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プラスチック社会への提言 共創の精神でプラスチック削減と有効利用進める 京都大学准教授(環境教育)・浅利美鈴(下)

プラスチックごみ問題に取り組む京都大学大学院地球環境堂准教授の浅利美鈴さんの話を続ける。今回は、子どもから大人まで参加して、それぞれのかばんの中のプラスチック製品を調べた取り組みを語ってもらう。これが、消費生活を見直し、ごみにならないプラスチック製品の開発や見直しにつながると――。

聞き手 ジャーナリスト 杉本裕明

目次

行動様式変える新たな手法

――住民の意識を高める何かよい方法は?

浅利「さきほどふれた行動様式を変えるためのナッジ(『そっと後押しする』の意味。人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする政策手法)が注目されるようになっています。こうした新しいやり方が必要になるでしょう」

――ところで、中国が2017年暮からプラスチックごみの輸入禁止に踏み切っています。輸出業者は東南アジアにシフトしていますが、東南アジア諸国も管理を厳しくしており、国内に滞留するプラスチックが社会問題になっています。

浅利「難しい問題です。私は石油をストックしていると思うしかありません。ただ、貴重な資源として利用されるには、技術開発が必要になってくる。問題は、再生プラスチックの評価が十分ではなく、市場が広がらないこと。国内事業者の再生材の購入は、足踏み状態が続いています」

メーカーは完ぺき主義から脱却を

――国内に廃プラスチックが大量にあれば、中国頼りでなく、国内でしっかりリサイクルしていかねばなりません。ところが、「石油から造ったバージンとそん色のない再生材を製造しても、メーカーが買ってくれない」と嘆くリサイクル業者の声があります。

浅利「メーカーは完ぺき主義から抜けられません。少しでもリスクがあると、再生品を使った製品が消費者に嫌われると二の足を踏む。再生材を使う市場を拡大するには、私たち消費者自身も多少高くてもそういう企業を応援する。ESGの投資家じゃなくても、消費者が応援することができるかにかかっていると思います。その点では欧州はすごいなと思いますね。みんながみんなではないと思いますが、私が知る限りでは、地元のものだったり、再生品とか、高くても選ぶ消費者は間違いなく多いことが、いろんな調査で裏付けられています。そこが変わらないことには、メーカーも変わってくれません」

――完ぺき主義は、消費者を相手に商売していない企業に目立つように思います。

浅利「BtoB(ビジネスtoビジネス)、企業対企業の取引をする企業のことを言いますが、まだまだ抜けきれていません。これは、消費者に製品を販売するBtoC(ビジネスtoコンシューマー)の企業とのセンスの違いがあるように感じます。BtoCも完ぺき主義から抜けられてはいませんが、消費者の押し上げとか、メディアの影響でかなり変わりつつあります。BtoBも一押しでしょうか。100%安全な、ゼロリスクなものを100%の精度で造ろうというミッション感がありますね。もちろん、よい面もあるのですが」

かばんの中身を調べ、プラスチック知る

――浅利さんは「共創」を提言しています。

浅利「製品作りに消費者がかかわりたいと、京大の学生と職員でエコキャンパス化を目指すネットワーク『エコ~るど京大 』を応援しています。京大を中心にプラスチック問題を考え、できることから行動する『京都大学プラ・イド宣言』(当初はプラヘラス宣言)を出し、『京都大学プラ・イドチャート』(図参照)を提唱しました。身の回りのプラスチック製品を、個々人が『いる・いらない』『避けられる・避けられない』の二つの観点を使って4種類に分け、自分自身のプラスチック製品に対する意識と価値観を可視化しました」


京大式プラチャート「プライド」

――きっかけは何ですか。

浅利「女性誌の『FraU』がSDGs特集をすることになり、コラボレーションで、みんなでプラスチックについて世界に発信できることを考えることになりました。私たちが持つかばんの中には、80個ぐらいプラスチック製品が入っています。それを減らすところから始めれば、そこから考える世界というのが面白いのではないかと考えました。まずは、かばんの中のプラスチックを減らす活動につなげようと。中をチェックし、製品をピックアップし、減らすアイデアをグループに分かれてディスカッションし、まとめました」

――どんな人が参加したのですか?

浅利「子どもからシニアまで、高校生もいれば、メーカーの人もいます。最近、共創という、製品づくりに消費者がかかわることが、1つのトレンドになっています。プラスチックに限らず。それにつながることをというのでやりました。その中で、いろいろ、製品のアイデアも出てきたのですよ。これを展開していけたらよい」

――この表を見ると、何から削減していけばよいかがわかります。

浅利「右上の『いらなくて避けられるプラ』は積極的に削減に取り組むべき、左上の『いるが避けられるプラ』は、個人の意識や行動の変容を通して右に移動させ、右下の『いらなくて避けられないプラ』は、規制や企業努力で上に移動させるといった具合。これによって多くの人の意識・価値観をデータベース化し、右向きの個人の意識・行動改善と上向きの規制。企業努力を社会全体として適切に促すことでプラスチック製品との持続可能な付き合い方が可能になると考えています」

参考:京都大学 環境エネルギー管理情報サイト エコ~るど京大
参考:FRaU FRaU×SDGsプロジェクト

プラスチックとの付き合い方を学ぶ

――プラスチックを全否定するのではなく、わかりやすく評価しているところがすごくいい。

浅利「これまで、ごみの情報を蓄積してきたものの、ものづくりにまでコミットしたことはありませんでした。その意味では、これは、ものづくりの事も含めた共創のチャレンジかもしれません。プラスチック製品をみて、ここまでいらないだろうというものもあるし、この機能は必要というものもあります。処分の時にこうなってほしいといった消費者側の気づきがあるので、メーカーの人たちに一緒に議論に入ってもらうことで、消費者の気づきに触れていただけたらと思います。普通の人たちから聞いて、目から鱗ということもあったようです」

――消費者も自分たちの生活を見直すことになります。

浅利「チャートを造ると、まず、レジ袋はいらないとなります。次に話題になったのは、クレジットカードの枚数が多いことでした。話が進むと、いらないという人が多くなっていきました。輪に入っていた留学生は、『キャッシュレスが進んでいるので、カードは使っていない』。ペットボトルを減らすという人もいました。1回買うのを控えたら、100円貯金するという人もいて、やったら1万円たまったと。若者の方が進んでいるように思いました。もちろん、ある程度質の高い暮らし、シンプルな暮らしを考えている子と、コンビニとか、いろんな安い消費で楽しむ子に二極化していますが。前者の子は、ものをほしがりませんし、その意味ではものを選んでいます。ものとの付き合い方が上手になってきているのですね。そこにプラスチック製品の消費も入ってきていて、それがスマートだという方向に行っていると思います」

――学生が運営する「エコ~るど京大」でどんな活動をしているのですか。

浅利「総勢30人で、コアが20人のグループです。SDGsの公開講座や調査をしたりしていますが、私は、毎朝6時45分から、SDGsSのズーム配信をしています。私は、学生の寮母さんのような感じです。眠い目をこすりながら、自宅から、マイボトルダンス、グリーンリカバリーとか」

浅利美鈴(あさり・みすず)
地球環境学堂准教授。学生時代に「京大ゴミ部」を創設。「ごみ」をテーマに、ごみから見た社会や暮らしのあり方を提案。「3R・低炭素社会検定」の事務局長や「京都超SDGsコンソーシアム」世話役を務める。災害廃棄物の処理にかかわる研究調査も続けている。

※京都大学プラ・イド チャート について
実施は2019年10月。参加者は、京都大学で開いたSDGsに関する勉強会への参加者35人。Googleフォームに、各自のパソコンなどから入力してもらった。抽出したのは44品目。レジ袋、ストロー、使い捨てのスプーン・フォーク、シャープペンシル、ボールペン、歯ブラシ、ペットボトル、食品トレーなど様々で、それぞれ「いる」「いらない」を選択してもらった。結果の表を見ると、レジ袋や使い捨てのスプーン、フォークは、「いらない」が8割超、ダイレクトメールのプラスチック包装が同9割超。これに対し、ボールペンと歯ブラシは「いらない」がゼロ。おにぎり包装フィルム同約3割、家電製品のボディが同約1割と、必要性を感じていることがわかる。プラスチック製のまな板や食器、ペットボトルは半々といったところで、評価が割れている。ものによって、いる、いらないが随分違うことがわかる。「いる」「いらない」は個人の感覚を問うものだが、次にプラスチック製品を「避けやすい」か、「避けにくい」かを選択してもらった。

これは、現在実践している、「いる」「いらない」にかかわらず、もし、行動するなら可能かどうかの観点から、尋ねたものだ。おなじ、レジ袋と使い捨てのスプーン、フォークは、「避けやすい」が9割超、食器やまな板は、同7割超とあがった。しかし、ダイレクトメールのプラスチック包装は同5割超と下がった。ペットボトルはその用途によって上がったり下がったりまちまちだった。

次にこれを掛け合わせて考察したところ、「いるが、避けやすい」という回答が半数を上回る製品はなかった。またシャープペンシル、ボールペン、消しゴム、歯ブラシ、ごみ袋、家電製品のボディは、「いるし、避けにくい」との回答が多くなった。また、レジ袋やストローは「いらないし、避けやすい」が多くなった。消費者が求めないのに送られてくるダイレクトメールや雨天時の新聞のプラスチック袋は「いらないが、避けにくい」が多かった。ペットボトルは用途によって、回答が4つに割れた。

この回答を図示すると、上は、日常生活の中で使用を「避けやすいプラ」、下は、「避けにくいプラ」、左は「いるプラ」、右は「いらないプラ」と4つのコーナーに分かれる。

もちろん、これは個人の感想をもとに分けたものにすぎないが、これを見ると、どの品目から対策に手をうつかがわかってくる仕掛けになっている。

「いらないプラ」かつ「避けやすいプラ」のレジ袋、ストロー、使い捨ておしぼり、傘袋などが例示され、削減の取り組みが行いやすい。国がレジ袋の有料化やストローの無料配布の改善を事業者に求めた理由もわかるだろう。「いるプラ」だが「避けやすいプラ」の食器、家具などは、素材変更や代替の促進が可能とし、バイオマス素材などがあげられている。

「いらないプラ」だが「避けにくいプラ」の商品の外袋などは、リサイクルやエネルギー回収。「いるプラ」で「避けにくいプラ」の電化製品、おむつなどは、長期使用やリユースで。将来はバイオプラや代替品としている。

このチャート図を参考に、行政や企業による各製品の対策や方向性を見つけるのに役立つし、消費者が生活していく上での「気づき」が起きるメリットもありそうだ。

参考:エコ~るど京大 京都大学プラ・イド革命

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この記事を書いた人

朝日新聞記者を経て、フリージャーナリスト。廃棄物、自然保護、地球環境、公害など、環境の各分野に精通する。著書に『ルポ にっぽんのごみ』(岩波書店)『ディーゼル車に未来はあるかー排ガス偽装とPM2・5の脅威』(同、共著)、『環境省の大罪』(PHP研究所)、『赤い土(フェロシルト) なぜ企業犯罪は繰り返されたのか』(風媒社)、『社会を変えた情報公開―ドキュメント・市民オンブズマン』(花伝社)など多数。NPO法人未来舎代表理事として、政策提言や講演会などをしている。

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