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環境産業の職場探訪② 小池翔平(29歳)契約取った時の達成感が何ともいえない

本社営業部で、スクラップや電子基板、中古品の「商品仕入」を担当する小池翔平さん(29歳)。入社して、半年間中古家電の検品や荷下ろしなど現場を経験した。「このようなものがお金にかわるんだ」。その時の新鮮な驚きが忘れられないという。

その後は、営業一筋で、よりよい商品を求めて企業や自治体を回る。「100件あたって契約までたどり着くのは1件か」。でも大きな契約を取り付けた時の達成感が、営業職の醍醐味なのだという。

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大学で学んだ知識で専門職を目指したが

東京都出身の小池さんは、都立高校から獨協大学国際関係法学科に進んだ。大学のホームページによると、法律学や政治学の知識と語学力を身につけることで、国際的なリーガルマインド(法的感覚)を持って活躍できる人材の育成を目的にしている。小池さんも両方を学べると考えて選んだ。

1年生の夏、大学の授業の一環として、オーストラリアのウーロンゴン大学で学んだ。中学ではサッカー、高校ではバンドを組み、ドラムをたたいていた小池さんは、大学では知的財産のゼミに入り、卒論も著作権についてのものだった。著作権も扱う知的財産管理技能検定の資格(3級)もとり、この道に進もうと思った。

だが、いざ就職となると違う。「音楽の著作権を管理している会社に入りたいと思ったのですが、面接で『本当にやりたいの?』と聞かれ、うまく答えられなかったんです。本当にやりたい仕事なのか、よくわかっていない自分の存在に気がついたんです」

大学で学んだことを生かすならと、法務担当の職種を求めるメーカーも受けた。しかし、これもあてがはずれる。「受けに来るのは大学院で法律を学んだ人たちばかり。僕のような学部生が行くところじゃなかった」

大学の先輩から話を聞き、営業職も視野に入れることにした。

ベンチャー企業の内定断り、浜屋に

関心のあったベンチャー企業にあたった。そのひとつ、通販系の会社はインターンシップ制をとっていた。3年生の冬から参加すると、4年生になった時の本番の面接で有利になると聞かされた。体験したインターンは、社員と学生が共同で新規事業を考えるというものだった。それを無事にこなし、小池さんはその後の面接を通過、最終面接も無事終わり、内定をもらった。

ところが、小池さんは、せっかくの内定を断ってしまった。定期的にその会社を訪問し、就職活動の報告を求められて、次第に息苦しくなったのに加え、社員と話す機会が増え、仕事の内容に魅力を感じなくなってしまったからだという。

そんな頃、浜屋の説明会に出てみた。就職情報サイトにある条件を入れると、それにふさわしい会社のベスト5に浜屋がランクされていた。「本当かな」。説明会には20~30人の学生が来ていた。その日にはグループワークがあった。コーヒーショップの机と椅子の配置を数人で話し合って決めるという課題だったという。

数日後、「面接に来てほしい」と連絡があった。二次面接が通った後、最終面接をひかえた小池さんはこんなことを考えた。ホームページで得た知識をもとに志望理由を言ったところでたかがしれている。それなら何がやりたいかを提案してみよう。

最終面接の日がやってきた。社長と総務部長、営業部長の3人に向き合った。
「私はこういうことのできる会社だと思います」。小池さんが出したのはフィリピンのスモーキー・マウンテン。「子どもたちに資源を拾ってもらい、適正価格で買ってあげたら、子どもたちの生活もよくなり、浜屋の収益もあがるのではないでしょうか」

社長の隣で耳を傾けていた営業部長が言った。「考えることは評価したいが、『適正価格で』という裏で、果たして輸入できるのか、危ない人がついていないかと考えると商売を行う環境はない。でも、君がそういう考えを持ちながら学んでいくことはできる」。小池さんの前向きの姿勢を浜屋は歓迎した。

飛び込みで契約を勝ち取る

入社すると、家電など中古品の買取店舗で研修を半年間受けた。「こういうものがお金になるのかと驚いた」。作業は重い家電を運ぶので、あちこちの筋肉が悲鳴を上げた。

ようやく慣れて半年たった頃、小池さんを営業部の仕事が待っていた。先輩社員について一般企業や行政機関を回った。リユース可能な中古家電や金属くず、電子基板を買い取る。自治体の清掃センターにも足を運んだ。

仕事の概要がわかったところで独り立ちである。企業によって発生する「モノ」は異なる。最初は「そんなもの扱ってないよ」と言われることも多かったという。しかし、何回も顔を出して、契約を1件、2件とるようになると、「あそこも扱っているよ」と、社長が他社を紹介してくれる例も出てきた。

産廃業者を訪ねた。破砕前の廃家電を見てこんなふうに持ちかける。「破砕する前に、手解体で家電から基板を取ってもらえませんか。高値で買います。それにそうすれば破砕ごみが減りますよ」。関心を持った責任者を浜屋に招き、仕事の中身を知ってもらった。

けれど、実際にはそんなとんとん拍子に話が進むわけではない。「100件当たって契約にこぎつけるのは1件か。うまくいかないと、自分のこのせいで取れないんだと思い悩むこともあります。でも、だからこそ契約できた時の達成感は何物にも代え難いのです」

2018年春、係長に昇進した。営業部は部長以下6人。今は大手企業をターゲットに据える。「テーマを持って営業することが大切だと思う。最初は権限のない人しか出てくれなくても、関心を持ってもらえたらいい。今後は、これまで手をつけてこなかった新しい業界や分野を開拓し、仕事につなげていきたい」と、小池さんは話している。

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この記事を書いた人

朝日新聞記者を経て、フリージャーナリスト。廃棄物、自然保護、地球環境、公害など、環境の各分野に精通する。著書に『ルポ にっぽんのごみ』(岩波書店)『ディーゼル車に未来はあるかー排ガス偽装とPM2・5の脅威』(同、共著)、『環境省の大罪』(PHP研究所)、『赤い土(フェロシルト) なぜ企業犯罪は繰り返されたのか』(風媒社)、『社会を変えた情報公開―ドキュメント・市民オンブズマン』(花伝社)など多数。NPO法人未来舎代表理事として、政策提言や講演会などをしている。

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