京都の二条城内で行われた京都紋付による展示会の様子
株式会社京都紋付(以下、京都紋付)は、日本の伝統的な正装である黒紋付を100年染め続けてきた、老舗企業です。
冠婚葬祭の定番だった紋付を着る人が減り、業界が衰退する中、京都紋付は時代に合わせた方法で伝統産業を守る道を切り開いている、と注目されています。
伝統的な黒染め技術を活かした、サスティナブルな取り組みと伝統産業を持続させる斬新なビジネススタイルを、京都紋付の代表取締役社長である荒川徹さんからお伺いしました。
伝統産業の持続可能性 黒染め一筋100年「京都紋付」
――京都紋付は歴史ある染め物屋さんだと聞いています。これまで、どのような事業に取り組んできたのか改めてご説明をお願いします。
京都紋付は1915年の創業から黒染め一筋の会社です。
日本の伝統的な正装である黒紋付に特化した染色事業を京都で100年以上続けていましたが、昨今は和装や正装離れが進んでいます。そのため、全盛期は業界全体で年間300万反を染めていましたが、現在は5000反以下まで減少してしまいました。
黒紋付の組合員も100事業所以上は存在していましたが、現在は3事業所のみ。2022年3月に組合は解散しています。
京都紋付は日本の伝統的な正装である黒紋付を100年染め続けてきた
しかし、黒紋付は歌舞伎や祇園の芸妓、宝塚の卒業式などにおいて着用される伝統的な第一礼装であり、守るべき文化です。
伝統産業を如何に残していくのか。それを考え抜いた結果、核となる技術を頑なに守りながら、時代に必要とされる形に変化する、発展的な事業展開が必要だ、という結論に至りました。
京都紋付の代表取締役社長、荒川徹さん
そこで始めた取り組みが、染め替えによる衣類廃棄の削減と、染め替えパートナーの構築です。
染め替えによる衣類廃棄量の削減が注目を浴びる
――染め替えによる衣類廃棄の削減についてですが、どのような経緯から始まったのでしょうか。
変化する時代の中で、我々のような伝統産業がどのように生き残れるか。その方法を模索する上で、まずは自社の強みを改めて分析しました。
まずは色落ちしないこと。
黒紋付は中に白いお襦袢を着るため、汗などによって色落ちしたら大変です。しかし、京都紋付の黒染め技術は色落ちに強い作りになっているため、大きな強みだと言えます。
さらに、撥水効果があること。水を弾くため、水溶性の汚れには強く、汚れにくいです。
京都紋付の黒染めは色落ちせず撥水効果がある。そして黒より黒い黒が特徴
そして、どこにも負けない黒色こそ、京都紋付の強みです。
黒さを徹底的に追求したことで、深黒(しんくろ)加工という独自の技法を生み出し、黒よりも黒い究極の黒を実現しています。
これらを強みにして一般衣類の染め替え事業を始めたところ、アパレルメーカーからコラボレーションの依頼がくるようになりました。
有名なところで言えば、FELISSIMO、URBAN RESEARCH、伊勢丹や阪急などの百貨店とも共同でイベントを行っています。
一般衣類の黒染めも受注している。天然素材を染めるため、合成素材は染まらない。そのため、染まらない部分が思わぬアクセントになることも
そうしたイベントをいくつか続けているうちに、評判が広まったのか、広告代理店から連絡があり、環境保全団体のWWF JAPANが黒染めによる衣類再生のプロジェクトに協力してほしい、という話をいただきました。
これは「PANDA BLACK」というプロジェクトで、古着を黒に染めることで新品のように再生させ、衣類の廃棄を削減するという内容です。
このプロジェクトは東京デザイナーズウィーク2013で紹介され、さらにその様子がテレビ番組でも取り上げられたことで、知名度が一気に広がった、と感じました。
今の時代に合わせた染め替えパートナーの構築
――これほど注目された要因はどこにあるのでしょうか。
SDGsをはじめとする、時代の流れがあったと感じています。
アパレル業界は、大量生産・大量廃棄による環境問題、社会問題を常に抱えていることに加え、消費者がサスティナブルを意識するようになりました。
そうなると、企業もサスティナブルに力を入れる必要があり、衣類廃棄の削減につながる京都紋付の技術は、注目と共感を得やすい状況にあったのです。
100年以上、伝統産業を守り続けている京都紋付
ただ時代の後押しがあっただけでなく、染め替えパートナーの構築に力を入れたことも、認知度拡大の要因だったと考えています。
それは、提携いただいた企業様の自社ホームページで、京都紋付の染め替えを紹介いただく、というものですが、ただプロモーションをお願いするだけではありません。
京都紋付が無料で提供するバナーやQRコードを設置いただき、そこから受注があれば売上に応じて相当のコミッションが支払われる仕組みで、パートナーとなった企業様はSDGsに寄与しながら利益を得られる、というメリットがあります。
また、リアル店舗に京都紋付のカードを置いていただき、そこに表示されたQRコードから染め替えの受注があれば、コミッション収入が発生するという仕組みも用意しています。
多くの企業がこの仕組みを利用してくださり、次々とビジネスパートナーが増えているため、このまま進めば染め替えによる衣類廃棄削減という手段は一般的になっていくだろう、と考えています。
これからも、電車の中吊りやギフトカードなどプロモーションの手段を増やし、染め替えを広げていく予定です。
持続可能性は「かっこいい」を追求する
――衣類廃棄の問題は深刻です。これを解決するためには何が必要だとお考えでしょうか。
廃棄を減らそうと主張したり、SDGsを掲げたり、それだけで慈善活動を続けることは難しいと思っています。
やはり、利益が伴わなければなりません。
そして、お洒落である、かっこいいと感じられることも重要ではないでしょうか。
京都紋付の取り組みも、染め替えという方法でお洒落を楽しみながら、廃棄削減につながります。
協力してくれてた人が利益を得る。サービスを利用してくれた人がお洒落を楽しめる。そういうものがまとまれば、多くの人が地球環境の保全に積極的になるはずです。
我々もかっこよさを追求しながら、取り組みを続けていきたいと考えています。
――お洒落を楽しみながら衣類を削減する方法として、新たな取り組みもあると聞いています。
染め替えを前提とした洋服を作るプロジェクトが進んでいます。
その服のブランドタグに「この商品は、染め直すことで新しいデザインでお召しいただけます」と表記した下げ札を付けます。
下げ札には2つのQRコードが表示され、1つは読み込むと、染め替え後のデザインを画像で見られる仕組みです。
染め替えのビフォーアフターを確認できるQRコードを付けた洋服を販売
もう1つは商品を販売している会社の染め替え受注ページが表示されます。
つまり、消費者は2WAYファッションを楽しみ、会社は利益を得てSDGsに寄与できる。
これからも、こういった方法で技術を今の世の中に必要な形に変化させながら、伝統を守っていきたいと思います。
京都紋付 http://kmontsuki.co.jp
REWEAR「K」 https://k-rewear.jp
荒川徹(あらかわ とおる)
株式会社京都紋付、代表取締役社長。大学卒業後、京都の電子部品メーカーに数年間勤務し、20代半ばで京都紋付に入社。38歳の時に社長就任。2001年、平成21年度伝統的工芸品産業功労者経済産業省局長賞受賞。2022年、MFUマイスター認証。
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