株式会社ヒューマンフォーラムが運営するブランド「森」による古着のアップサイクル品
株式会社ヒューマンフォーラム(以下、ヒューマンフォーラム)は、アパレルブランドの展開、古着の循環を推進するだけでなく、農業に携わるなど、人と人のつながりに着目し、新たな持続可能性を模索しています。
今回、ヒューマンフォーラムの代表取締役社長、岩﨑仁志さんからアパレル業界が抱える問題や古着の可能性についてお伺いしました。また、ヒューマンフォーラムが挑戦する古着の循環に関する新しい取り組みについてもご紹介します。
人のつながりから新しい価値を「ヒューマンフォーラム」
――ヒューマンフォーラムはアパレルを中心に事業を展開していますが、人と人のつながりを大切にする、というテーマを大切にしているとお見受けします。具体的には、どのような事業を行っているのでしょうか。
ヒューマンフォーラムは、アパレルの小売業を中心に飲食業と農業に取り組んでいます。ただ、99%はアパレルの小売業です。飲食店は1店舗のみで、農業は無農薬の有機米を年に6トンほど作っています。アパレルは、SPINNS(スピンズ)、森、mumokuteki(むもくてき)という3つのブランドがあります。
SPINNS
SPINNSは「ATTITUDE MAKES STYLE(主張がスタイルをつくる)」をコンセプトに、時代のトレンドに沿いながら自分たちの主張を大切にした「スタイル提案」を続けるブランドで「ファッションは内面のスタイルや趣向を主張する」というテーマがあります。
例えば、全身パンクロックみたいな恰好の人がぜんぜん音楽を聴かない、ということはほとんどないはずです。音楽が好きだから、そういう服を着る。つまり、ファッションは内面から始まる自分の主張なのです。SPINNSは、そういった内面の主張をファッションとして見せていこう、という考えでやっています。ターゲットは10代とか20代前半といった比較的若い人たちで、ユースカルチャーを作ってきたブランドだと思っています。
それから、SPINNSは農業も行っています。これは、15年前に洋服屋の在り方について話し合っていたことがきっかけで始まりました。洋服屋のスタッフは、25歳で入社して10年も勤めたとしたら、若者が来るようなお店に販売員として立ち続けることは難しい。それで居心地の悪さを感じたスタッフにとって居場所となる何かが作れたら…と考えた結果、年齢関係なく雇用できる、農業はどうか、という話が出たのです。他にも、自給率の低い日本が経済破綻したときに備え、お米くらいは自分たちで作れるようになっておきたい、という話もありました。
ヒューマンフォーラムが所有する田んぼでお客様と田植え体験
その後、「ヒューマンフォーラムみんなの家」を建て、周辺で農業を始めました。現在はお客様や京都市内の障害者施設の方と一緒にカレーを作ったり、できた野菜で夏野菜カレーを作ったり、コミュニケーションの場としても活用しています。
森
森は進化型古着屋という形で始めました。「森」という名前は、森が豊かな生態系の循環によってエコシステムを成り立たせている様子をイメージしたものです。一番の特徴は、古着のアップサイクル品を取り扱っていること。社内にデザインが得意な人がいて、縫製や柄の組み合わせを得意とする人もいるので、古着のリメイクを1から行えています。そんな古着のアップサイクル品は、嬉しいことに、それなりに高い値段でもお客様に購入してもらえています。それは、古着の新しい価値創造ができている証だと考えられますし、古着リメイクの認知を広める役割も果たしている、と捉えています。
森による古着のアップサイクル品
他にも、90年代の日本で売られていた花瓶をリユースしています。国内やバンコクなど、服の買い付けの際に仕入れているのですが、これが思った以上に人気で、少し驚いています。
mumokuteki
mumokutekiは洋服の販売を軸としていますが、ビーガンカフェ運営やアンティーク家具のリペア販売を行っています。コンセプトは「いきるをつくる」で、服を着ること、食べること、使うこと、これらを改めて意識できる場所であってほしい、という想いがあります。例えば、お米や味噌は買うものと認識している人がほとんどだと思いますが、本当は誰かが1から丁寧に作っているものです。そういうことを意識するために、田んぼや味噌の加工工場を作ったり、ワークショップを開催したりしています。こういった活動を通して、自分たちの意識も、お客様の意識も変わっていけたらいいな、と。
mumokutekiという名前の由来は、コミュニティって何でも目的があって集うもので、目的がなければ輪に入りににくいものですが、目的がなかったとしても集まれたり、立ち寄れたりする店、といった肩の力が抜けた感じをイメージしています。目的がなくても、色々なタイプの人が集まれる。そんな場所であってほしい、と思っています。
海外で体験した古着業界の問題と魅力
――アパレル業界は頻繁に社会問題や環境問題との関係が指摘されていますが、実際にそれを感じた機会はありましたでしょうか。
それは日々感じていることですが、最初に強く意識したきっかけは、20年前にアメリカへ仕入れに行ったときのことでした。当時のアメリカでは、古着に携わる仕事は社会的に立場の弱い人たちのものでした。表現は悪くなってしまいますが、古着の仕事はごみを扱うことと同じだからです。だから、白人が古着を触ることはほとんどありません。黒人がやるのかと言ったら、そうではない。黒人を雇うと盗みがあったり破損があったり、事件が起こると言われていたからです。では、古着をビジネスにしている白人がどんな人を雇うかというと、不法入国でやってきたメキシコ人です。彼らを最低賃金で雇い、ごみとして集められた古着を捌かせる。そんな社会問題の一端を見ました。
ただ、労働者のメキシコ人たちは、楽しそうに仕事をしていたことは印象深く記憶に残っています。さらに、一年後に再会すると古着ビジネスで儲けてメルセデスベンツに乗っている人もいて、驚くと同時に古着業界の魅力も感じられました。
海外で古着が取り引きされる様子
環境問題で言うと、パキスタンやインドでそういう状況を目にしました。先進国から出た古着の行先が、この辺りの国になっていて、物凄い量がごみとして運び込まれているのです。先進国は自国のごみを自分たちで処理するのではなく、海外へ送るという感覚があるように思えます。それがパキスタンやインドのような国にとって経済的なメリットがあることは理解していますが、ごみ焼却の影響で空がどんよりと曇っているところを見ると、何とも言えない気持ちになります。
中国でもごみの塊が大量に積み上げられていて、先進国の10分の1くらいの人件費で雇われた人たちが、それを処理するため一生懸命に働く姿を見ました。ただ、アメリカで見たメキシコ人と同じように、みんな楽しそうに働いているのです。お金がなくても目が輝いていて、バイタリティがある。先進国のお金がある人たちは、裕福であっても不安を抱えていて自殺も多い。それを考えると何が正解かわからなくなります。
こういった経験があったから、今も社会問題や環境問題に強い関心を持っています。僕に限らず、古着のバイヤーはさまざまな地域で色々な人を見ているせいか、比較的にグローバルな視点を持ちやすいのではないでしょうか。
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アパレル業界が抱える廃棄問題
――アパレル業界が抱える問題と言えば、過剰在庫やそれに伴う廃棄問題が特に注目されていると思います。
これについては、アパレル業界の誰もが悩んでいることで、僕たちも同じく悩んでいます。
売上の最大化を目指すとしたら、どうしても在庫を積まなければなりません。しかし、売れ残ってしまったら大幅な値引きをするか廃棄することになり、売上にロスが発生します。それは売れた分の利益をゼロにしてしまうくらい大きなロスです。だから、余分に在庫を積まなかったとしても利益は同じ程度になるのではないか、と考えて8年ほど前から、そういう売り方はやめています。
廃棄については、ブランドのイメージを守るために行うことがほとんどだと思います。特にハイブランドの場合、10万円の服を半額にして売れなかったとしても、100円で売るわけにはいかない。そうなったら廃棄するしかありません。
こういったスパイラルを抜け出す方法の1つが古着だと思っています。服のリユースがもっと浸透すれば、過剰在庫や廃棄が抑えられて、新たに服を作る必要性が薄れることも考えられる。ごみ削減を謳うとき「リデュースを心がけよう」と呼びかけることもありますが、そういう入り口もより、リユースを広めた方が効果的ではないでしょうか。
株式会社ヒューマンフォーラム代表取締役社長 岩﨑仁志さん
ちなみに僕たちの店舗では、新品も古着も扱っていますが、これがリユースを広めるきっかけになる、と考えています。なぜなら、古着に興味のない方が来られたとしても、店舗の一角にある古着を目にして興味を持ってもらえることもあるからです。新品と古着、両方が用意されていたら、お客様にとっては選択肢が増える。どちらを選ぶかはお客様次第ですが、古着に対する抵抗感を払拭する機会になり得るはずです。
もし、服に限らずあらゆる店舗に新品と中古品が同じ数並ぶようになれば、多くの人にリユースの魅力がリーチしやすくなる。さらに、店舗側も中古品の方が新品よりも粗利がいいと気付いたら、インパクトは大きいでしょう。
大量生産・大量消費から抜け出す方法として、社員とこういう話をすることもありますが、新品の比率を下げたとしてビジネスモデルは成立するのか、という壁にぶつかることもあります。だから、もう少し古着の売上が高くなるよう努力しなければならない。そのためにも、国内で古着の回収を行いながら、販売数を増やせるよう、試行錯誤しています。
古着の循環を進める新しい取り組み
――今後、古着が循環する仕組みを推進するため、新たなプロジェクトを開始すると伺いました。
9月中旬から京都信用金庫と協力して、服を回収する取り組みを始めます。まずは今年度中に京都市内を中心に、古着の回収ボックスを100ヵ所設置する予定です。回収場所はSPINNSや京都信用金庫の店舗、ジェイ・エス・ビーが管理する学生マンションなど。これにより、2023年2月までに45トンの古着(18万着相当)を回収し、40トンのごみ削減、1,895トンの二酸化炭素を削減できると考えています。今後は回収拠点を300ヵ所まで増やし、年間360トンの古着(144万着相当)を回収することが目標です。
SPINNSや京都信用金庫の店舗に設置される古着の回収ボックス
僕はファッションよりも古着が循環する仕組みの方が好き、といった気持ちもあります。だから、不用なものが必要な人の手に渡る仕組みを作って、ごみがごみではなくなる社会を京都から作っていきたい。そんな風に考えています。
参考:株式会社ヒューマンフォーラム https://www.humanforum.co.jp
岩﨑仁志(いわさき ひとし)
株式会社ヒューマンフォーラム代表取締役社長。趣味:サーフィン、ランニング、釣りなど、自然を感じることが好き。アパレル小売ブランド【SPINNS】、【mumokuteki】、【森】など約60店舗を直営とフランチャイズ化で展開しています。約30年前の創業時より、すべての店舗でUSEDとNEWを取り扱い、ファッションを通してその人らしい自由な自己表現や、自己変容のきっかけを提供しています。2022年9月より、本社のある京都で、不用品の回収ボックス事業を開始。
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