最近は、音楽を聴くとき、パソコンやスマートフォンからストリーミング再生で、という人も増えています。
しかし、1950年代~70年代に流行した、ポリ塩化ビニルを用いたレコード盤も根強い人気があり、今も愛好家は数多く存在します。
そんなレコードのある生活をお届けするのが、株式会社ユーズドネットが運営する「Vinyl Delivery Service」です。
今回は、Vinyl Delivery Serviceの代表、関塚林太郎さんにレコードの魅力や、リユースの重要性、環境への影響を語ってもらいました。
目次
中古レコード専門店「Vinyl Delivery Service」とは
Vinyl Delivery Service(ヴァイナル デリバリー サービス:以下、VDS)は、インターネットを中心に中古レコードなど音楽メディアを販売する、リユースサービス。
販売に限らず、レコードのあるゆったりとした生活をテーマに、ポップアップショップの出店やイベントの企画など、音楽による癒しの世界を提供している。
VDS誕生の経緯
インタビューに答えるVDS代表の関塚さん。
VDSのサービスを始めたきっかけは、家電から楽器まで多くのリユース品を扱う、株式会社ユーズドネットのECから、レコード専門として派生する形だった。
2018年の8月から、前身となる「テンテコマイレコード」によって中古レコードの販売を開始。
テンテコマイレコードでは、オールジャンルのレコードを取り扱っていたが、さらに特定のジャンルに専門性を強めた、VDSが2018年の10月に誕生。
2019年の2月から3月の間には、新宿マルイ メンで、最近では2020年3月13~23日に吉祥寺パルコで期間限定のポップアップショップを出店していた。
現在はイベントへの出展、海外との取引を強化、多くの人に音楽が届けられる仕組みを広めている。
VDSの音楽性
VDSで取り扱っているジャンルは、ジャズを中心にアフリカン、ワールドミュージックなどのジャンルの音楽が、数多く集まっている。
なぜ、VDSではそのようなジャンルを取り扱うのか質問したところ、代表の関塚さんが自身のルーツと共に語ってくれた。
「VDSの音楽性がジャズ中心になったのは、僕の子供時代が大きく関係しています。
父親がパーカッションをやっていた影響で、小学生の頃にドラムを始めジャズを聴くことが多く、ある時から音楽を聴くことに集中するようになり、 そのときから、スピリチュアルジャズやジャズと親和性の高いアフリカンやワールドミュージックなどのジャンルも関心を持つようになりました。
それから、たくさんの音楽に出会い、その中でも特に面白いと思ったものが、VDSで取り扱うジャンルに反映されています」
VDSはどんな人におすすめ?
VDSのレコードの在庫。様々なジャンルのレコードが並んでいる。
VDSが取り扱う音楽はどのような人におすすめか聞いてみると、関塚さんは「ダンスミュージックに近い音楽を好む人と、リスニングとして音楽を好む人の、中間くらいの雰囲気を目指している。リスニングで踊れるというのがひとつのコンセプトかと思います」と語る。
「例えば、ジャズ喫茶などで流れてくる、60年代のジャズを好む人は年配の方が多い傾向にあると思います。 逆にダンスミュージックを聴いている人は若い傾向にあります。 それぞれ聴くジャンルに偏りがあったりするけど、みなさんいろんな音楽を掘っていて、そういった方々が新しい発見をしてくれる場所になってくれれば嬉しいです。」
VDSでは日本であまり見ないレコードばかりだ。ジャズやスピリチュアルなど、リスニング音楽の中でも、専門性が高いもので、レコードの現物が手に入りにくいものを探している人にはおすすめだと、関塚さんは言う。
レコードで広がる音楽の世界
レコードを通して、取引先やイベントなど、音楽の世界が広がることが多い、と関塚さんは語る。
買い付けは足を使って関係性を作る
VDSが扱う珍しいレコードたちは、どこから仕入れているのか。基本的には、年に数回、フランスのマーケットやディーラー、ショップから買い付けている。
フランスはアフリカとの関係が強く、面白い音楽が集まりやすく、他にもドイツやオランダ、イギリスへも買い付けに行くようだ。
ただ、いいものは簡単に手に入らず、海外のディーラーたちと関係性を作ることが重要になるそうだ。
「一か所にいいものが集まると言うことは、絶対にありません。
そのショップやディーラーさんにとって、一番いいもの、というものがあって、それは量も限られていれば、入荷のタイミングもあります。
だから、買い付け先との関係性はしっかり作らなければなりません。
気にいったお店に自然に通ううちに、ショップの方や、向こうのディーラーの方に自分が集めている音楽を少しずつ理解してもらうんです。 自分で棚からレコードを探すよりも、会話をしながら、お店の人にレコメンドしてもらったレコードの方がほとんどです」
また、買い付けを行う上で、日本人であることは有利に働くらしい。
「日本人というだけで、たくさん買うだろうと認識されるし、礼儀正しいと思ってくれるんです。
少し会話しただけで家に招待されて、一緒にご飯を食べて、店に出ていないレコードを紹介してくれることもあります。
基本的に地元の人には、そんな対応はしないそうです」
このような買い付け先との関係性を大事にすることで、また次の仕入れにもつながるそうだ。
「こうやって行くうちに、買い付けの可能性が広がるんです。 何度も通って関係性が深まっていけば、お互いどのような音楽に興味があるのか分かってくるし、ストックもしてくれる。だから、買い付けのときは、気に入ったところに何度も行くことが多いです」
有名DJから広がった関係性
このような関係性を作る行為が、別の広がりを見せたケースは他にもある。
VDSが「FFKT 2019」に出展したときのことだ。
(※FFKTとは、長野県木曽郡木祖村のこだまの森で開催される音楽フェス。ジャズやヒップホップなど様々なジャンルのアーティストが出演する)
関塚さんがブースで待機していると、出演者である有名なジャズDJ、ドナ・リーク(Donna Leake)を見かけた。
ドナ・リークに、VDSのブースでもプレイをしてくれないか、と提案したところ、快く引き受けてもらった。
しかし、ドナ・リークのマネージャーが拒否したため、実現せず、つなぎとして関塚さんがDJとして音楽をかけることになった。
すると、ドナ・リークがそれを聴き、VDSに関心を持ってくれたのだった。
そこで、ドナ・リークと親しくなったことで、別のつながりもできて、イギリスでVDSのポップアップショップを出店することになった。
6月もドナ・リークを日本に呼んで、フェスに出演してもらう計画も進行中だ。
このように、たまたま話しかけたことで関係性ができて、さらに別の関係性へと発展することは少なくない。
そして、新しいイベントの企画や、レコードを売る機会にもつながっていくのだ。
レコードとリユース
レコードは1950年代~70年代に広く使われていた音楽メディアであるため、リユースの世界と関係が深い。
レコードのリユース品としての魅力とは、どういったところにあるのだろうか。
VDS一押しのレアなレコード
レコードの売買に携わると、大変な掘り出し物に遭遇することもある、と関塚さんは語る。
中でも、高価値である一推しのレコードを紹介してもらった。
Don Cherry – Brown Rice
1975年に発売したドン・チェリーのBrown Rice。
スピリチュアルジャズの大御所、ドン・チェリー(Don Cherry)のアルバム「Brown Rice」。
このアルバムの魅力について、関塚さんはこう語った。
「これは、ドン・チェリーがインドやアラブを旅した後に作ったアルバムです。
そのため、音楽やジャケットからもその要素が強く表現されています。
再発盤も出ていますが、これは1975年に出たオリジナルで、フランスを訪れた際に、やっとの思いで手に入れました。
名曲ぞろいですが、中でも3曲目の「Chenrezig」は素晴らしい曲です」
VS Quartet – A Pou Zot…
1986年に発売したヴィクトール・サバスのA Pou Zot… 。
フランス海外領ギアナのベーシスト、ヴィクトール・サバス(Victor Sabas)が率いたカルテットによる、スピリチュアルジャズの隠れた名作。
こちらについても魅力を語ってもらった。
「これは名作ですが、ほとんど知られておらず、世に出回っている数も少なくて、再販もありません。
フランスのバンドメンバーの一人から、直接オリジナルを手に入れることができました。
マイナーですが、音楽性は素晴らしく、このジャンルが好きな人であれば、高い価値を付けると思います。
実はこのアーティストについて、僕も存在を知りませんでした。
親しくなったフランスのディーラーにすすめられて、実際に聴いたら素晴らしくて、仕入れることにしました。
一週間、ディーラーのもとに通い続け、関係性を作ったからこそ、やっと出てきた一枚です」
レコードの価値が上がる理由とは
レコードの定価は1,000~3,000円だ。しかし、中には時間を経て価値が上がるものがある。
なぜ、レコードの価値が上がるのか聞いてみたところ、基本的には三つの理由に分かれるそうだ。
「いくつかある中で、まずは骨董に近い部分で価値が付く場合があるかと思います。CDとして再発されていなければ、データベース化もされず、それを聴くにはレコードしかない。さらに、レコードの枚数も限られていたら、値上がりするのはイメージできると思います。
他にも、話題性で価値が上がることもあります。例えば、有名なアーティストが亡くなられたタイミングで、その方のレコードも値上がるというパターンです。
アーティストに人気がない場合でも、音楽性が優れていれば、ディーラーが高い価値を付けることもあります。人気がないアーティストだと、出回っているレコードの数も少ないので、必然的に価値もつり上がります」
仕入れの際、大変な掘り出し物が一度に出てくることもあるらしい。
ジャズのコレクターが、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)やジョン・コルトレーン(John Coltrane)など、ジャズの名盤のオリジナルを500枚ほど売りたいと申し出てきたこともあった。これは一つ一つの価値が高く、総額で400万ほどになった。
他にも、1枚で20万近い、価値のあるレコードも出てきたこともあったとか。
まだまだ眠っている、お宝のようなレコードがこの世界には存在しているようだ。
レコードのリユースと環境への影響
プラスチックによる環境問題を真剣に語る関塚さん。
レコードは原材料に、ポリ塩化ビニル(PVC)が使われている。最近では環境に配慮し、回収されたプラスチックごみを再利用したレコードもある。
レコードを扱う上で、環境への負荷を感じることがあるか、関塚さんに聞いてみると、神妙な面持ちで答えた。
「この仕事に携わっていても、プラスチックによる環境問題は身近に感じます。
一度、ある輸出業者の大きな倉庫の中で、レコードが天井に届くほど山積みになっているのを見ました。どうしているのか尋ねると、カバーと盤を分けて、紙とプラスチックとして再利用しているとのことでした。
しかし、レコードに使われているプラスチックは、質のいいものとは言えません。
それを再利用となると、コストもかかるし、排出される二酸化炭素なども考慮すれば、どちらかと言うと環境に悪いと思います。
中国がプラスチックの輸入を規制してからは、どこのプラスチック業者からも厳しいと言う声を聞きます。
だとしたら、再利用するコストを下げることや、これから作るプラスチックを減らすことを考えなければなりません。
しかし、既に作られたレコードやCDをどうするべきなのか、という話にもなります。
だから、レコードをリユースする仕事は、意義があると僕は思っています。
中国では不要になったレコードを壁や床に貼り付ける、装飾品として使っていると聞きますが、それではレコードが可哀想です。
だけど、売れないものは絶対に出てきます。それをいかに減らすか、ということも最近はよく考えます。
今は、日本で売れなかったレコードをコンテナに積み込み、海外で直接販売する。
海外なら、日本で売れなかったものが、評価されることもあります。そういう音楽の楽しみ方をする人が増えれば、売れなかったレコードたちにも再び価値が生まれると思います」
今後のサービス展開
VDSは今後も様々な広がりを計画している。
まずは、ホームページのリニューアルや、ポップアップショップの開催。
他にも「FFKT 2020」への出展の予定がある。このイベントでは、福岡の音楽コミュニティ・スペースである「Desiderata(デシデラータ)」と組み、良質なサウンドシステムを構築したリスニング空間を作るそうだ。ここに海外のアーティストを呼べば、今まで日本ではなかったようなムーブメントを作れるのでは、と関塚さんは考えている。
また、今はインターネットによる販売がメインだが、実店舗を作る予定も少なからずあるようだ。
「実店舗は出したいのですが、現状ではオンラインにフォーカスしたいと考えています。 今、イギリスを行き来して、一緒にやりたいと言ってくれている人もいるので、海外での展開もあるかもしれません。 現状はポップアップショップをやりながら、可能性を探しているところです。 今は難しいけど、1年後には実現したいです」
レコードの魅力とは
最後にレコードの魅力について語ってもらった。
CDやストリーミングとは違う魅力
実際に音楽を流しながらレコードのよさを語る関塚さん。
昨今ではCDも全盛期を過ぎ、ストリーミング再生で音楽を聴く人も増えた。
そんな中で、根強くレコードを支持する人がいる理由とは、どのような魅力があるからなのか。
「CDやストリーミングとレコードでは、聴き方が大きく違います」と関塚さんは言う。
「カバーからレコードを取り出し、針を置いて音楽を聴く。これだけで、CDやストリーミングとは別のアプローチだし、その行為自体も楽しい。
モノがないストリーミングと違って、レコードやカバーはコレクションアイテムになるし、これをどこに置くのか考えるだけでも、また違う楽しみ方ができます。
聴き終わった後もライナーノートが楽しめて、これを読めばアーティストのバックグラウンドや音楽性も理解できます。
また、CDやストリーミングに比べると、レコードはデジタル音が少なく環境音に近いそうです。
だから耳も疲れず、脳へのストレスが少ないのだとか。
レコードのこういった要素が、今でも人気がある理由だと思いまます」
個人的に好きなレコード
ツトム・ヤマシタのレコードを紹介する関塚さん。
数々の音楽を耳にしてきた関塚さんに、今一推しのレコードを尋ねた。
「最近は、ツトム・ヤマシタの『The Man From The East』ですね。
1973年に発売された、舞台のサントラとして作られた作品です。
中でも曼荼羅という10分くらいの曲があって、スピリチュアルジャズの中でもアバンギャルドな音です」
VDSのレコードに興味がある方は
VDSからレコードを購入したい方、買取サービスを利用したい方は、公式ホームページからご連絡ください。
3月中旬には、ホームページのリニューアルが予定され、レコードの視聴が可能になることも予定されています。
また、(※※今後のイベント情報を記載します※※)も予定している。
Vinyl Delivery Serviceの公式ホームページはこちら → https://vinyldeliveryservice.com/
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