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不要品回収業者さん①エコ・R 金沢瑠希さん 人から感謝される仕事はそうはない

金沢さんは将来の夢も大きい。
杉本裕明氏撮影 転載禁止

不要品回収業者とは

「不要品がありませんか」とスピーカーで街を流して回る軽トラック。日曜日の朝に不要品を玄関先に出してくださいと書いたチラシを配る業者ーー。
 家庭を回って不要品を回収する人々は、日本の「リユース業」を支えるなくてはならない存在だ。リユースとは、再使用のことを指し、循環型社会をつくるための循環型社会形成推進基本法では、まず廃棄物の発生抑制(リデュース)、再使用(リユース)、再利用(リサイクル)、適正処理の順位で行うことが明記されている。

不要品回収業者は、人が使わなくなり手放した中古製品を別の人に手渡し、使ってもらうという再使用の重要な役割を担っている。リサイクルよりも役割は上位に位置する。
にもかからわず、この人たちは、国や自治体から、あたかも違法なことをやっているかのような扱いを受けてきた。廃棄物を扱うのは自治体から許可された業者に限られているが、不要品回収業者はその許可を持っていないからだという。

しかし、思い起こしていただきたい。不要品回収業者が各家庭を回って集めるのは、中古品の製品や廃棄物ではない鉄のなべとかいわゆるスクラップ原料といわれるものである。もちろん、引き取る際にお金をとる行為は禁止されているのに、堂々と消費者に手数料とか運賃とかの名目で費用を請求する業者も一部にはいる。こうした業者のおかげで、まじめにやっている業者がいわれなき中傷をされている。

ここで不要品回収に携わる3人を紹介したい。この業種に入ったきっかけと、毎日の営みを語っていただいた。

ジャーナリスト 杉本裕明

金沢瑠希さんは株式会社エコ・R(埼玉県北本市)の経営者だ。1.5トン積みのトラック5台は社員3人と金沢さんが運転し、常にフル稼働状態。お客さんから電話などで連絡を受けて引き取りに行く大量仕入れの方式で、荷台はリユース品でいつも一杯だ。「人から感謝される仕事はそうはない。『ありがとう』とお客さんに言葉をもらうと、やってよかったと思う」と金沢さん。リユース品の回収に誇りと生きがいを感じるのだという。

目次

型枠大工の道からリユース会社に転職

さいたま市出身の金沢さんは、高校をへて建築会社に就職し、工事現場で生コンを流して型枠をつくる仕事に従事していた。2年たった頃、知人に誘われた。「軽トラックで集めて回る仕事があるんだけど」

転職した会社は、中古家電を家庭から引き取り販売する会社で、社員は1週間1万円払って会社から軽トラックを借り、集めたリユース品を会社が買い取っていた。

初日の朝、不安な気持ちを抱いて出発した。「不要品はありませんか」とスピーカーで流しながら住宅街を回る。が、反応はない。「大丈夫だろうか」。家から男性が出てきた。50代か。「ビデオデッキがあるがいいかい」。金沢さんは大切にトラックの荷台に置いた。男性が言った。「ありがとう」。金沢さんも返した。「ありがとうございます」。目頭が熱くなった。人から感謝される仕事なんだと知った。新鮮な驚きだった。

会社に戻り、集めたリユース品を買い取ってもらった。ビデオデッキは20円。この日の合計は500円しかなかった。ガソリン代も自分で負担するから大赤字だ。壁に張り紙があり、見ると、社員の名前と販売額が記されていた。トップ社員は15万円。「ようし、トップを目指すぞ」と金沢さんは誓った。

軽トラを手にし独立

そのために、人がやらないことをやろうと思った。より集めるためにはお客さんから信頼を得ることだ。そのために金沢さんは、相手の立場に立とうと考えた。

スピーカーで呼びかけながら回っていると、いろんな人に会う。家から顔を見せる人、自転車ですれ違う男性、道路を歩く婦人。その人たちに声をかけた。「うるさくしてすみません」。何げない一言で相手の顔が和む。不審感を持たれないようにと、トラックに会社の名前を入れた。

挨拶をかかさない日が続くと、客たちの反応が変化した。「ちょっと待って」「この前も来てたよね」「電話番号を教えて」。

1か月後、会社で売り上げトップとなり、金沢さんは独立することにした。知り合いから5万円で中古の軽トラックを手に入れ、ネット販売で1万5000円で買ったスピーカーをつけた。自動音声のタイプは高価で手が出ないので、自分で呼びかけるタイプだ。チラシを作るためにパソコンも買った。

トラックに不要品回収 リユース リサイクル、「エコ・R」の文字を入れた。Rは瑠希の頭文字だ。制服を作り、黒シャツに「エコ・R」と入れた。パソコンで作成したチラシを配り、回収を始めた。「独立しました」と言って住宅街を挨拶して回ると、何人もの人が「がんばんなさい」と激励してくれた。


玄関先に置かれた中古製品を大切に回収する不用品回収業者
杉本裕明氏撮影 転載禁止

お客さんの信頼を得ると、こんなことが起き始めた。「あそこの角の家は不要品を持って困ってると言ってたよ」「感じがいいから、友人に頼んであげる」。人が人をつなぎ、ものを介して人の輪が膨らむ。

警察の理不尽な事情聴取は忘れない

順調に仕事は進み、金沢さんは1年後に軽トラックを買い替えることになる。仕事への満足感を感じていた金沢さんに、憤りを感じる出来事が舞い込んだのは14年のある日。住宅の前で、ファンヒーターをトラックに積み込んでいた。荷台には鉄のスクラップもあった。赤ランプを点滅した黒塗りの車が横付けされた。覆面パトカーから2人の刑事が降り立った。「ちょっと来てくれ」

警察署で通されたのは取調室だった。「ごみを運んでいただろう」。2人の追及が始まった。「違います。リユース品です。浜屋に持っていって買ってもらうんです。鉄スクラップもごみじゃない」。金沢さんが反論した通り、ファンヒーターはリユース品、つまり商品。鉄スクラップは法律で廃棄物の規制がかからないと定められている。しかし、法律の知識を十分持ち合わせていない彼らは納得せず、取り調べは1時間続いた。

結局、1週間後に再び警察を訪ねることを約束させられた。訪ねると、この前の刑事が出てきた。「あんたの言った通りだったよ。もう行っていい」。謝罪の言葉はなかった。

実は、こうしたことは不要品回収業者なら多かれ少なかれ経験しているという。中古の自転車を積んでいると、「盗難車じゃないのか」と1台ずつ盗難届が出ていないか調べたり、リユース品の家電をどこに運ぶのかしつこく聞いたり、後を付けられたり。

埼玉県にある「エコ・R」の倉庫に県の職員が突然訪ねて来たこともある。「税理士確認済みの1年分の伝票を見せ、ごみではないことを説明し、確認してもらった。倉庫にある高価なエレキギターを、職員が目をむいて見ていた。行政や警察は偏見を持たず、不要品回収業者の役割をもっと理解してほしい」

感謝される仕事をこれからも続ける

ところで、金沢さんは一般社団法人日本リユース・リサイクル回収事業者組合(JRRC)の理事を務める。組合は13年に結成され、600人以上の業者が会員になっている。「リユース・リサイクル品の回収に関するガイドライン」を作ったり、勉強会を開いたりしている。浜屋も組合の活動に賛同し、側面から援助している。

偏見をなくし、リユース社会に貢献しているという社会的な役割を知ってもらうことも理事の役目だと金沢さんは言う。

そしてこんな抱負を語る。「この仕事は、様々なお客さんとの巡り会い、いろんな品物との出会いがあるから面白い。使われなくなったものが再び使われ、それを自分が仲介しているという誇りがある。さらにお客さんが感謝してくれる。もっともっと信用をつけ、会社を大きくしたい」

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この記事を書いた人

朝日新聞記者を経て、フリージャーナリスト。廃棄物、自然保護、地球環境、公害など、環境の各分野に精通する。著書に『ルポ にっぽんのごみ』(岩波書店)『ディーゼル車に未来はあるかー排ガス偽装とPM2・5の脅威』(同、共著)、『環境省の大罪』(PHP研究所)、『赤い土(フェロシルト) なぜ企業犯罪は繰り返されたのか』(風媒社)、『社会を変えた情報公開―ドキュメント・市民オンブズマン』(花伝社)など多数。NPO法人未来舎代表理事として、政策提言や講演会などをしている。

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