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学生服リユースで弱者 のお母さんたちに貢献 さくらやの試み

渋谷の店舗には学生服が大量にあった
杉本裕明氏撮影 転載禁止

自分の貧困体験から学生服リユース業を手がけることになった馬場加奈子さんは、リユース業と社会的弱者の救済・支援活動の融合を目指している。ママさんオーナーを募り、いまでは100店舗を超える規模に成長したが、高額な学生服を安く販売するだけでなく、子ども食堂に参加したり、無料でランドセルを寄付したり。SDGsの新しい形として注目を浴びている。

ジャーナリスト 杉本裕明

目次

学生服とランドセルがところ狭し

東京・渋谷のビルの一室、サンクラッド本社を訪ねると、社長の馬場さんと社員の女性2人が、買い集めた学生服の整理をしているところだった。色とりどりのランドセルも並ぶ。

「みな、新品同然に見えるでしょう。このランドセルは、高くて手の出せない家庭に贈るためのものなんです」と、馬場さんが説明した。


馬場加奈子さん
杉本裕明氏撮影 転載禁止

高松市に生まれ育った馬場さんは、会社員の夫と結婚したが、やがて離婚。幼い子ども3人を引き取り、保険会社で保険の外交員の職を得たが、子どもたちに接する時間が思うようにとれない。長女は障害児で養護学校に通っている。しばらくして、「勤めでなく、起業すれば家庭の時間がとれるはず」と、思うようになった。たまたま、父親の相続で一軒家を建てることができたのをきっかけに、自宅をリユース店にして2010年夏に開業した。扱ったのは学生服だった。
なぜ、学生服なのか。馬場さんが語る。

「次女の小学校高学年の時でした。セーラー服は15,000円、スカートは8,000円。冬服の上下、夏服の上下。おまけに体操服も夏と冬で違う。しかも、体が大きくなるからそのたびに買いかえなければならない。私の賃貸アパートでの生活は、電気も止められるような苦しい生活が続いていました。お母さんたちの話を聞くと、みな、高額の負担に頭を悩ませていました。これだと思いました」

50着の学生服で開業


学生服でつくったバックで議論を重ねる
杉本裕明氏撮影 転載禁止

最初は知り合いに声をかけたりしていたが、集まる数は少なく、客も少ない。ある知人が指摘した。「自宅でやってるから信用されないのよ。ちゃんとした店をもたないと」。適当なアパートを見つけると、大家に頼み込んだ。

「お金が足りません。でも学生服のリユースの仕事がしたい。みんなが求めていると思うから」
何度も懇願された大家が根負けしたように言った。
「あなたの熱意に負けた。半額にしてやるよ」

女性パートを2人雇い、50着そろえて高松市内に開店した。13坪の店の名前を「さくらや」と付けた。いろんなリユース店を訪問してはいくらで仕入れ、いくらで売るかを考え、汚れや年数などによってABCDの4ランクに分けた。例えばAは店の廃業などで新品同様で入ってきたもので、これは定価の6~7割。多くは定価の3割程度で販売することにした。

「客を増やすためにどんな手を?」と聞くと、馬場さんが、苦労話を語った。
「各家庭へのチラシのポスティングです。1枚10円のコピー代が高いので、5円の店を見つけ、さらにB4で印刷したのを4枚に切って、学校の校門で配ったり、住宅を回って配りました」

徐々に客は増えてはいったが、これで店がやっていけると自信を持って言えるまでには3年の月日がかかった。学生服を扱っていて困るのは、ブルセラショップと間違えられることだったという。扱う値段を知るために、学生服を扱っている店を電話帳で調べて訪ねたが、多くがその手の店で、高額で扱われ、参考にならない。「私たちの仕事は、困っているお母さんたちを助ける仕事。安くわけてあげなきゃね」と、パートの女性たちと確認し会った。それ目当てでやってきた男性客には、「うちは目的が違うんです」と言ってお引き取り願ったという。

客の女性が「私もやりたい」


スタッフの女性もやりがいを感じている
杉本裕明氏撮影 転載禁止

2店舗目は2015年、学生服を買った高松市の女性客が「こんな仕事がしたかった」と持ちかけてきたからだった。2店舗になるのに約5年。口コミなどで一定の客は確保したが、全国に展開したいと考える馬場さんの思いはなかなか、実現しなかった。

しかし、2015年、たまたま、「さくらや」の存在を知ったテレビ局が、「これはおもしろく、社会的に必要な仕事だ」と評価し、放映してくれた。

それを機に一気に流れができたと言う。旭川、仙台、埼玉、大阪、熊本、宮崎--。店がどんどん増えていった。ママさんオーナーの「パートナー店」を募集し、馬場さんが面接して、1割の人と契約する。個人との契約が主で、出店にかかる費用として研修費、さくらやのブランド使用の権利料など計114万円。月会費として9,500円徴収し、現在約100人、100店舗あるという。

営業時間はまちまちだ。そもそも、馬場さんが始めた高松店では、月、水、金、土の午前10時から午後3時まで。「『これで仕事になるの?』と、当時はよく言われましたが、これが正しいと思ってやってきました」と馬場さんは笑う。馬場さんがいまいる渋谷の店は月、火の午前11時から午後3時が営業時間となっている。

支援活動してください

ユニークなのは、単なる販売目的だけでは契約できないことだ。集めた学生服の選択とアイロンがけを障害者の作業所や障害者個人にお願いするだけでなく、地域で子どもを抱えた家庭への支援活動などにも取り組んでもらいたいと考えた。

ある店は引きこもりの男性に学生服のアイロンかけを頼んでいるが、こんなことがあったという。店は、学生服に毎回、手紙をつけて男性に渡している。「きれいな学生服にしてくれてありがとう」。そんな手紙がしばらく続き、男性が店にこんなことを伝えてきたという。「僕、バイトに出ようかな」

馬場さんが言う。
「リユース・プラス・地域の支援活動なんです。地域のスーパーから賞味期限が近くて処分してしまう食料品をもらってきて配ったり、中古のランドセルを無料で配ったり。どんな支援活動でもいい。それに、支援活動だけではお金が出るばかりで続きません。でも、これなら両方をかねることで、持続できます」

地域に根付いたソーシャルビジネスと言ってもよいかもしれない。

段ボールの回収箱を設置

企業に段ボールの回収ボックスを置いて、学生服を回収し始めた。回収して査定した金額を、貧困家庭への無償提供などに使うつもりだった。幾つかの企業は理解してくれたが、学校は「営利事業だからだめです」。


高松市の高松信用金庫に置かれた回収ボックス
さくらや提供 転載禁止

閉ざされた道が開ける時がきた。2018年、内閣府の「子供の未来応援国民運動」に参加することができた。回収ボックスによる回収事業が認められると、企業や学校が参加しやすい。その代わりに「さくらや」は、回収、査定した金額を基金に積み、そのお金は全国のこども食堂を運営している団体などの運営費に回る仕組みだ。学生服の回収ボックスは全国に700個になった。


さくらやが用意した回収ボックス。高松市 さぬき麺市場 伏石店
さくらや提供 転載禁止

馬場さんは、支援活動を本格的に行うため、2022年にはNPO法人学生服リユース協会を設立した。他の支援機関と連携しながら、学生服の無料貸し出しや提供に取り組みたいという。

「ソーシャルビジネス」とは

本業では、商社の支援を得て、9月をめどにオンライン販売に進出する予定だ。ところで、高価で貧困家庭を困らせる学生服やランドセルの問題をどう考えたらいいのか。馬場さんに尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「ずっとその矛盾を感じてきています。例えば、回収された学生服のうち、半分ほどは廃棄せざるをえません。なぜかっていうと、学校がデザインを変更したり、生地を替えたりし、中古の学生服を利用することができないおかしな仕組みになっているのです。もったいないことですが、この傾向が強まりつつある。ランドセルもこんなに重い革製品でなくても、布製の簡易なバッグでよいと思います。軽くて丈夫なものがいくらでもあります」


学生服でつくったTシャツの販売について打ち合わせする
杉本裕明氏撮影 転載禁止

これではもったいないと、馬場さんらは回収して使えない学生服の生地で、Tシャツをつくり、販売しようとしているという。最後に馬場さんはこう結んだ。

「それと、貧困家庭の親たちは情報が不足しています。いろんな支援の仕組みがあることを知らず、一人で悩み、苦しんでいる人が多いんです。私もかつてその一人でした。情報を提供し、そのつなぎ役になることも重要な役目だと思っています」

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この記事を書いた人

朝日新聞記者を経て、フリージャーナリスト。廃棄物、自然保護、地球環境、公害など、環境の各分野に精通する。著書に『ルポ にっぽんのごみ』(岩波書店)『ディーゼル車に未来はあるかー排ガス偽装とPM2・5の脅威』(同、共著)、『環境省の大罪』(PHP研究所)、『赤い土(フェロシルト) なぜ企業犯罪は繰り返されたのか』(風媒社)、『社会を変えた情報公開―ドキュメント・市民オンブズマン』(花伝社)など多数。NPO法人未来舎代表理事として、政策提言や講演会などをしている。

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