MENU

バーゼル条約締約国会議で汚い廃プラスチックが輸出の規制対象にすることが決まった

廃プラの輸出業者の敷地には、大量の廃プラが積み上げられている
杉本裕明氏撮影 転載禁止

マイクロプラスチックによる海洋汚染が問題となり、廃プラスチックをどう処理するかが課題となっています。そんななか、4月下旬から5月中旬にかけてジュネーブで開かれたバーゼル条約第14回締約国会議で、汚れた廃プラスチックを条約の規制対象にすることが決まりました。その裏にはどんな思惑があったのか、これからどうなるのか。交渉の舞台の内幕を明かしながら解説します。

ジャーナリスト 杉本裕明

目次

バーゼル条約とは

バーゼル条約は、有害廃棄物の越境移動に関する条約で、条約の対象となる有害な廃棄物のリストに入ると、輸出する相手国の政府の同意が必要となり、また輸出の際に政府に申請し、許可を得ることになります。例えば、1999年に日本から、バーゼル法の対象ではない古紙がフィリピンに輸出されましたが、その後、マニラ港の税関の調べで、古紙に医療廃棄物などの有害廃棄物が混入していることがわかりました。フィリピンでは新聞などで大きく報道されたことから、日本政府が現地調査し、日本政府の判断で日本に持ち帰って焼却処理する出来事がありました。輸出した業者は廃棄物処理法違反容疑で逮捕されました。

筆者はその時、逮捕された栃木県の事業者の事務所を取材しましたが、業者は借金に苦しむ中、借金取りに追われ、古紙の中でも不良品とされるものの中に異物を混入させて輸出していたようです。

もともとバーゼル法は、1988年にココ事件と呼ばれるイタリアの業者がナイジェリアのココ港に有害廃棄物を投棄したことが発覚、イタリア政府はその有害廃棄物を船に積み込み、他の港に陸揚げしようとしたのですが、行く先々で寄港拒否にあい、公海上をさまよいました。またその前にはセベソ事件があります。これは1976年にイタリアのセベソで農薬工場が爆発し、ダイオキシン汚染によって大量の従業員と地域住民が被害を被り、地域の土壌が汚染されました。ところが、ドラム缶に封印されていた大量の汚染廃棄物が持ち出され、83年に北フランスで発見されたのです。

これらの有害廃棄物の越境移動事件が発端になって1989年にバーゼル条約が採択されました。その後、対象物を広げる改正が何回か行われ、今回に至っています。

締約国会議のメーンテーマは廃プラスチック

今回の締約国会議の主題は、汚れた廃プラスチックの扱いです。海洋汚染を招くマイクロプラスチック問題が、大きな地球環境問題となり、プラスチック問題は、環境大臣会合などでも話し合われてきました。汚れた廃プラスチックはリサイクルしたり、処理・処分したりすることが難しく、きちんとした処理施設がない場合は、不適正処理によって環境が汚染される可能性があります。

バーゼル条約では、定期的に各国の政府関係者らが集まり、どのような品目をバーゼル条約の対象にするかなどを話し合っていますが、締約国会議が開かれる前の事務的な会議で、ノルウェー政府が汚れた廃プラスチックの輸出について、条約の対象品目に加え、相手国の同意が必要とするよう求めました。これに対し、日本政府も同調しました。

今回の締約国会議では、両国がその主張を先導し、各国の賛同を得て決まったものです。環境省が5月14日に報道発表した締約国会議の概要を見ると、この内容が書かれ、「この改正付属書は2012年1月1日から発効します」とあります。しかし、そのあとにこんなただし書きがあります。「なお、今回の付属書の改正は、『汚れたプラスチックごみ』の輸出を禁止するものではありません。付属書改正の発効以降は、汚れたプラスチックごみの輸出に当たって、輸出の相手国の同意が必要となります」

読売新聞は「輸出禁止」と間違った報道

実はこれは、読売新聞が5月10日付朝刊1面でこんなことを書いていました。「プラごみ輸出停止へ」の大見出しで、間違った報道をしたことに起因しています。新聞記事は「政府は、プラスチックごみの海外への輸出を実質的に停止する方針を決めた。(中略)早ければ来年夏以降、年間100万トンに上る廃プラが新たに国内で処理されることになる。(中略)政府は廃プラ輸出を規制するための省令改正や運用指針の策定を行い、来年夏頃に輸出を停止する」

これを読むと、汚れた廃プラは輸出が禁止されるとなりますが、これは環境省がただし書きで、説明しているように、相手国の同意があれば従来通り輸出できるというものです。ただ、これまでは、バーゼル法の対象品目でなかったので、輸出業者と輸入業者が契約すれば直に廃プラが海を隔てて運ばれていましたが、これからは、輸出しようとする業者が政府に届けると、その内容を政府は相手国の政府に通報します。その政府は輸入する業者に確認の上、輸出を認めるか認めないかの判断を輸出国の政府に連絡します。かなり手続きがはん雑となりますが、これまで日本から100万トン以上の廃プラが東南アジア各国に輸出されていたのができなくなるというわけではありません。

読売新聞の記事を読むと、社会部の記者が書いているようで、ジュネーブで開かれた会議で、環境省のブリーフィングを受けた外報部の記者がかかわっていなかったことからこのような誤った記事になったのではないかと思われます。

何をもって汚い廃プラというのか?

汚い廃プラはバーゼル条約の対象となるが、即輸出禁止になるわけではない
杉本裕明氏撮影 転載禁止

それより問題は、何をもって汚い廃プラとするのか、その線引きです。実は、これをめぐって、締約国会議でも議論になりました。最も強硬なのが、廃プラ輸入を禁止している中国です。中国は、これまで通り輸入を認めているのがペレットにした廃プラです。それ以外はすべて禁止していますが、例えば家電製品の廃プラで、洗浄し、きれいな状態で破砕された品質の良いものでも輸入禁止されています。締約国会議では、その線引きを適用するよう各国に提案しましたが、これは正当な理由がなく、各国の同意は得られませんでした。むしろ、この中国のペレット以外の廃プラはすべて輸入禁止するとの措置は、WTO(世界貿易機関)違反になる可能性の高いものです。WTOは現在、この中国が2017年夏に行ったWTOへの通報がWTO違反になるかどうか審査しているとも言われています。

そのため各国は、締約国での論議をまとめ、中国の強硬な意見を取り下げさせるために、合意文書に「中国のとった措置はWTO違反とは認められない」との趣旨を入れることとなり、中国の同意を取り付けました。中国政府は、強硬な意見を言ったために、各国がそれをなだめるために、WTO違反でないとのお墨付きを出すことになったようです。結局、漁夫の利を得たのは、WTO違反になるんじゃないかと気をもんでいた中国政府だったようです。

汚いプラスチックにもいろいろある

自販機などから回収された事業系のペットボトルは汚い。汚いペットからきれいなペットにするには?
杉本裕明氏撮影 転載禁止

では、何をもって汚い廃プラというのでしょうか。一つには、中身が残ったペットボトルのようなものがあるかもしれません。しかし、こうした外見だけでなく、処理の難しいものが含まれてもいいのかもしれません。例えば、塩化ビニルはそもそも燃やすか埋めるしか手のない、リサイクルの敵といってもいいものです。

塩ビは、ダイオキシン汚染が社会的に大問題になった1990年代に遡上に乗せられました。塩ビを清掃工場で燃やすと、ダイオキシンが発生します。また、塩素が焼却炉に悪影響をもたらし、一番の大敵でした。いまは高温で燃やしてダイオキシンの発生を防いだりしていますが、悪影響を与えていることは間違いありません。

あるリサイクル業者はこう言います。「うちの工場では廃プラを原料にして固形燃料のRPFを製造し、ボイラーの燃料に使ってもらっているが、塩素が含まれるとボイラーが腐食する恐れがあって、RPFに含まれる塩素は限りなくゼロにするように求められています」。塩化ビニルは原油からプラスチックを製造する時の副産物で、それを有効活用しようと製造されています。耐久性に優れるので配水管などに使われていますが、消費者におなじみのサランラップをはじめとするラップ類にも広く使われています。ちなみにドイツでは塩ビをラップに使うようなことをしていません。環境汚染と共にリサイクルの障害になるからです。化学物質と廃棄物の専門家である循環資源研究所の村田徳治所長は「塩ビは副産物として出てきたものを何とか使おうと考えてでてきたもの。もちろん、塩ビが必要な製品はあるが、ラップ類も含めて世の中に氾濫している」

また、臭素系難燃剤などが廃プラによく含まれています。プラスチック製品の物性を良くし、また燃えにくくするために混ぜて使われていますが、こうした有害性のある物質がリサイクルをやりにくくしています。こうした点も考えて、汚い廃プラと汚くない廃プラの線引きをしてもらいたいものです。

海洋汚染をもたらすマイクロプラスチックを減らすには、プラスチック製品を長く使い続けるとともに、リサイクルしても長く使えるような超寿命のものに利用することが重要です。そして使い捨てのプラスチック製品を減らしていくことです。品質の良いリサイクル製品をつくるためには、プラスチックを構成している混合廃棄物を単一素材に分けてリサイクル原料にすることが重要です。その意味では、中国のペレットは良し、それ以外はすべてダメという線引きはかなりおかしいものです。同じペレットでも幾つもの素材が混じった混合プラからは粗悪品しか造れず、すぐに廃棄されてしまうからです。

当面は国内のリサイクル強化と東南アジアで

2018年に廃プラ100万トンが輸出された

JETRO(日本貿易振興機構)によると、2018年に日本から海外に輸出された廃プラは約100万トンあります。マレーシアが22万トン、台湾が18万トン、タイが19万トン、ベトナムが12万トンなどとなっています。中国への輸出がダメになり、インドや東南アジア諸国に輸出されていた分も、今後順次規制が厳しくなると見られています。

環境省は、国内でリサイクルする量を増やそうと、リサイクル施設をつくる際の補助金を増やしています。一方で、行き場のなくなった廃プラが、国内に約100万トン近くたまっているとして、緊急避難的に自治体の清掃工場に受け入れてほしいと思っています。今後、自治体に働きかけるとしていますが、そもそも家庭ごみを燃やすために造られた清掃工場に、産業廃棄物の廃プラを燃やすのはどうなのか。周辺住民の同意も必要なだけに、そんなにすぐに自治体が動くとは思えません。

また、廃プラ処理をしている廃棄物処理業者からはこんな懸念の声も出ています。「自治体は事業系ごみを非常に安い料金で受け入れている。その基準でもし廃プラを受け入れ始めたら、自治体の製造工場が、処理業者の強力なライバルになり、料金の値崩れを起こして仕舞うのではないか」

いずれにしても、様々な関係者が参加して、どのような方法が良いのか、オープンな場で話し合うことが大切だと思います。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

朝日新聞記者を経て、フリージャーナリスト。廃棄物、自然保護、地球環境、公害など、環境の各分野に精通する。著書に『ルポ にっぽんのごみ』(岩波書店)『ディーゼル車に未来はあるかー排ガス偽装とPM2・5の脅威』(同、共著)、『環境省の大罪』(PHP研究所)、『赤い土(フェロシルト) なぜ企業犯罪は繰り返されたのか』(風媒社)、『社会を変えた情報公開―ドキュメント・市民オンブズマン』(花伝社)など多数。NPO法人未来舎代表理事として、政策提言や講演会などをしている。

コメント

コメントする

目次