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プラスチック社会への提言 30年国際海岸クリーンアップに取り組んできた一般社団法人JEANの事務局長・副代表理事、小島あずさ

日本列島にはこんなに大量の漂着物が押し寄せる
提供:一般社団法人JEAN 転載禁止

マイクロプラスチックによる海洋汚染が世界的な問題となり、各国が使い捨てプラスチックの削減やリサイクルの動きを早めています。日本も例外ではなく、販売したプラスチック製品を自主回収する動きも産業界から出始めています。このプラスチックによる海洋汚染問題にいち早く取り組んできたのが一般社団法人JEANの小島あずささんです。90年に日本で初めて行われた「国際海岸クリーンアップ(International Coastal Cleanup、通称:ICC)」を継続的に実施するために仲間3人で任意団体を立ち上げ、全国的に展開してきた。運動は今年で31年目を迎えました。小島さんに団体設立の経緯や活動の意義について語ってもらいました。

ジャーナリスト 杉本裕明

目次

布製の買い物袋の制作と長良川河口堰建設反対運動も根っこは同じ

――海洋プラスチック汚染の顕在化に端を発し、プラスチックの削減やリサイクルに向けた動きが活発です。G7(主要7カ国首脳会議)でカナダが提案した「海洋プラスチック宣言」に日本が署名せず、国際的に批判されたことをきっかけに、政府は2019年に「プラスチック資源循環戦略」を策定し、さらに環境省が戦略の実現のために2021年にプラスチック資源循環促進法を制定し、この4月に施行されます。

小島「これまでずっと海洋ごみ問題に取り組み、ICCやクリーンアップを行ってきましたが、ここ数年で急速に注目され、取り組みが進められていると思います」

――小島さんに初めてお会いしたのは、30年以上前になる1991年のことです。私は、新聞社の記者として、環境庁(現環境省)の記者クラブに配属されたばかりでした。小島さんら3人の女性がクラブを訪ね、記者会見されました。

小島「春に、クリーンアップ全国事務局を立ち上げ、『国際海岸クリーンアップ』(International Coastal Cleanup、通称:ICC)への参加呼びかけを開始した時期でした。ICCは1986年にアメリカの環境NGOの呼びかけで始まった運動ですが、日本では私と友人の3人で始まりました。事務所は私の自宅でした」


一般社団法人JEANの小島あずささん
杉本裕明氏撮影 転載禁止

――それが、あっという間に参加者が増え、運動が全国に広がりました。しかも、30年以上も継続してやっておられる。あとで触れますが、議員立法で海岸漂着物処理推進法までつくってしまうんだから、『すごい』の一言しかありません。改めて運動を始めたきっかけを教えて下さい。

小島「東京生まれの私は、専門学校を出て会社勤めをしていたのですが、趣味はハンドメイドの小物をつくることでした。気の合う仲間と、『何かやろうよ』と相談し、セミオーダーのベビー用品を手がけ、87年から布製の買い物袋をつくり始めました。販売する店舗を持っていないので、生協などに持ち込み、『置いて下さい』と頼んだり、『この買い物袋はごみ減量と資源節約になります』と書いた手紙を様々なお店に送ったりしていました」

――当時はバブルの真っ盛りで、ごみが急激に増えている時代です。マイバッグ運動なんてなかった。

小島「89年ごろから、三重県の長良川に河口堰を建設することに反対する市民運動が起きました。自然破壊を懸念してカヌーイストの野田知佑さんも参加したりして。それに共鳴して、私たちもデモに参加したりしていたんです」

――長良川河口堰は、自然破壊と無駄な公共工事の象徴となり、その熱気がすごかった。建設省(現国土交通省)の河川政策をひっくり返しました。カヌーデモなどの反対運動は、資源の無駄遣いをやめようと、小島さんが始めた活動と、根っこで共通点があります。

小島「私は飼っている犬を連れて毎日散歩していましたが、道に落ちているごみが気になるんです。そこで、毎日、散歩しながらごみ拾いをするようになりました。その頃にICCを日本でやろうとしている人のことを新聞で知りました。湘南海岸でごみ拾いをし、集めたごみを調査して結果を米国に送るんだと」

知人とクリーンアップ全国事務局を立ち上げ

――確か、一緒に全国事務局を立ち上げた方ですね。

小島「菊地由美さんです。彼女は外資系の会社に勤めながら、熱帯雨林を守る活動をしていました。彼女の講演会を聞きに行って、彼女と話し、意気投合しました。買い物袋などの仕事を共にしていた友人も含めた3人が共同代表になって、91年に、『JEAN(Japan Environmental Action Network)/クリーンアップ全国事務局』が発足しました。事務所は私と菊地さんの自宅とし、参加の呼びかけや調査結果の取りまとめを担うことになりました。2009年にはこれまでの任意の団体から一般社団法人になっています。93年に菊地さんが海外で暮らすことになるなどして、事務局体制は変化しましたが、新たなスタッフやボランティアと一緒に活動を続けてきました」

――クリーンアップといっても、海岸でごみ拾いをすることだと勘違いしている人も多かった。世界各地でごみの種類や量を調査するんでしたね。

小島「清掃もしますが、主な目的は調査活動なんです。ICCは、集めたごみを45品目に分類し、データを取っています。参加希望者には、まず調査用のデータカードなどの資料一式を送ります。データカードには45項目の欄があります。まず『破片・かけら』とそれ以外に分けます。『破片・かけら』は、『硬質プラ』『プラシート』『発泡スチロール』『ガラスや陶器』など4種類。それ以外は、『タバコの吸い殻』『飲料用プラボトル(ペットボトル)』『飲料用ボトルキャップ』『レジ袋』『食品の包装・容器』『生活雑貨(歯ブラシや文具など)』『花火』など陸上生活で主に発生するごみ、それと『釣糸』『ルアー』などの釣りや水産関係のものに分かれています」


ごみの調査に市民が参加し、一つ一つ、丹念に調べる
提供:一般社団法人JEAN 転載禁止

――実に細かいですね。

小島「ボランティアは、海岸でごみ回収と調査を行う範囲を決め、すべての人工的なごみを拾ってもらいます。清掃だけした方がよいという人もいますが、海のごみ問題は拾うだけでは解決できません。どんなごみがどれだけ散乱し、時間の経過を追ってどう変わっているのか。それを統一した基準で調べ、世界規模で行うことで各国の特徴がわかるし、ごみを減らすための対策をとることができます。ボランティアもごみの知識が得られ、興味を持って取り組むことができます」

マイクロプラスチックの存在を発見

――どんなごみの種類が多いのですか。

小島「プラスチックごみが大半を占めますが、2018年の順位を見ると、1位~3位が『プラ破片』(硬質プラ、プラシート、発泡スチロール)、4位が『飲料のプラボトル』、5位が『タバコの吸い殻』。これはフィルターがプラスチックでできています。6位が『食品の包装や袋』です。1990年の1位は『タバコの吸い殻』でした」

――長年やってこられて発見はありましたか。

小島「現在、大問題になっているマイクロプラスチック。1991年に調べた時に、すでに3ミリ以下の小さなプラスチックの粒が多数見つかっていました。その時には、プラが劣化で摩耗した破片だと思っていたのです。米国のICC主催団体のスタッフから、プラスチックの成形工場などで使われる中間材料のレジンペレットだと教えられました。その後、全国のICCの参加団体に、粒の現物を送り、同じものがないか、調べてもらったのです。すると、全国各地から同じものが見つかり、全国的な汚染であることが明らかになっていきました」

――マイクロプラスチックという言葉がなかった頃に、小さなプラごみの問題に注目していたのですね。

小島「レジンペレットが全国の海岸で見つかったことが報道されて、プラスチックの業界団体から、驚きと共に、現場を見たいとの相談がありました。海岸に案内して状況を伝えた結果、業界も問題視し、漏出防止対策に乗り出すようになりました」

――調査してこそ、対策が立てられる。よい例ですね。

小島「自分も当事者なんだという意識を持ってもらうことが大事だと思います。JEANでは、ICCの呼びかけだけでなく、教材をつくって貸し出したり、講演活動をしたりしています。漂着物のトランク・ミュージアムと名付けた展示物では、トランクの中に、日常生活から出たごみ、日本から外国へ流出したごみ、外国から漂着したごみ、漁業や釣りのごみ、ごみではない自然の漂着物などに分類したものと、説明文が入っています。これを使って環境授業をしたりしています。企業から招かれ、ワークショップの講師をすることもよくあります。企業も以前と違い、最近、関心が高まってきたと思います」

海岸漂着物を処理する法制化を実現

――2009年に議員立法で海岸漂着物処理推進法が制定されました。この法律の制定には、JEANのロビー活動が大きく貢献しました。

小島「その頃、大量の漂着ごみに悩んでいた対馬市や長崎県などがこの問題に対処するため、特区の指定を求めるなど、自治体が頭を痛めていた時期です。私たちもごみが集中して漂着する離島などの地域が、苦労を強いられていることは、大きな問題だと考えていました。過疎化や高齢化でごみを回収する人が限られていますし、処理施設もなく、どこも困り果てていました。しかも、漂着ごみは、誰が撤去するのかも決まっておらず、結局、乏しい自治体予算で賄わざるをえない状態でした。環境省から内閣府に出向していた方が、現地を見て驚き、『大変なことになっている』と、言われたことをよく覚えています」


長崎県の離島にはこんなにプラスチックごみが流れ着いていた
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――前代表理事の金子博さんは山形県在住で、自民党の元幹事長、加藤紘一氏も山形県でした。それで加藤氏に陳情することになりました。

小島「2006年に、私たちは、加藤紘一氏に『何とかしてほしい』と陳情しましたが、最初は、問題点を明確に理解してもらうのは大変でした。何しろ、その漂着ごみはどこから来るのか、海外なのか、国内からなのかといったことすらわからないのですから無理もありません。でも、有志議員の研究会がつくられ、やがて、自民党内に特別委員会をつくられ、議論を進めるうちに、国がこの問題をきちんとやるには法律が必要だとなっていきました」


沖縄県の離島にも大量のプラスチックごみが流れ着く
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――議員立法ですね。

小島「特別委員会から野党への説明や調整が行われ、09年に全会一致で成立しました。私たちも東京で議員さんたちに実情を訴えるなど、ロビー活動を続けました。満場一致で制定されたこの法律は、海岸管理者である都道府県の責任を明確にし、国が処理する自治体の撤去費用を援助することなどを定め、議員立法では珍しい予算措置を伴った法律でした」

海洋プラスチック汚染に対応するため法改正

――法律ができた当時、すでに海岸はプラスチックであふれていました。それなのに、法律にはマイクロプラスチック対策が入りませんでした。

小島「産業界と経産省の抵抗があると、法律そのものができないかもしれないとの危惧があり、明記せずに立法化を急ぐことになったのです。しかし、その後、各国でマイクロプラスチックによる海洋汚染問題がクローズアップされため、18年に自民党と公明党が改正法案を提案することになりました」

――同年成立した改正法は、「(海洋保全のため)廃プラスチック類の排出の抑制、再生利用等による廃プラスチック類の原料に十分配慮されたものでなければならない」「(事業者と国民は)マイクロプラスチックの使用の抑制に努めるとともに、排出が抑制されるよう努めなければならない」との条文が加わりました。削減の文言が入るべきですが、産業界と経産省との関係もあり抑制という表現になったと、金子さんからうかがいました。

小島「基本方針づくりを検討する環境省の有識者会議に、私も委員として参加しました。30年近く続けてきた現場の知見を伝えようとしました。金子さんが2019年に代表理事を退任し、いまは、鹿児島大学教授の藤枝繁さんが代表理事を務めています」

JEANの活動に参加し、生活スタイルを見直し

――JEANの活動に参加して、プラスチック製品であふれる生活スタイルを見直した人も多いと思います。

小島「海ごみは、自分が排出したごみが、いつのまにか海に流れ出し、海岸に漂着したものかもしれません。朝鮮半島や東南アジアから漂着したごみだと思いこんでいたのが、足下から出たものかもしれません。そして、自分の出したごみが、ハワイやアメリカ西海岸に漂着しているかもしれません。クリーンアップキャンペーンに参加し、海ごみの調査を行いながら、そんなことに思いをはせることができたらいいと思います。ごみの発生を減らすには、自分がかかわっている問題だということを知り、行動してほしい。そんな願いを持って活動を続けています」


子どもたちにプラスチックごみなど海洋漂着物について説明する小島さん
提供:一般社団法人JEAN 転載禁止

――新型コロナウイルスの流行の影響で大変でしょう。

小島「海岸の調査にたくさんの市民が参加してくださっていましたが、各地で中止されたりしていました。2022年春には何とか以前のように実施したいのですが。それと、JEANが行ってきた講演会や企業に依頼された勉強会がオンラインになったり、中止になったり。JEANは活動歴が長いためか、公的な資金を得ていると思いこんでいる方が多いようですが、ずっと資金難に悩まされています。活動費は、サポーターからのサポート費と、企業などからの寄付、講演料や事業収入でまかなわれているのですが、コロナの影響で講演会などがなくなり、事務所の維持費や人件費を削って何とか維持しているのが実情です。全国各地の現場を知るJEANがこれからも海洋ごみの解決のために活動できるよう、ご支援をお待ちしています」

一般社団法人JEAN http://www.jean.jp

小島 あずさ(小島・あずさ)
1978年より、スタイリストとして広告制作の仕事に従事。1988 年 「アトリエ・クレイドル」を設立。日本で初めての布製買い物袋(エコバッグ)を企画、制作、販売。この頃より、自宅周辺のごみ拾いをはじめる。1991年、JEAN/クリーンアップ全国事務局を設立。年2回の全国一斉クリーンアップ。キャンペーンとごみ調査を開始。国際海岸クリーンアップのナショナルコーディネーターとなる。
1992年、「多摩東京移管百周年記念事業」の一環として「多摩川クリーンエイド」の企画・運営を依頼され、全流域一斉清掃および、ごみと水質の市民調査を実施。同時に「多摩川ゴミレンジャー」の養成を行う。1993年、(社)日本青年会議所のTOYP 大賞グランプリ、内閣総理大臣賞、岡山県知事賞を受賞。1994年、「荒川放水路通水70周年記念事業」の一環として、荒川下流域の一斉清掃、および調査活動「荒川クリーンエイド」を企画・運営。1996年、第一回朝日海への貢献賞、ボランティア準賞受賞(団体として)。 2006年、第12 回 日韓国際環境賞 受賞(団体として)2009年、環境保全功労者表彰。
著書、 「プラスチックの海」海洋工学研究所編、「漂着物考」INAX 出版、「海ゴミ」中公新書 (いずれも共著)。

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この記事を書いた人

朝日新聞記者を経て、フリージャーナリスト。廃棄物、自然保護、地球環境、公害など、環境の各分野に精通する。著書に『ルポ にっぽんのごみ』(岩波書店)『ディーゼル車に未来はあるかー排ガス偽装とPM2・5の脅威』(同、共著)、『環境省の大罪』(PHP研究所)、『赤い土(フェロシルト) なぜ企業犯罪は繰り返されたのか』(風媒社)、『社会を変えた情報公開―ドキュメント・市民オンブズマン』(花伝社)など多数。NPO法人未来舎代表理事として、政策提言や講演会などをしている。

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