では、どのような講義が行われ、何を学べるのでしょうか。

武蔵野大学工学部サステナビリティ学科の学科長を務める、白井信雄教授にお伺いしました。

目次

武蔵野大学サステナビリティ学科とは

――サステナビリティ学科の開設は、国内の大学の中では武蔵野大学が初めてだと聞いています。どのような学びが体験できるのでしょうか。

環境問題だけでなく、環境問題に関連するサステナビリティの分野を幅広く学べます。

まず、1年次は基本科目として「サステナビリティとは何か」という点を学びます。サステナビリティと一口に言っても、扱うテーマはさまざまです。環境問題はもちろん、エネルギーや資源循環、あるいは格差や公平・公正といったテーマも扱います。人口減少や少子高齢化、経済成長もサステナビリティを学ぶ上で重要なテーマとなりますので、環境問題と社会・経済問題との関係性も基本として学びます。

2~3年時からは、システム思考、環境政策論、環境福祉、サステナブル経営など、さまざまな分野の基盤となるサステナビリティの思考法や枠組みを学ぶための共通科目があります。AI活用や社会調査、統計分析といった選択科目の履修も可能です。

また、2年次からは、ソーシャルデザイン科目群と環境エンジニアリング科目群という2つの科目群から、専門的な講義を選択します。どちらかの科目群だけ学ぶのではなく、学生自身がそれぞれの科目を組み合わせ、自由にカスタマイズする、という形です。


武蔵野大学工学部サステナビリティ学科 白井信雄教授

そして、サステナビリティ学科の最大の特徴は、知識や方法論といった専門的なことを講義で学ぶだけでなく、実践重視であることです。1年次の後期から「サステナビリティプロジェクト」という実践演習が開始されますが、これは学生たちが自分のテーマをもって、市民や企業、行政とともに課題解決や未来創造に挑むというものです。

これまで実施してきたものであれば、地域通貨を立ち上げて学科内で流通させる実験、江東区内でエシカル消費に関連するお店を探して地域に広く知ってもらおうという実践、住宅作品のコンペに「自然と共に生きる暮らし」と題して出品するなどがあります。

中でも、実績が豊富で内外に注目されているものが有明キャンパスの屋上にある農園を使ったプロジェクトです。アーバンパーマカルチャー(※)の考え方を実践するもので、野菜の有機栽培や養蜂、採蜜をして瓶につめて販売、場を利用したコミュニティづくりなど、さまざまな活用を展開しています。

(※パーマカルチャーとは、パーマネントとアグリカルチャーを組み合わせた造語で「永続する農業」という意味。都市部でこれを取り入れる場合、アーバン(都市的)と付け加えられる)


有明キャンパス3号館の屋上は農園があり、パーマカルチャーを学ぶだけでなく、学生や教員たちのコミュニケーションの場としても機能している

問題解決を目指す実践を行い、実践を通じて専門性を身につけるという、ソリューション志向・身体感覚の学びであることを知ってほしいと思います。

――環境問題から社会問題まで幅広い分野を学ぶサステナビリティ学科は、そもそもどういった経緯で開設されたのでしょうか。

もとは環境システム学科としてやっていましたが、環境問題の解決を目指す学生たちが学ぶ場としては、その名称ではやや不十分になってきました。なぜなら、環境問題を解決するとしたら、環境のことだけを学べばいいということではないからです。

1つの環境問題を解決するにしても、自然の調査だけでなく、社会調査に基づいた計画、それを実験・実行するために色々な分野の人たちとコミュニケーションを取り、情報を発信して、ワークショップなどを行う必要も出てきます。

また、環境問題の解決を優先して、経済的に我慢するということでは多くの方々に受け入れてもらえませんので、環境問題の解決と社会・経済問題を同時に解決していくような工夫を考えなければなりません。環境問題と社会・経済問題との根本にある構造や価値規範等の問題を変えていくことも必要になります。

複数の問題を総合的・根本的アプローチするという社会的要請があるために、サステナビリティ学科を開設しました。

SDGsによって世界全体で解決すべき問題が整理され、具体的な目標が設定されましたが、SDGsのゴールやターゲットをみれば、環境・社会・経済の問題、すべてが重要であるとわかります。

高校でSDGsを学んだ学生たちが、より深く学びたいと考えたとき、その受け皿にもなると考えています。SDGsに関心を持った高校生が、サステナビリティ学科で専門的に学び、SDGsに取り組む企業や行政等に就職して、社会を変える力になってくれればと考えています。

サステナビリティ学科に通う学生たちの傾向

――2023年現在、サステナビリティ学科では、どのような個性を持つ学生が多いのでしょうか。傾向などあれば教えてください。

まだ1学期を過ぎたばかりではありますが、入学試験のときから面接を通して、積極的な学生が多いと感じていました。

環境システム学科のときは環境というワードに漠然とした興味を抱いて入学する学生も少なくありませんでしたが、サステナビリティ学科となるとテーマを明確に理解していることが多く、より積極的に学ぶ意識があるように感じます。

もう1つは、より行動的なこと。起業志向を持ったアントレプレナー性が高い学生も、環境システム学科の時代に比べて増えました。

学生たちの積極性を感じた、具体的な経験もあります。

今期が始まった頃、サステナビリティとはどんなテーマがあるのか出し合い、その中から問いを立てよう、という入門的な講義を行いました。

こういった講義の中で、自分が学ぶべきテーマを見つけ出せない学生は少なくありません。

しかし、全員が議題を出し、全員がそれぞれの問いを持って、学びの出発点に立とうとしていたのです。

それを見て、学生たち全員が多くの問題を自分に関係することだと考えて、積極的に取り組もうとしているのだと感じられました。


サステナビリティ学科の学生たち。自発的に問題解決に取り組み姿勢があると白井先生は語る

他にも、気候変動に興味ある1年生が集まり、「気候アクションサロン」という話し合いの場をつくっていますが、これは単位も関係なく彼らが自主的に行っているものです。

地域で取り組める気候変動の政策を考えて行政に提案したり、気候変動の恐ろしさを高校生に伝えたりと、これからの具体的な活動を企画しているところです。

また、サステナビリティをテーマにしているため、環境だけでなく、平和に興味があって倫理学を学びたい、という学生もいました。

その他にも、環境以外のテーマに関心を持った学生が増えた印象です。

そういう社会問題に関心をもった学生が環境問題に関心を持ち、逆に環境問題に関心を持った学生が社会・経済問題のことを学んでいく、それにより一人ひとりが関心を広げ、深めて、変化していくことを期待しています。

サステナビリティ学科だからこそ体験できる学び

――サステナビリティ学科の講義は、具体的にどのようなテーマを扱ったものなのでしょうか。また、サステナビリティ学科だからこそ体験できるだろう学びがあれば教えてください。

サステナビリティ学科には、ソーシャルデザイン科目と環境エンジニアリング科目があり、それぞれの分野に関連する専門を持つ先生方がいます。

私はソーシャルデザイン科目のうち、環境政策や持続可能な地域づくり、環境と福祉の統合に関する講義やプロジェクトを担当しています。

ソーシャルデザインやコミュニティデザインを専門とする先生は、人と人が活かし合う社会の仕組み、持続可能な社会に向けたコミュニティのデザインを扱っています。

他にも、サステナビリティ経営、新たな社会システム実践、環境心理学や環境教育を専門にする先生がいます。

環境エンジニアリング科目の関連では、化学物質、都市環境・ヒートアイランド、自然生態系、バイオマス、資源循環、建築の省エネ、廃材利用などを専門にした先生方がいます。

環境問題の分野としては、気候変動、資源・エネルギー、廃棄物、生物多様性、有害化学物質などが重要なテーマになりますが、それぞれに対応する専門家が集まっています。

サステナビリティ学科だからこそ、体験できる学びという点ですが、武蔵野大学全体が非常にチャレンジブルな大学であることをお伝えしたいです。

武蔵野大学はサステナビリティ学科の以前にも、データサイエンス学部やアントレプレナーシップ学部を開設し、来年度はウェルビーイング学部を設置します。どれも、時代を先駆ける珍しい学部です。

大学として新しいチャレンジを続けている。サステナビリティ学科もチャレンジ精神の強い大学の中で、その一翼を担っています。

サステナビリティ学科の開設も日本初ですが、それを名乗るということは、リスクも背負うことになります。

それでも、新しい道を開拓するため踏み出すことを選びました。教員もそのつもりでやっていますし、チャレンジをしていく気概がある学生にとって素晴らしい居場所になるだろうと信じています。

サステナビリティ学科の特徴は、繰り返しにはなりますが、実践重視で、様々な分野を統合するアプローチを重視することです。

サステナビリティに関連する問題は、環境だけでなく社会から経済まで幅広く、SDGsの理念で謳われているように、誰一人取り残さないことが望まれます。

仕組みを根本から見直したり、長期的な観点で改善したり、社会そのものを変えなければ実現できません。

つまり、サステナビリティは社会を変えるための学びと言え、それに向けた実践的な経験を重ねられるという点は、本学科だからこそと言えます。

未来志向で社会を変えようと考えるような学生たちが羽ばたいていく場を目指したいと思います。

例えば、ゼロカーボン社会を目指して二酸化炭素の排出を削減するためには、電気自動車の普及も必要ですが、公共交通を促したり、さらには徒歩で移動する町づくりを進めることが検討課題となります。目指すべき社会のあり方、すなわち理想を明らかにして、それに向かって、何をすべきかをしっかりと見極め、共有していかなければなりません。

場合によっては、大都市型の経済成長モデルよりは、自然豊かな良さを生かす地方の地域モデルを社会全体の理想とすること必要になります。

経済成長は鈍化するかもしれませんが、幸福度や豊かさは増した社会の方が、より持続可能性が高いとも考えられるからです。

このような理想を考えたとき、日本人の全員が世捨て人になるわけにもいきません。社会全体をどうしていくべきか、どのように変わっていけば良いのかを考えないといけません。


屋上農園は複雑な問題を解決するための力を養う場でもある

社会全体を変えていく取り組みの1つが、有明キャンパスの屋上菜園だと言えます。規模は小さくとも、自然と人の関係、人と人の関係のあり方、食べ物の生産・消費のあり方、都市におけるコミュニティなどのあり方を実践しながら、考える場となっています。 大都市にありながらも、自然とともにある人間のあり方を考える場は貴重なものです。このプロジェクトを担当している明石修先生のところには、企業から一緒に何かできないかとお声をいただくことが多くあります。

サステナビリティ学科に興味を持った学生へ

――こちらの記事を見て、武蔵野大学サステナビリティ学科に興味を持つ受験生もいるかもしれません。そんな方々に向けて、今一度サステナビリティ学科がどのような学生に向いていて、卒業後の進路はどういった選択肢があるのか教えてください。

サステナビリティは最優先の学びだと言えます。なぜなら、環境問題や社会問題は今を生きている私たちが、今から急いで解決すべきことだからです。

例えば、2050年にゼロカーボンを実現することが目標になっていますが、そのためには2020年から野心的かつ能動的に先進地域をつくっていかなければなりません。

そういった社会の動きを他人ごとにするのではなく、きちんと向き合って、当事者である自分が解決したいと考えている学生は、ぜひ入学を検討してほしいと思います。


サステナビリティ学科に在籍する学生の未来について語る白井先生

卒業後の進路は、環境システム学科の実績では環境の知識を活かす職業に就く学生が多い傾向にあります。具体的には、環境コンサルタント、再生可能エネルギーの関連ビジネスなど。不動産や商業、IT企業など一見環境には関係のない分野へ就職するケースも少なくありません。複雑に絡まった問題を解決する力を養うことで、卒業後も分野を問わずに活躍できるからです。サステナビリティ学科でも、環境システム学科と同様の就職先になると考えますが、サステナビリティという名前のつく就職先がさらに増えることでしょう。

さらに言えば、先取りしたテーマを学んでいるのですから、自分で仕事を作っていくような道も目指してほしいと思います。

起業やNPOを立ち上げるなど、仕事を自ら作っていく。

そして、自由に羽ばたいて、新しい道を切り開いていく若者が増えていくことを期待しています。

公式サイト 武蔵野大学 工学部サステナビリティ学科

武蔵野大学のオープンキャンパスに関する情報 OPEN CAMPUS|武蔵野大学

白井教授も参加する武蔵野大学のオンライン講座 講座一覧 | 武蔵野大学生涯学習講座

白井信雄(しらい のぶお)
大阪大学大学院環境工学専攻修了。博士(工学)、技術士(環境部門)、専門社会調査士。民間シンクタンク勤務、法政大学サステイナビリティ研究所教授、山陽学園大学地域マネジメント学部教授を経て、2022年4月より、武蔵野大学工学部環境システム学科教授。
2023年4月に環境システム学科を発展させ、サステナビリティ学科を設置。現在、同学科教授、学科長。研究領域は持続可能な地域づくり・環境政策論・サステナビリティ学。著書に「SDGsを活かす地域づくり」「再生可能エネルギーによる地域づくり」「持続可能な社会のための環境論・環境政策論」等多数。

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