近年は温暖化が進み、気候変動がさまざまな影響をもたらしています。
そんな状況を若い世代の人たちも注目し、改善のための行動を呼びかけています。
前回に続き、神戸石炭訴訟や気候変動の問題に対し、学生のころから活動を続ける、今井絵里菜さんのインタビューをお届けします。
若い世代による気候変動に対する活動
――神戸の石炭火力を巡っては、今までどのような活動を行ってきたのでしょうか。
私が訴訟に関わり始めた頃は、石炭火力の問題が広くメディアで取り上げられることはほとんどなく、
周囲に運動や石炭のリスクに関する話をしても、初めて聞いたような受け取られ方をしていました。
意外と近い(大学から3キロ)ところで既に2基の石炭火力発電所は稼働しているものの、
今のところ自分たちの日常に影響を与える問題でもないし、問題として扱われる場面が教育現場でもないからです。
そんな状況の中、若い世代に広く知ってもらうためには、運動の見せ方や伝え方を考えなければならないと考えました。当時の私は、何かの反対運動に参加した経験がありませんでした。神戸の石炭火力に抗議する市民グループの中にはご高齢の方も多く、若者からすると参加しづらい地味な住民運動に映っていました。工夫する点として例えば、最初から石炭火力反対!と主張するのではなく、まずは気候変動について関心を持ってもらうことから始めようと心がけました。
そのころ、スウェーデンの環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんのストライキが始まっていました。今では有名な彼女が気候ストライキを始めたのは、2018年の夏ごろでした。
やがて運動は「Fridays For Future(未来のための金曜日)」と呼ばれ世界に広がり、その波は日本にもやってきます。
私は就職活動のさなかの、2019年2月に日本で最初に行われた気候ストライキ(と当時は呼ばず)、東京の国会議事堂前で行われた街頭「スタンディングアクション」に運よく参加しました。
その後、京都や神戸で、気候ストライキの活動を広げました。これらの活動にリンクさせる形で、神戸石炭訴訟も知ってもらえるのではと考えました。
神戸でのFridays For Future の活動。
Fridays For Futureの活動として行った、人を集めてプラカードを掲げながら街を練り歩くマーチへは、思ったより多くの人が参加してくれたので、大きな成功体験として印象に残っています。しかし、そこから石炭火力の問題に関心を持ってもらい、何らかの形で運動に参加してもらうのはやはり難しかったです。
最近では政府が「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」ことを発表するなど、脱炭素の動きがニュースでも取り上げられるようになりました。
このようにメディアの影響で石炭火力の問題にも関心を持ち始める人は増えてきましたが、自らの活動の中ではその輪を全く関心のない層に広げることは困難で、もどかしさを感じています。
また、関心を持ってもらったからと言って、具体的にどんなアクションを提示すれば良いのか。例えば傍聴に来て頂きたいと思っていますが、皆さんが思い描いているような裁判所での議論はほとんど飛び交いません。自分が傍聴することで何が変わるのかと思う人はいるでしょう。
しかし、こうして私が取材を受けるだけでも、一定数以上の人が問題を知り、ニュースになれば反対派の声も露わになることでしょう。
問題の周辺で常に新聞やWebのメディアに取り上げられたら、ある程度のプレッシャーを与えられると考えます。
この問題の周辺では常に住民や原告が声を上げ、それを途絶えさせない。そういう活動を2年間続けています。
気候変動に対し私たちもできることはある
――これからの気候変動の問題に影響を与えるかもしれない神戸石炭訴訟について、多くの人に伝えたいことはありますか。
実は、行政訴訟の結審が今月1月20日にあります。残された時間は少ないので、この問題に関心を持ってくれた人は、ぜひSNSなどであなたの意見を発信してほしいと思います。
今までは会社のビルの前で抗議活動や、駅前でビラ配りなどを行っていましたが、コロナ禍の中で思うように活動できない期間が続いています。
この問題を「多くの人が注目している」ということを何かしらの方法で示して頂きたいです。
神戸の石炭火力を巡っては民事訴訟がまだ続きますし、行政訴訟もどんな結果になっても控訴となる可能性が高いです。他にも横須賀で同じような裁判が進行しています。
参考:横須賀石炭訴訟 https://yokosukaclimatecase.jp/
世論も脱炭素に関心を持ち始め、メディアが取り上げてくれることが増えたことで、企業が世間の目を気にすることは今まで以上に増えるでしょう。
そういった中、企業がサスティナブルな経営を意識し、石炭火力では経済メリットがないと判断したことから、裁判の進行中に発電所の建設を中止した事例もあります。今後、この問題が日本全体で訴えられていくことで、石炭火力発電所の新設を止められます。
次の世代は気候変動にどう向き合う?
――これからの世代の人たちに、気候変動問題や環境問題を意識することについて、何か伝えたいことはありますか。
気候は危機的な状況だと言われても、温室効果ガス自体は目に見えず、誰もが自然災害の被害を受ける訳ではないため、その影響を実感しにくいものです。しかし些細なことでも、もう少し「想像力」を働かせてほしい。
そして、生活の一部に余白を作ってほしい。日々の生活が忙しければ考える余裕はありませんが、今日の夕飯の食材はどこからやってくるのか、これくらいなら簡単でしょうか。自分の行動によって何が起こるのか。現代の生活様式は環境に相当な負荷を掛けていることに気づくでしょう。このように普段の生活で少し深呼吸して、環境問題や気候変動について考える時間を作ることから始めてほしいです。
問題の解決、気候変動においては気温上昇を食い止めるにはあらゆる手段を尽くす必要があります。それらの手段は、個人のライフスタイルの変化、適切な政策・経営方針、国家を超えた枠組み、この3つに大きく分類されると活動を通じて考えてきました。
私ははじめ、プラごみや食品廃棄の問題に関心を持ち、周りの人を、消費者を変えようと考えていました。もちろん、それも大切ですが本当にこれで問題が解決されるのか限界があるのではと感じた瞬間もありました。 政策に関心を持ち始めてからは、大きな企業や政府が変わらなければ、と考えるようになったのです。
傍聴後の報告会で他国の若者の運動を紹介する様子。
最後に、余裕がある人は企業や政府に意見を届ける活動に参加してみましょう。石炭の問題に着目するのなら、もちろん石炭火力発電の建設について反対の声を表明することが重要なのです。が、「なら、どうやってエネルギーを賄うの?」という反論も返ってきます。 ただ反対意見の声を上げるだけでなく、再生可能エネルギーに移行する社会の実現に向けて力を貸してほしいです。
コンセントに流れる電気には、色はついておらず様々な発電方法によって発電された電気が混ざっています。知らないうちに石炭火力発電を応援している、ということもあります。 今は電力会社の見直しもできる時代です。だとしたら、自分は環境に負荷をかけない再生可能エネルギーを取り扱う会社を選ぶことも一つの抗議アクションです。そのような形で普段よりも「想像力」を働かせて日々の生活で感じる違和感を最終的に社会を変えるエネルギーに変えていってほしいと思います。
神戸石炭訴訟 ~子どもたちにつなぐ未来を今、つくるために~ → https://kobeclimatecase.jp/
神戸の石炭火力を考える会 → https://kobesekitan.jimdo.com/
Japan Beyond Coal 石炭火力発電所を2030年までにゼロに → https://beyond-coal.jp/
今井絵里菜(いまい えりな)
1996年生まれ。国連の気候変動に関する会議への参加やドイツへの留学を機に、国内のエネルギー事情に危機感を覚え、政策提言や気候ストライキ・マーチの運営、神戸の石炭火力発電所をめぐる訴訟の原告などさまざまな活動を広げてきた。現在、社会人1年目。再生可能エネルギーを取り扱う会社に在籍している。
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