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プラスチックリサイクルを進める中国系企業 愛知県と埼玉県のリサイクル工場を訪ねた

明文産業の工場は、愛知県豊橋市の田園地帯にあった。地域住民との関係も良好だという
杉本裕明氏撮影 転載禁止

プラスチックのリサイクルを進める動きが強まっています。使い捨てのプラスチック製品はできるだけ使わないことは大切ですが、それでプラスチック製品がなくなるわけではありません。プラスチックは社会に有用で、なくすことはできません。そこで、使い終わったプラスチックを回収し、元のプラスチックに戻したりするリサイクルが重要な役割を担うことになります。それを担うリサイクル業界で、最近、中国系のリサイクル業者が気を吐いています。

業者が集まり、「アジアプラスチック資源促進協会」を設立し、30の企業がそれぞれリサイクルに取り組んでいます。中国系企業の動きを紹介しましょう。

ジャーナリスト 杉本裕明

目次

良質の廃プラ手に入れ、ペレット製造

愛知県豊橋市にある明文産業(福永りえ社長)は、田園地域の一角にある。本社兼工場を訪ねると、大量の廃プラのフレコンバックが山積みされていた。フレコンバックを見ると排出元の企業名が書かれてあった。トヨタ自動車関連の一流企業の名前が幾つもあった。フレコンバックの中の廃プラはいずれも非常にきれいで、「価値のあるものが廃プラなんて」と思えるものばかりだ。創業者の一人でもある営業担当の翁芳芳さんは「商社を通したものもあるが、ここまで来るには何年間も苦労しました」と語る。


敷地には、持ち込まれたプラスチックの不用品が並んでいた
杉本裕明氏撮影 転載禁止


リサイクル業への熱意を語る翁芳芳さん
杉本裕明氏撮影 転載禁止

翁さんの案内で工場に入った。ペレットの製造が粛々と行われていた。手選別の労力を省力化するために、センサーによる選別装置から押出機に送り、ペレットの原料ができていた。ここでも手選別は省略化され、自動選別装置が威力を発揮していた。
これはマレーシアの同社の工場で数年間かけて開発し、導入したものだという。この工場では高機能再生材の生産を行っているという。


ペレットの原料となる持ち込まれたプラスチックの不用品は、みな、きれいだ
杉本裕明氏撮影 転載禁止


製造されたペレットは高品質だ
杉本裕明氏撮影 転載禁止

豊橋の本社工場の応接室にマレーシアの工場で生産しているペレットのサンプルが陳列してあった。PP、PE、ABSなど計8種類あった。
翁さんは「種類はもっと多い。日本では大量の廃プラ調達が難しいので製造の主力はマレーシアの工場で年2万トンのペレットを製造し、製品の一部は日本に輸入されている。工場は米国の安全試験機関の認定工場にもなっている」と語る。

豊橋と世界を結ぶ

同社は、翁さんの弟で当時一緒に愛知大学に留学していた翁文斌さんが2007年に起業した。資金は中国で事業家だった父親が出してスタートし、姉の芳芳さん も卒業すると同社に入社した。

当初は取引先の確保に苦労した。芳芳さんは「伝手もなく、会社を訪ねて回ったり、電話をかけてアポをとって会ってもらったりしました。最初は会ってくれませんでしたが、数社が興味を持ってくれ、取引先が増えていった。やりがいを感じます」

今、取引先は数百社を数え、愛知県の大手処理業者は「廃プラを取引してくれ、安心して任せられ、感謝している」と高い評価を受けているようだ。それでも工場を進出する時は大変で、芳芳さんは「地元の自治会に受け入れてもらわないといけないので、見学会や説明会を幾度となく開き、納得してもらいました」と語る。

マレーシアの工場の責任者で取締役の翁文斌さんに取材した。マレーシアの工場は、年間2万トンのペレットを製造し、同社の稼ぎ頭だ。インドなどにも工場があり、中国、フランス、チェコ、タイ、ベトナム、日本などに輸出し、豊橋市の本社が、海外のネットワークを管理している。


翁文斌さんは、海外との連携していくことの重要性を語った
杉本裕明氏撮影 転載禁止

翁文斌さんは「マレーシアの工場は、自動化や選別機能を高めるためにコニカミノルタと共同開発し、高効率洗浄選別技術や最先端のポリマー技術によって高性能の再生材の生産を行うことができました。コニカ社との付き合いは、同社から出る廃プラを扱ったのが縁です。サーキュラー・エコノミーを通じて企業の社会的価値の創造を実現したい」と語る。

マレーシアの工場では、再生ペレットを製造し成型メーカーに売却、複写機の部品、バイク、ボトル、レジ袋、CDなどが製造され、一部は日本に輸出されている。

国際連携が必要だ

日本では、海洋プラスチック問題が顕在化し、中国が輸入禁止措置に踏み切ると、それまで廃プラのリサイクルの多くを中国に依存していた体質を改め、国内循環を国の方針としている。かつて国の審議会で、コンサルタント会社の委員がリサイクル資材の国際循環を進めるべきだと発言したところ、複数の委員が「国内循環を優先すべきだ」と反論し、先の委員が発言を撤回したことがあった。

しかし、国内循環を国是にしても、実際に再生品を求める市場が形成されないと、せっかく造った再生原料の行き先に困る。さらに高度なリサイクル製品を造るためには単一素材の原料を集めることが不可欠だが、日本は複合素材が多いのが大きな障害になっている。そんな状況からか、翁文斌さんはこう語る。

「マレーシアに工場を建てたのは、日本より単一素材を容易に集めることができるから。だから日本よりも高品質の再生原料と製品を造り、それを日本に供給することができる」

この工場が供給したペレットを原料にマレーシアで複写機やCD、レジ袋が製造され、一部は日本に供給されていると言う。

協会は、環境省が国内向けの販売を条件に廃プラのリサイクル施設設置の補助金を交付していることについて、「国内では需要が少なく輸出に回さざるを得ない」と、輸出用の施設に補助金が出るか確認したが、「国内向けに限る」と言われたという。滞留した廃プラの多くは現在、焼却処分されているが、今後国内向けに再生原料が大量に製造されることになって、果たして市場が形成されているのだろうか。

小規模工場を配置し、リサイクル

「不信感を払拭するためには実際に工場を見てもらいたい。国や自治体の人たちにも見学してもらっている」

そういう和円商事(東京都)の本多敏行社長の案内で、埼玉県にある二2つの工場を訪ねた。本多さんは中国ハルビンの生まれで上海の大学を卒業した。そして、技術者として日本製鉄の子会社で働いた後日本に渡り、1998年に和円商事を起業し、廃プラのリサイクルを始めた。

「鉄や銅はリサイクルの歴史が長いのに比べてプラスチックはまだ浅い。そこにチャンスがあると思った」と本多さんは語る。

同社は、全国に20の工場・支店を持ち、年商は約60億円。工場の規模が小さいのは「廃プラは軽くてかさばり輸送費がかかるので、集める範囲を半径35キロ圏と決めたから」(本多さん)だ。


埼玉県小川町の和円商事嵐山工場を案内する本多社長
杉本裕明氏撮影 転載禁止

埼玉県小川町にある嵐山工場を訪ねた。丘陵地の斜面沿いに建物があり、大量の廃プラスチックが積み上げられていた。フレコンバックの中を見ると、工場から運び込まれたきれいな廃プラが多い。やや汚い廃プラは隣にある和円商事の子会社の工場が請け負う。嵐山工場に入ると、作業員がペレットの押出機を操作していた。投入された再生原料がそばのように押し出され、切断されてペレットができあがる。


ペレットになる前の状態で押し出し機から流れてくるリサイクル原料。そうめんのようだ(羽生工場)
杉本裕明氏撮影 転載禁止

次に羽生市にある羽生工場を訪ねた。羽生工場は嵐山工場に比べてかなり大きい。最新鋭の中国製の選別機があった。センサーで廃プラの品質を確かめながら定量を送り出す装置で、ペレットを製造している。望月豊工場長は「作業員が手選別しなくてもいいように導入した」と言う。

外国人がリサイクルを担う


中国製の選別装置を説明する望月豊羽生工場工場長
杉本裕明氏撮影 転載禁止

この工場で作業員を指導していたのはエンジニアのブリアン・タルミニさんだ。タルミニさんは「日本製の機械は故障が少ないので、幾つかのパーツを日本製に切り替えようと考えている。羽生工場に来て4年たったが、やりがいのある仕事だ」と笑顔で話した。

工場は柔らかい廃プラのフィルムからペレットを製造する工程と、硬質の廃プラからパレット製造の原料となるフラフを造る工程との二つのラインに分かれる。破砕したフラフは国内でパレットを造るメーカーに販売し、ペレットはマレーシア、ベトナムなどの東南アジアや台湾向けが多い。


埼玉県羽生市の羽生工場の全景
杉本裕明氏撮影 転載禁止

フラフの製造工程にはセンサーで異物を感知する自動選別機があり、製造機への送り出しをコントロールしている。インドネシアにある和円商事の工場で、メーカーの協力を得ながら2年間実験して製品を開発、この工場にも導入したという。その開発に携わっていたのがタルミニさんだった。

和円商事の強みは、工場や物流関係から買った廃プラの大半が、リサイクルしやすい単一素材であることだという。高価な光学選別機で素材ごとに分けなくて済み、しかも造ったペレットを高額で販売できる。

中国の輸入禁止で国内リサイクルが進展

中国が2017年暮れから生活系の廃プラ、18年暮れからは工業系の廃プラの輸入禁止に踏みきり、それまで廃プラの処理を中国に頼っていた日本や欧米諸国は激震に見舞われた。中国系の企業は以前から日本に進出し、主に工場から出た不良品のプラ製品や端材などの廃プラスチックを買い付け、工場でペレット、細かく破砕したフラフ、圧縮したりし中国に輸出してきた。

ところが、中国の輸入禁止で方針転換を迫られることになった。元々中国国内にはリサイクル工場が数多く、国内工場を閉鎖した後、多くの業者は東南アジアや日本に活路を見いだした。しかし、「元々リサイクル技術や経営ノウハウのない業者が多く、その多くが撤退、消滅した」と、プラスチックリサイクルを行う亜星商事社長の山下強さんは語る。

日本国内で地道に廃プラリサイクルに取り組んできた和円商事、亜星商事、明文産業などの中国系企業30社が集まり、2019年末に「アジアプラスチック資源促進協会」が設立、本多敏行和円商事社長が会長に選ばれた。設立集会には、環境省の産業廃棄物規制課長も祝辞を述べ、滞留する廃プラの国内リサイクルへの期待感を語った。

秋には本多会長が環境省を訪ね、環境再生・資源循環局長に面会し、「協会の理念と目指すべき姿を語り、理解していただいた」(本多会長)という。環境省は2020年に「プラスチック資源循環戦略」を策定し、マイルストーンは、2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクル、2035年までに使用済みプラスチックを100%リユース・リサイクル、2030年までに再生利用を倍増と高い数値目標を掲げている。

2022年4月にはプラスチック資源循環促進法が施行され、プラスチックリサイクルの機運が盛り上がっている。

アジアプラスチック資源促進協会の狙い


明文産業の工場の中では社員がリサイクルに取り組んでいた
杉本裕明氏撮影 転載禁止

2019年に誕生した協会の加盟社は30社。工場や物流施設などから出たきれいな価値のある廃プラスチックを買い取り、リサイクル工場でペレットやフラフなどの再生原料を製造したり、圧縮梱包したりする企業からなる。明文産業も和円商事も、有価での取引のため、廃棄物処理業ではないという。本多さんは、協会設立の狙いについてこう語っている。

「私たち中国系の企業は元々、東南アジアの国やインドなど各国で協会をつくっていたのですが、日本にはなかった。中国が2017年暮れから廃プラの輸入禁止になり、私たちも日本でお互いに情報を交換し、結束して行動していかねばならないとの認識が深まりました。それが協会設立の一番の要因です」

「私たちは廃棄物処理業者ではなく、あくまで有価でプラスチックを購入し、再生品を造る製造業者です。しかし、リサイクルを大きく進めるためには、処理業者が保有する良質な廃プラを購入したいし、再生品を造る際に発生する残渣の処理を御願いすることが増えます。つまり、お互いの連携が必要になると考えたのです」

会員企業がまとまって工業団地に進出し、再生プラスチックの供給基地にしようと考えているという。

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この記事を書いた人

朝日新聞記者を経て、フリージャーナリスト。廃棄物、自然保護、地球環境、公害など、環境の各分野に精通する。著書に『ルポ にっぽんのごみ』(岩波書店)『ディーゼル車に未来はあるかー排ガス偽装とPM2・5の脅威』(同、共著)、『環境省の大罪』(PHP研究所)、『赤い土(フェロシルト) なぜ企業犯罪は繰り返されたのか』(風媒社)、『社会を変えた情報公開―ドキュメント・市民オンブズマン』(花伝社)など多数。NPO法人未来舎代表理事として、政策提言や講演会などをしている。

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