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北総クルベジ喜屋武氏インタビュー、バイオ炭でカーボンネガティブの実現へ

バイオ炭

生物資源から作られる土壌改良材「バイオ炭」が、大気中の二酸化炭素を削減できるとして、近年注目を浴びている。北総クルベジは、バイオ炭を活用し、自然の再生・循環型社会の構築を目指し活動している団体だ。バイオ炭を埋めた畑で作った“クルベジ野菜”を販売し、農家支援も行う北総クルベジ事務局長・有限会社ゆうき取締役の喜屋武誠司氏に詳しく話を聞いた。

目次

バイオ炭で“カーボンネガティブ”が可能に

――まずバイオ炭について教えてください。

未利用でバイオマス由来の炭の総称になります。「燃焼しない水準に管理された酸素濃度のもと、350度超えの温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」(2019年改良IPECガイドラインに基づく)と農林水産省は定義しています。

同じ木材でも1度使用すると、薬剤処理を施している可能性があるので、建築廃材などは該当しません。材料はさまざまで、竹や間伐材、もみ殻、果樹の剪定枝、家畜ふん尿由来など、極端に言えば、ゴルフ場の芝でも作れます。

――炭づくりはどのように行うのでしょう。

無酸素状態で蒸し焼きにしていくイメージです。無酸素状態を作れればいいので、やり方を間違わなければ、畑でも簡単に行うことができます。


無煙炭化器を使ってバイオ炭づくりを行う。


無酸素状態を作り、きちんとしたバイオ炭の方法に従えば、大きな穴を掘って作ることも可能

――バイオ炭を使うことでどのような効果が得られるのでしょう。

カーボンネガティブが期待できます。カーボンニュートラルの施策で植林などを行っていると思いますが、木は光合成している時だけ二酸化炭素を吸収し、酸素を吐きます。しかし夜になると、人間と同じく酸素を吸って二酸化炭素を吐くんです。成長している段階においては、自分の密度を上げるために多くの炭素を貯めますが、年齢を重ねるにつれて成長が緩やかになると、1日を通してほぼプラスマイナスゼロになってしまいます。

確かに、成長が止まった木を伐採して住宅などで使用すれば、その材木として利用している間は炭素を貯蓄できます。ただ、住宅だと100年ほど経過すると解体することが多い。その際に、木材を燃やしてしまうと、溜まっていた二酸化炭素が再度大気に放出されてしまいます。この繰り返しが炭素循環。この循環でうまく回っている間は、大気中の二酸化炭素が一定です。この状態をカーボンニュートラルと呼んでいます。

その一方で、今まで人類は石油や石炭などの化石燃料をさんざん消費してきました。それらの原料を燃やすたびに、本来であれば地下で眠っていたCO2が大気中に放出されています。今、温暖化の問題になっているのはこの増加分なんです。再生可能エネルギーなどを各国で進めていますが、これ以上CO2を出さないという施策であって“削減”ではないんです。

バイオ炭であれば、この“削減”が可能になる。これがカーボンネガティブの考え方です。間伐材などを原料にする場合、そのまま燃やせばCO2になるところを蒸し焼きにする。炭化することで、CO2を固定し、土の中に貯留できます。土壌改良材として農地に埋めると、この炭素は酸素と結合しません。1番短いものでも400年。きちんと炭素固定できていれば1,000~1万年は貯蔵できると考えられています。その間は大気中に戻らないので、数千年の間は“削減”できる。


原料の1つである地元の剪定枝

私たちの団体は、地元の環境団体などが山を整備した際に発生する枝や竹などを炭化し、土に戻しています。間伐材を炭にすることも多く、間伐することで残った木は成長しやすくなるので、二酸化炭素の吸収率が上がります。バイオ炭との掛け合わせにより、CO2削減の効果は非常に高くなると考えています。

きっかけは福島原発事故。未来の子供たちのためにバイオ炭の普及を


北総クルベジ事務局長の喜屋武さん

――どのような経緯でバイオ炭の活動を始めたのでしょうか。

私が経営しているゆうきは、自然食品の販売や有機農産物の卸、農作物の生産を行っている会社です。転機は、東日本大震災での福島第一原子力発電所での事故です。当時、千葉でも大気中の放射線量が高いとして問題になりました。

当時、私が生産している農作物に付着した放射線量も測定しましたが、実は基準値を下回っていたんです。それでも、風評被害から当社のものを含めて、提携している農家さんは農作物の販売に苦慮しされていました。その時に、環境問題について強く意識し、未来の子供たちのためにも、何か私にできることはないかと考えるようなりました。

バイオ炭に出会ったのは、今から10年ほど前です。あるタイの農学博士がJBNの大会で基調講演をするために来日したのですが、その交流会の席で初めてバイオチャー(バイオ炭のこと)の話を聞きました。その後、独自で調べたり、専門家の話を聞いたりするうちに、その可能性に気付き、自分でやろうと決意しました。そこで、日本バイオ炭普及会会長で、立命館大学客員教授の柴田晃先生に、「北総地域でやらせてくれないか」と直談判し、設立したのが北総クルベジです。

――そういった経緯があって、活動を始めたのですね。日本バイオ炭普及会とはどういった団体ですか。

日本バイオ炭普及会は、日本でのバイオ炭の普及に従事している団体です。当団体も、そのバイオ炭製造販売部会の会員企業に名を連ねています。

クルベジ野菜は、バイオ炭を使った農作物のブランド名です。そして、普及するために作られたのが日本クルベジ協会で、日本での販売を促進する活動を全国で行っています。


畑にまいたバイオ炭

バイオ炭により削減したCO2をJ-クレジットで販売

――北総クルベジではどのような活動を行っていますか。

北総クルベジファーマーズという生産者団体を結成しました。近隣農家が7つ加盟しています。それぞれの農家でバイオ炭を活用した野菜を生産して、「クルベジ野菜」として販売しています。ほかにも、大企業向けに環境教育実習を行ったり、近隣住民の方を招いたイベントなどを行ったりしています。

近年、注力しているのは、削減したCO2をJ-クレジットの制度を活用して販売することです。クルベジ協会として販売しているのは、1トンCO2当たり約5万円。協会全体で申請している247トンのうち、半分ほどは買い手がつきました。

今までは、バイオ炭の購入費用は農家で負担してもらっていましたが、CO2削減分をJ-クレジット化できれば、収益分を炭代に還元でき、農家支援につながります。たとえ、全額費用でなくても半分でも安くなれば、「バイオ炭を使ってみよう」と考える農家さんは増えるのではないでしょうか。

――なるほど。クルベジ野菜の販売経路も貴社で拡大できれば、さらに加盟する農業従事者は増えていきそうですね。

前述にも話しましたが、我々が目指しているのは、カーボンニュートラルではなく、カーボンネガティブ。きちんとCO2を“削減”しているというストーリーを企業が取り上げてくれるとありがたいです。

――バイオ炭はほかに特長などありますか。

「バイオ炭」は土壌改良の効果も高いことが特長です。多くの野菜は、微生物と共生関係を結んでいます。植物が光合成して得たエネルギーを、根に住みついている微生物にでんぷんとして送る代わりに、土の中にある微量要素やリンを植物の体に運んでもらう。それを共生関係と言います。

土壌も呼吸していて、微生物が土壌有機物を分解して二酸化炭素を排出していますが、炭は微生物分解ができないんです。その一方で、炭は多孔質と言ってミクロンの穴が数多く空いていて、水や空気、肥料成分を吸着させることが可能です。そのため、バイオ炭を土の中に埋めることで、微生物にとって水と空気と食料がある快適な環境になるため、炭の中に微生物が住み着くんです。微生物層が安定するので、良い土壌改良剤になるんですよ。

しかも、埋めた炭は重いので、ゆっくりと下に沈下していきます。毎年埋め続けてもほぼ問題ないですし、菌帯の住処が増えていくので、野菜を育てる時の根の環境が良くなっていきます。そのため、消費者にとっては高品質な野菜で、環境にもやさしいというストーリーができあがります。このストーリーを強調しながらクルベジの普及活動を行っていきたいです。


バイオ炭を活用した畑の様子

切れてしまった都市と里山をつなぐチェーンをまた掛け直したい

――今後はどのような活動をしていきたいですか。

クルベジ野菜を生産する拠点を増やしていきたいです。そのためには、野菜の買い手となる消費者やJ-クレジットの購入先を増やしていく必要があります。また、クルベジ野菜を販売したいという販路の拡大も行っていきます。

――日本クルベジ協会は、丸紅と企業連携もされています。

ええ。丸紅さんには、バイオ炭の農地施用によるJ-クレジットの販売代理店になってもらっています。今後は、共同でクレジットを販売していく予定です。

――最後に、地球を取り巻く環境問題についてお考えを教えてください。

大変な問題だと感じています。今もそうですが、将来の子供たちに確かな未来を残す必要があると思います。私の考え方としては、大人たちが「自然を守る」役割を次世代につなげていくことが重要だと考えます。

一般の消費者の方は、日常生活を行う際にCO2を削減しようと思うと我慢することが多くなります。でも、我慢することって続かないと思っていて。そんな中、私たちのクルベジ野菜は食べるだけで、健康になり、環境貢献にもつながります。

また、私はこんな活動をしていますが、都市の消費循環も非常に重要だと考えています。里山だけに注力してしまうと、里山のなかだけで循環サイクルは終わってしまいます。そこでバイオ炭を活用してクルベジ野菜を里山で作る一方、都市での販売を増やしていきたい。

昔の里山がなぜ保全されてきたのかというと、そこでできた竹が竿竹になって街に出ていたからです。竿竹が都市で需要がありお金を生んだからこそ、里山が整備されていたわけです。竹というのは、その年生えたものは、竿竹に使えないんです。4~5年経つと密度が上がって良い硬い竹になります。そうして硬くなった竹を切っているころに、新芽が出てくる。

そのように、都市の消費行動が里山の活性化に直結していたんです。ところが、現在は都市と里山を結んでいたチェーンが切れてしまっています。私たちは「バイオ炭」を活用して、その切れたチェーンをまた掛け直したいと思って活動を行っています。

喜屋武誠司(きゃん・せいじ)
北総クルベジ事務局長、北総クルベジファーマーズ会長、有限会社ゆうき取締役。「自然にやさしい、人に優しい、そして未来の子供たちに確かな未来を残そう」をテーマに掲げ、平成8年に有限会社ゆうきを立ち上げ、有機(陽光農法)・無農薬化学肥料農産物、無添加食品、自然食品販売、有機農産物卸などの業務を行う。福島原発事故を契機に、環境問題に対して強い危機感を抱き、現在はバイオ炭による炭素貯留という方法で、自然再生、都市と地方をつなぐ循環型社会の構築を目指し活動中。

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この記事を書いた人

映画を愛してやまない1988年生まれのライター。ゆとり世代だが、ゆとり世代ではないというのが口癖。住宅関係と金属関係の業界紙を2社経験。空き家問題、木材関係、林業、廃プラリサイクル、金属スクラップに至るまで環境に関わるものを雑多に取材している。大の酒好き。新潟の日本酒に目がない。虎視眈々と映画脚本家デビューも狙っている…。

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