バイオマス資源化センターみとよの外観
エコマスター提供
前回は、高コストだったり、引受先が見つからなかったりしたことから、可燃ごみで造った固形燃料・RDFの製造をやめ、焼却処理に戻る自治体を見ました。今回は、事業者にRDF化を民間業者に委託した北海道・ニセコ町・倶知安町と、「バイオトンネル」と名付けた欧州の技術を導入・開発した事業者が、三豊市の可燃ごみを発酵・分解して消滅させたあと、残ったプラスチックごみなどを固形燃料・RPFの原料を製造、地球温暖化防止に貢献している香川県三豊市を紹介しましょう。
ジャーナリスト 杉本裕明
焼却やめ、RDF(RPF)選択した北海道の7町村
北海道の倶知安町、ニセコ町など7町村は、2015年3月から、近隣にある廃棄物処理会社に可燃ごみの処理を委託し、同社のRDF製造設備でRDFを製造してもらっている。
年間約4,000トンの可燃ごみが持ち込まれ、製造したRDFは製紙工場や温泉施設に燃料として有価で売却している。「7町村は協議会をつくっており、RDF製造の委託もそこで決めています」と協議会の事務局を担当している倶知安町住民環境課の嶌良太環境係長。7町村の業者への委託料金はキロ当たり44円で、数年に1回改定されている。
可燃ごみの入ったごみ袋がコンベヤーから破砕機に送られる
ニセコ町広報紙より
同社に入ってきた可燃ごみは、粗選別、破砕した後、コンベヤの脇で7人の作業員が、おむつなどの衛生ごみ(塩化ビニルが多い)、塩ビ製品、衣類、ビン、缶、生ごみ、草木、金属などの異物を除去する。残った大半がプラスチックごみと紙ごみだ。塩ビがまじると燃料に使えないので、徹底的に除去する。
コンベヤーから破砕機で、可燃ごみは破砕され、金属などの異物が取り除かれる
ニセコ町広報紙より
生ごみを除いた可燃ごみからRDFの原料にならない異物を除去、選別にかなりの費用がかかっており、住民が排出時に異物をどこまで除去して出してくれるかが、7町村の今後の課題だ。
破砕された可燃ごみから、手間をかけて異物を除去する
ニセコ町広報紙より
できたRDFの性状は、有機物の生ごみ成分が少なく、性状はRPFに近いものと思われる。秘訣(ひけつ)は、これら構成の7町村が以前から生ごみを分別回収し、堆肥化(たいひか)を実践していたことにあった。
生ごみは可燃ごみの半分近くを占める。RDFにする際、大量の灯油を使い乾燥させるため、製造コストが高くなり、しかも大量の有機物が混じっているため、RDFを積み上げると発酵の危険性があるなど、管理が大変だ。さらに生ごみに含まれる食塩、塩ビのラップなどが作用し、塩素濃度の高い固形燃料になる。これでは、ボイラーの燃料として引き取ってくれるところは限られる。
できあがったRDF。といっても、生ごみはもともと含まれていないので、有機物は少ない
ニセコ町広報紙より
同社のRDF化施設は2005年から操業しており、どうすれば有価で販売できるか、品質を高めるためのノウハウを蓄積してきた。一方、RDFを製造する多くの自治体は廃棄物部局の運営であり、RDFを商品として販売するという意識が薄かった。
参考:北海道ニセコ町 広報ニセコ
生ごみの有効利用が、さらなる利用を生む
この地域ではかつて7町村がそれぞれ可燃ごみを焼却していたが、ダイオキシン規制が厳しくなり、新たな焼却炉で共同処理していた。しかし、設置する際に、地元と2015年3月で終了するとの協定を結んでいた。
時間を切られていたことと、新たな焼却施設の設置は住民の反対も予想されることから、7町村は、RDFの製造業者に委託する道を選んだ。
ニセコ町の生活環境課は「当時はダイオキシン問題など、幾つかの要因があった」と話す。ただ、RDFの処理費は徐々に高くなっており、ニセコ町の委託料金はキロ当たり44円。年間約700トンになる。
バイオトンネルで可燃ごみを発酵
トンネルコンポストと呼ばれるごみ処理方式が、自治体の関心を集めている。滋賀県の彦根市に一部事務組合が焼却施設を設置する計画に、計画地の住民らが反対し、市長が、代替案としてこのトンネルコンポストへの関心を表明したのはつい最近のことだ。
香川県三豊市は、香川県西部の愛媛県との県境に近い人口約6万人の町だ。愛媛県には大王製紙、愛媛製紙などの工場が立地し、製紙業が盛んだ。それが、このトンネルコンポスト方式によるごみ処理施設を誕生させた。
市内に倉庫のような建物がある。壁面に「バイオマス資源化センターみとよ」。株式会社エコマスターが管理・運営するごみ処理施設である。三豊市から一般廃棄物(家庭ごみと事業系ごみ)の処理の委託を受け、年間1万トンのごみを受けている。1日43.3トンの処理能力がある。2017年4月から稼働しているこの施設が注目を浴びているのは、ごみを燃やさず、微生物の力で発酵させて有機物を分解。残ったプラスチックごみなどから固形燃料のRPFの原料を製造しているからだ。
資源化センターの仕組み
エコマスター提供
仕組みはこうだ。建屋の中には、バイオトンネルと呼ばれるコンクリート製の発酵槽(長さ35メートル、幅6メートル、高さ5メートル)が6本ある。可燃ごみは、破砕機で破砕した後、バイオトンネルに送り、微生物によって発酵が進み、生ごみや選定枝など有機物の分解が進み、17日後には砂状の残さとなる。槽内は発酵で70度の高温となるため、微生物で分解されないプラスチックごみ、紙ごみ、繊維くずなどの水分が蒸発し、乾燥される。これらは磁選機で金属を除去し、さらに近赤外線自動選別装置で塩素を含むごみを除いた上、1メートル角のサイコロ状に圧縮する。
可燃ごみは破砕機で破砕され、バイオトンネルに送られる
エコマスター提供
一方、砂状の残さは再びバイオトンネルに戻し、発酵過程が繰り返される。トンネルコンポストからの臭気を含む排気は、バイオフィルター(約170平方メートル)を通し、そこで微生物の働きで吸着、脱臭が行われる。
バイオトンネルで残った残さは、後処理で異物を取り除く
エコマスター提供
製紙工場の燃料に
これは、固形燃料RPFの原料だ。トラックに乗せると、親会社の株式会社パブリックとエビス紙料のRPF製造工場に持ち込まれ、他の原料と混ぜられた上、RPFになる。年間搬入された1万トンのうち、約5,000トンがRPFの原料として出荷されているという。ごみを燃やすことなく、有機物を分解し、残ったごみは固形燃料の原料という有効なごみ処理・リサイクル手法だが、だれが考案したのだろうか。センター長の鎌倉秀行さんが語る。
RDFができるまで
エコマスター提供
「実は、親会社のエビス紙料の海田周治社長が、2004年ごろに欧州のごみ処理施設を見て周り、現在、センターが行っているのとよく似た施設を見つけました。帰国し、それをもとに改良を重ね、現在の方法にたどり着きました」
「親会社のエビス紙料(本社・観音寺市)とパブリック(同)は、プラスチックごみや木くずなどを原料にRPFを製造し、愛媛県の製紙工場にボイラーの燃料として販売していました。両社が相談し、自治体から可燃ごみを受け入れ、発酵槽で分解させたあとに残った廃棄物でRPFの原料を造ろうと、2010年にエコマスターを設立し、実現に向けて開発を進めたのです」
塩ビはRPFの大敵
実は、欧州では、バイオマスごみ処理が盛んだ。最近になって日本でも、家庭から出た生ごみや事業所から出た食品廃棄物、下水汚泥などの有機ごみを発酵槽でメタン発酵させ、発生したメタンガスを使って発電、買電するメタン発酵・発電方式が増えてきたが、ドイツなど欧州では以前から盛んだ。
ドイツでは、1990年代に機械生物処理施設(MBA、MBTとも言う)が登場。可燃ごみを機械選別し、有機物を発酵、発電し、残った液肥から堆肥をつくり、選別して残った可燃ごみの残さは小型焼却炉で焼却している。日本のバイオ発酵方式では、家庭から排出する時点で、可燃ごみから生ごみを分別して回収しており、収集費用が余分にかかるのが難点で、機械選別が主流の欧州のレベルには達していない。
このトンネルコンポスト方式も発想はよく似ているが、利点は、処理コストを低く抑えられることと、残った廃棄物からRPFの原料をつくり、有価で販売できるリサイクル性にすぐれていることだ。
ただ、この原料には塩素分が含まれている。家庭ごみには、塩化ビニルからできたラップなどのプラスチックごみが含まれ、生ごみは食塩を含有している。鎌倉センター長が言う。
「塩素濃度が高いと、ボイラーの腐食の原因になるため、受け入れるRPFの塩素濃度は低く決められています。選別した一般廃棄物は、近赤外線選別装置で、塩ビを取り除いていますが、それでも受け入れ基準の数倍ぐらいあります。そこで親会社にRPFの原料として運び、そこで他のRPFの原料に混ぜて、濃度を下げてRPFを造っています」
こうした工夫を凝らして品質のよい固形燃料が製造され、製紙工場が利用を続けている。
実験と検証へて三豊市が委託を決定
実績を積み上げるトンネルコンポストだが、これまでの道のりは簡単なものではなかった。当時、観音寺市と運営していた焼却施設の使用期限が迫り、新規焼却施設の設置が迫られていたが、横山忠始市長は、2010年春、バイオマスタウン構想をまとめ、さらに同年9月には議会で、ごみ処理の基本的な考え方を提示。「新しい産業と雇用機会の創出」「ごみを資源として循環させる」ことを打ち出した。
三豊市は、同年プロポーザルを行い、トンネルコンポスト方式を採用すると、翌年エコマスターを受託事業者に選定した。同社は、イタリアから実証実験機を輸入し、2011年1月から2014年10月にかけて、家庭ごみを使って実証実験を行い、技術的に可能なことを確認した。三豊市は、香川大学と社団法人地域環境資源センターに技術的な妥当性についてお墨付きをもらい、さらに懸念されていた臭気対策でも山梨大学から問題がないとの報告を受け、自信を深めた。
トンネルコンポストの仕組み
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施設を建設するためには、予定地の周辺住民の理解を得ることが重要だが、市は、地元自治会、エコマスターの三者で協議会を設置して議論を重ね、2015年8月に環境保全協定を結んだ。協定では、騒音・振動・悪臭・水質について自治会、市の立ち会いで測定し、データを公開することや、アンモニアなど悪臭の基準値を、市が定める基準より厳しくすることなどが盛り込まれていた。
こうしてセンターは2015年7月に香川県から施設の設置の許可を受け、建設工事に着手、2年後に竣工した。海田さんが欧州を回り、この仕組みを見つけて13年の歳月がたっていた。大きな事故もなく、施設が運営され、外部からのチェックを受けて情報を公開、見学者を受け入れ、環境教育などに貢献していることが、市や住民から信頼を得る要因となっている。
他の地域に広がる可能性
同社は、センターの設置に際し、環境省の補助事業に応募し、「廃棄物エネルギー導入・低炭素化促進事業」(2015年度)と「低炭素型廃棄物支援事業」(2016年度)の2つの補助金を得ている。いずれもCO2の削減効果や事業の先進性、波及効果、確実性などが高い評価を受けた」(三豊市・広報みとよ)ものだ。RPFが石炭の代わりになることで年間6,800トンのCO2を削減できるという。
市役所でこの問題を担当する環境衛生課の今井健太さんは「キロ当たり24.8円、年間約2億4000万円で処理を委託しています。20年契約で、メンテナンスなどの費用も含まれており、市が焼却施設を持って処理するよりコストの点でも安い。さらにRPFの原料として有効利用できているところが良い」と評価する。
事業費の16億円は環境省の補助金と市中銀行からの借り入れで調達し、市の負担がない点も評価された。ただ、この方式は、親会社がRPFを製造しており、原料の一部として有価で売却できるという特殊な条件がある。RPFの製造施設の近くに製紙工場があるという有利な条件があってこそ、成り立っているとも言える。それがない場合には、独自に固形燃料の売却先や、RPFの原料の売却先を見つけなければいけなくなる。
それでも、地球温暖化が進み、化石燃料から他のエネルギーに代える動きが産業界で広がっている。RPFの燃料使用は、製紙工場だけでなく、化学工場など他の業種にも広がりつつあり、RPF製造業界は活況を呈している。
プラスチックごみなどからRPFの原料をもとに、親会社が製造したRPF
エコマスター提供
鎌倉さんは「その動きが、第2、第3のバイオマス資源化センターにつながっていく。施設は広い面積が必要なので大都市では難しいが、中小の自治体向けに、焼却施設にかわるごみ処理方法としてPRしていきたい」と話している。
焼却回避の道
これまで自治体は、生ごみを可燃物扱いし、焼却炉で燃やしてきた。しかし、生ごみは700キロカロリーと低カロリーで、これでは自燃(自ら燃えること)できない。そこで、他のプラスチックごみや紙ごみなど高カロリーのごみと一緒に、焼却炉で燃やされているのが実情だ。あまりに効率が悪すぎる。
そこで、生ごみを燃やさずどうするか。1つは、生ごみを可燃ごみから分別する方法だ。可燃ごみの量は半分近く減る。残りの大半はプラスチックごみと紙ごみ、繊維ごみなので、これも分別しリサイクルすると、燃やすごみはほとんどなくなる。生ごみを分別している自治体では、先を進む欧州にならい、メタン発酵槽でガス化し、発電に利用するところが増えている。あるいは、堆肥化している自治体もある。2つは、可燃ごみとして回収し、ドイツなど欧州の先進国で行われているように機械選別し、有機性のごみはメタン発酵→発電と堆肥化。残さは焼却という流れだ。そして、三豊市のように発酵槽で発酵・分解させたあと、残さをRPFなどに有効利用する方法だ。三豊市の場合は、当初、同社は、集めた可燃ごみを発酵させたあと、堆肥も製造できないかと検討したことがあった。
しかし、相談した農水省から「分別しない可燃ごみを発酵させ、造った堆肥は肥料にならないものが混じっている可能性があり、特殊肥料に認められない」と言われ、断念し、いまの方法にたどり着いた経緯がある。今後の検討課題となりそうだ。
いずれもしても、大量のCO2を排出するごみ焼却は、ゼロカーボン時代にそぐわなくなっている。その考え方が深化していけば、三豊市のように、新しい時代にふさわしいさまざまなごみ処理が提案され、時代を切り開いていくのではないか。
参考・引用文献:三豊市 広報みとよ(2016年8月号)
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