中古品を積んだ軽トラックがリユース業者に次々と列をつくった。
杉本裕明氏撮影 転載禁止
山田暁子さんは、近畿地方で不要品回収業の仕事を始めて16年になる。山田さんは、軽トラックで地域の家電販売店を回って家電製品や電子機器のリユース品を集めたり、お客さんの自宅を整理し、リユース品を買い取ったりして、国内向けの業者や浜屋に売却している。「日本はすぐにものを捨て、贅沢すぎる。私の仕事は、使われないままごみになってしまうものをもう1回新しい利用者に届けてやること」と山田さん。回収したリユース品を手放すとき、リユース品に向かって心の中でこう呼びかけているという。「新しい持ち主が使ってくれるんやで。生き返るんやで。ありがとう」
職業変遷の後、この仕事に定着
居酒屋、運送業など幾つかの仕事をへて、この仕事に就いたのは16年前。夫と離婚し、女手一つで子ども3人を育て、ようやく独り立ちし始めた頃だった。知人から「一緒に仕事をやってみないか」と誘われた。軽トラックで、家電店や住宅を回って中古家電を引き取り、リユース店や輸出会社に売却する仕事だった。知人が運転席、山田さんが助手席に乗った。中古家電が山のように集まり、滑り出しは上々だった。
ところが、しばらくして知人は仕事を怠け始め、2年後にはすべてを山田さんに任せっきりになった。お客さんに鉄のスクラップや大きな家具の引き取りも頼まれ、1人では大変だった。息子たちに相談すると「自分の仕事の空いた時間に手伝ってあげるよ」。知人の軽トラックを借りるのをやめて独立した。
息子はトラックの運転手の仕事の合間に助けてくれていたが、しかし、それにも限界はある。「やっぱり私、1人でやるよ」。山田さんが息子たちに告げて独り立ちしたのは2008年のことだった。
リユース品は浜屋と自分の店で販売
山田さんは、他の多くの回収業者のようにチラシを撒いたり、軽トラックにスピーカーをつけて住宅街を回ったりしていない。定期的に回るのは家電店と決めている。さらに親しくなった解体業者からリユース品を分けてもらったりしている。それを浜屋に持って行く。「買い取り品目が多く、高く買い取ってくれる。社員も挨拶してくれて気持ちがよい」というのが山田さんの浜屋評だ。
不要品回収業者さんが、リユース品の輸出業者に持ち込み、相談している。
杉本裕明氏撮影 転載禁止
一方、浜屋以外にもリユース品の持ち込み先はある。実は、山田さんは、ホームセンターの一角を借りて、中古家電、食器、衣服や、ぬいぐるみなどの雑品を陳列、販売しているのだ。「テナントとして入ったと言ってもせいぜい机5つ分ぐらい。テナント料は格安ですが、売り上げの2割を店主のオーナーに払う約束があります。商品を効率よく回転させ、利益をあげるのは大変なことです」と、苦労を語る。
「生き返るんやで」と呼びかける
山田さんは、集めたリユース品を売り渡す時、リユース品に向けて心の中で呼びかける。「新しい持ち主が使ってくれるんやで。生き返るんやで。ありがとう」。国内で不要とされても、それが途上国の人々の手に渡り、再び使われていることに思いをはせると、この言葉が自然と出てくるというのだ。
ところで、「ごみを集めて回っていると偏見を持つ人はいまも無くならない」と言う山田さんだが、過去には不快な思いを何度も味わった。警察官に止められ、「ごみを運んでいるんだろう」とか「盗品じゃないのか」と詰問され、その都度、山田さんはリユース品の行き先を伝え、仕事の正当性を訴えた。
一般社団法人日本リユース・リサイクル回収事業者組合(JRRC)の存在を知り、会員になった。認証シールを軽トラックの前部に貼ってからは、呼び止められることもなくなったという。
「まだまだ走り続けますよ」
3人の息子たちも独立し、山田さんのいまの生きがいは、このリユース業だという。
最近、力を入れているのが、家屋の整理の仕事だ。家電店などからの紹介で、「自宅の整理をしてほしい」と頼まれる。ひとり暮らしで、これから老人ホームに移るというケースが多いが、依頼した人の家に一歩踏み入れるとみな不要品の山という。「これはリユース品に」「これはごみ」と分別していくと、最後に残るごみは少量になる。ごみは処理業者に処分してもらい、リユース品は低額で持ち主から買い取り、売却先に転売している。
山田さんは家の整理の際、依頼者にこんなことを言う。「これはごみではないよ。みな、生き返るんや」。そして、これらがコンテナに詰めて途上国に送られ、人々がそれを使ってくれることを伝える。「ものを大切にするというのはすごく重要なこと。私の仕事がそれを助けている。だからこの仕事は楽しいし、生きがいにもなっている」
今乗っている軽トラックは不要品回収業に携わってから4台目になる。ややくたびれた軽トラに目をやり、山田さんが笑った。「随分走ったからね。まもなく買い替えの時期を迎える。でもまだまだ走り続けますよ。みなさん、ご協力お願いします」
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