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不要品回収業者さん②・アース工房 佐藤好以さん 不要品を徹底的に選別すると、残ったごみはほんの一握りに

最近は遺品や引っ越し整理を中心にしていると語る佐藤さん。
杉本裕明氏撮影 転載禁止

アース工房を経営する佐藤好以さんは、軽トラックで住宅街を回る通常の回収方式でなく、引っ越しや家人の死亡に伴う遺品整理に特化したリユース業を営んでいる。「不要品からリユース品に使えるものを徹底的に除いていくと、残ったごみはほんのごくわずか。あとは価値のあるものばかりなんです」。「ごみ」を価値あるものに生まれかわらせるなんて、まるで錬金術師ではないか。

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不要品を選別・整理していた

東京都杉並区の住宅街の一軒家を訪ねると、家の前に屋根付きの白い2トン車が横づけされていた。解体される予定で、家主は引っ越していない。整理を依頼された佐藤さんは、妻と一緒に部屋のなかでひたすら仕分けをしていた。ただの片づけ仕事をしているように見えるが、そうではなかった。

部屋に入ると、どんなものがあるのか確認し、選別を始める。テレビ、オーディオ製品、食器、衣類ーー。それらを空いた部屋や廊下に整理して置く。それを車に積み込み埼玉県所沢市にある倉庫に運び込む。一軒あたりほぼ一週間かかるという。

佐藤さんが言う。「選別せずに全部ごみとして出したらごみ収集車で10台を軽くこえます。でも、選別してリユースできるものを取り除いてやると、ごみは驚くほど減る」。1部屋当たりごみ収集車1台以上のモノがあるが、選別のあと、ごみとして残るのは45リットルの袋3個程度という。驚異的だ。

一般家庭ですべてごみ処分すれば100万円近くかかる。佐藤さんは、選別・整理の作業費(1時間当たりの料金を設定)から費用の見積もりを出し、そこからリユース品の価値の一部を値引きしている。残ったごみは家主が廃棄物処理業者に頼んで処理してもらうが、ごみが10分の1ほどに減るのでこの方がはるかに安い。

佐藤さんは、埼玉県所沢市にある倉庫にいったん運び込み、ネット販売用、浜屋に買い取ってもらうリユース品といった具合に仕分けする。「浜屋さんは高く買ってくれるし、その後、途上国でリユース品として使われているか確認する仕組みもあって信頼できる。社員も親切だ」と評価する。


不要品回収業者のトラックがリユース業者のもとに持ち込んだ。
杉本裕明氏撮影 転載禁止

オーストラリアで1年間旅をした

仙台市で育った佐藤さんは、宮城県の大学に進んだ。友人とバイクで全国を旅した。美術が好きで、それが生かせないかと内装の仕事に就いたが、「やはり合わない」と退職。オーストラリアで1年間、ワーキングホリデーを経験し、バイクで全土を回った。

帰国後、幾つかの仕事を経た後、物干し竿の販売会社に入った。軽トラックに物干し竿を積み全国各地を販売して回る。

「旅ができるのが性に合っていた」と佐藤さんは言う。東北から九州まで車で売り歩く日々が続いた。でもそんなに売れるものではない。会社に戻るたび、上司は「もっと売ってこい」と叱責した。ノルマを課せられる仕事は自分にはむりだと感じた。

そんな頃、同じように住宅街を回る軽トラックに引きつけられた。スピーカーで「入らなくなった物はありませんか」と呼びかけている。不要品回収業者だった。「僕にもできるんじゃないか」。ある回収業者から話を聞いた。いらなくなった物がお金になるという話に新鮮さを感じた。個人で独立してやれるところが自分に合っているんじゃないか。

知り合いから中古の軽トラックもらい開業

「古くなったからいいよ」と、知り合いが中古の軽トラックを譲ってくれた。2010年、個人事業主として独り立ちし、「アース工房」と名付けた。最初は軽トラックにスピーカーをつけ、練馬区や杉並区を回った。「住宅街をぐるぐる回っていた。が、そう簡単に出してはくれない。効率が悪い。

そこで回収日とどんな品目を集めているのかを記載したチラシを各家庭に配った。家庭が出した後回収する「ピックアップ回収」というやり方である。地図をコピーし、どの地区をいつ回るか、地区割りした。これだと効率がいいし、お客さんと顔なじみにもなれる。佐藤さんに会うのが楽しみで、玄関で待っている主婦もいる。「ミシンを持っていってもらおうかしら。まだまだ現役だよ」。「ありがとうございます」。会話が弾み、別の人を紹介してくれる客も増えた。

ただ、こんな業者もいる。「やられた!」。朝、チラシを撒いた住宅街を回ると、玄関にチラシが置いてあるが、物がない。早朝にこっそり回って盗っていってしまうのだ。

それでも自転車、鍋、扇風機、電子レンジ、パソコン、ファンヒーター、掃除機、コンポ。荷台がリユース品で埋まっていくのを見ると、充実感を感じた。

お客さんに感謝されるのが回収業の仕事

やがて「アース工房」の商標登録を取り、所沢市内に倉庫を借りた。半年に一回、都の環境局の職員が来て、伝票の点検を受ける。

15年にピックアップ方式をやめ、まるごと家の選別・整理へと業態を変えた。なじみの固定客から依頼されたのがきっかけだが、夫婦でこの仕事に取り組める利点もあった。

佐藤さんはこの仕事に確かなやりがいと満足感を感じている。そしてこう語る。

「以前のように役所や警察が、ごみを運んでいるのではないかと疑いの目で見ることは減ったが、それでも回収業者に偏見を持つ人は多い。ごみを減らし、物を長く使い続けられ、さらにお客さんに感謝される。そんな仕事はそうないと思うのですが」

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この記事を書いた人

朝日新聞記者を経て、フリージャーナリスト。廃棄物、自然保護、地球環境、公害など、環境の各分野に精通する。著書に『ルポ にっぽんのごみ』(岩波書店)『ディーゼル車に未来はあるかー排ガス偽装とPM2・5の脅威』(同、共著)、『環境省の大罪』(PHP研究所)、『赤い土(フェロシルト) なぜ企業犯罪は繰り返されたのか』(風媒社)、『社会を変えた情報公開―ドキュメント・市民オンブズマン』(花伝社)など多数。NPO法人未来舎代表理事として、政策提言や講演会などをしている。

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