亀岡市とカネカの協定締結式には、桂川市長と菅原会長が出席し、取り組みを誓い合った
杉本裕明氏撮影 転載禁止
「かめおかプラスチックゼロ宣言」で知られる京都府の亀岡市は、京都市の西隣に位置し、人口8万7,000人の中堅的な市だ。そのまちが、プラスチック削減のためのユニークな施策を次々と打ち出し、注目を浴びている。全国初のレジ袋禁止条例を制定し、いまや市民のレジ袋の辞退率は、ほぼ100%。企業と様々な協定を結び、市民の環境意識は高まる一方で、市民参加のもとで様々な行動をしているところは、ごみに悩む多くの自治体のお手本となりそうだ。亀岡市を訪ね、政策を展開する山内剛・環境先進都市推進部長と、市と協働で市民活動を展開する原田禎夫大阪商業大学准教授に話を聞いた。
給水スポット使い、ペットボトル削減
京都駅からJR嵯峨野線の電車に乗って約20分。亀岡駅で下車し、市役所に向かって歩くと、道路右側にイタリアレストラン「アムール」があった。壁を見ると、濃紺のフラッグが掲げられている。「おいしい水スポット」「リバーフレンドリーレストラン」と書かれている。市役所までは歩いて10分程度だが、それまでに、同様のフラッグとともに、「リバーフレンドリーレストラン」のフラッグを掲げる店もある。
おいしい水スポットの登録証を掲げたイタリアレストラン(京都府亀岡市)
杉本裕明氏撮影 転載禁止
2021年10月、亀岡市で、「BRITA Japan株式会社× mymizuチャレンジin亀岡」が行われた。マイボトルで給水するたびに、無料給水アプリ「mymizu」に記録し、チーム対抗の形式で、どれぐらいのペットボトルを減らせるかを競ったという。
これは、市と協定を結んだドイツに本社があるBRITA社が、事前に登録した市民に浄水機能付きのマイボトル800本を無償提供、市に登録した約40カ所(現50カ所)の飲食店や公共施設にある給水スポット(水道水提供)を活用する。公共施設の7カ所にはウォーターサーバーが設置され、いずれも市民が無料で利用できる。先の市に登録した「おいしい水スポット」を掲げる店も参加した。
同社は、浄水機能付きのマイボトルなどを製造・販売する会社だ。アプリは一般社団法人Social Innovation Japanが開発、提供したもので、給水スポットの位置を知らせるほか、参加者は、自宅の水道水からマイボトルに詰めた量も含め、マイボトルで飲んだ量を、アプリに記録していく。
この1カ月にわたるイベントには274チーム、計900人が参加した。1カ月間に、使わずにすんだペットボトル(500ミリリットル)は3万7543本に達した。これによって、ペットボトルの製造と処分の過程で排出されるCO2約12トンが削減できた計算になる。
BRITA Japanのホームページ によると参加者から、「全国に広がってより多くの人の意識が変わるといいと思った」「このようなイベントがあると、自然と環境を意識するようになる」などの声が寄せられたという。
参考:BRITA 『BRITA Japan株式会社×mymizuチャレンジin亀岡』にて ペットボトル37,543本削減、二酸化炭素量推定12,502kg※の削減を達成
市役所に入ると、1階のフロアに「ともに生きる プラごみゼロ」と書かれた大きな垂れ幕があった。隣の垂れ幕には、「小さなことでもこつこつと」「命を守る」「親切」「世界とつながる」「ゴミへらし」「考えも変えていく」「わが広がる」「アザラシの悲鳴」「陸亀とウミガメ」「ゼロ限りなく」など、市民が寄せた標語が並ぶ。亀岡市と市民の意気を感じさせる。
1階にある環境先進都市推進部がこの政策を担う実行部隊だ。翌日に亀岡高校と南丹高校の高校生たちがプラごみをテーマにしたトークセッションを開催するため、職員らがその準備作業をしていた。模造紙に両校のトークセッションを知らせる文字が手書きされており、若い職員たちは楽しそうだ。「BRITA Japan」と市が共同開発した教材を使って進めてきた環境学習の成果を発表するという。
そばの別室で、山内剛・環境先進都市推進部長がにこやかな表情で迎えてくれた。部長席と他の職員を分ける仕切りには、先のフラッグと、幾つかの紙袋が下げられていた。「WE CHOOSE」「WE CONENECT」「WE TAKE ACTIONS」などと大きく表示されている。おしゃれで、物言う紙袋だ。
「レジ袋の代わりに使う紙袋を造ることになったのですが、いろんな形にし、そこにメッセージを入れてみたのです。市民に好評なんですよ」。山内さんが説明した。
「プラゼロ目指して様々な取り組みを続けていきたい」と語る山内部長
杉本裕明氏撮影 転載禁止
先の給水スポットを使ったイベントについて尋ねた。
「ゲーム感覚でやったところがよかった。フラッグは、給水スポットとして登録していただいた方に渡し、掲示してもらっています。なにしろ、亀岡市は水道水がおいしいところです。だから、この試みはぴったりでした」
市は、自然の恵みをマイボトルに注ぎ、ペットボトルを削減しようという思いに賛同した店舗を亀岡の「おいしい水スポット」に登録し、現在54カ所が登録している。市は公共施設とすべての小中学校にウォーターサーバーを設置し、ペットボトルの削減を進めている。
亀岡市で設置が進む給水器。これをつかってペットボトルの削減を図っている
亀岡市提供 転載禁止
ちなみに無料給水アプリ「mymizu」を開くと、市内地図に登録した店が現れた。だれもがこれを頼りに給水することができる。
また、このイベントを担ったBRITA Japan、アプリのSocial Innovation Japanと亀岡市はそれぞれ協定を結んでいるという。いずれも「プラごみゼロ宣言」を行い、多様な取り組みをしている市と協定を結び、市と共同で様々な取り組みを行っていくことを約束した。このイベントも両者の提案で実現した。
実は、2018年に「プラごみゼロ宣言」を行い、20年にレジ袋の提供を禁止する条例が制定されてから、市と協定を結びたいと提案する企業が相次いでいる。
個別の連携協定としては、先のBRITA Japanと20年6月に協定を結び、先のイベントでのボトル提供と、タンク型浄水器の寄贈、環境教育の実施、環境イベントでのボトルサンプリングを定めた。環境教育では、市と一緒に文部科学省の「学習指導要領」と消費者庁の「エシカル消費普及・啓発活動」に則して作成し、「プラごみ削減のために何ができるか」を念頭に授業が展開された
個別の協定は、他に(株)ユニクロ亀岡店は、中学校での環境教育の実施、ソフトバンク(株)が小学校で「Pepper」を活用した教育プログラムの実施などがある。
21年に市はSDGsの理念を意識した、「かめおか未来づくり環境パートナーシップ協定」を創設した。
先の「mymizu」のSocial Innovation Japanのほか、小中学校・義務教育学校へのウォーターサーバーの設置(ウォータースタンド[株])、ポケトルSの市内保育所、幼稚園等への配布とイベント([株]DESIGN WORKS ANCIENT)、市内エコゲートBOXを使った使用済み小型家電回収イベントの実施(日本紙業[有])、市役所や学校に全国初のステンレスボトル回収ボックスの設置(タイガー魔法瓶[株])、農業分野、堆肥化での生分解性ポリマーGreen Planetの実証実験と環境教育([株]カネカ)、プラごみゼロやカーボンゼロなど環境配慮の取り組み([株]カインズ)といった具合だ。
これまで全国の自治体を見回すと、レジ袋削減のためにスーパーや個別企業と、レジ袋の有料化やエコバッグの持参推進を掲げ、協定を締結する例が多かった。亀岡市も19年にスーパーや商店街などと「エコバッグの持参とレジ袋の大幅削減の取り組み」の協定を結んでいる。そしてその実績をさらに進め、プラスチック製レジ袋の提供禁止に踏み込むことになる。
18年12月に「プラごみゼロ宣言」した市が、具体策の第一弾として放ったのが、プラスチック製レジ袋の提供禁止条例(21年1月施行)。国が有料化を打ち出していることから、市内でも賛否が割れたが、市は実施に踏み切った。
施行に当たって市は数十回の説明会を、公民館で自治会や町内会向けに行い、理解を求めた。「『配布を禁止されたら客が減る』と心配する店主もいましたが、実施されると影響を懸念する声はありませんでした。それまで市内の店舗のレジ袋提供枚数は約10万枚だったのが、1万2,000枚に激減し、マイバッグ持参率は80%台から98%に跳ね上がりました」と、山内さんは振り返る。
市は記念として大きなバッグを作成した
亀岡市提供 転載禁止
プラスチック製レジ袋の提供禁止とともに、紙袋も無償提供でなく、有料化を求めることになった。国によるレジ袋の有料化が実際された全国のスーパーやコンビニの辞退率が6~7割なのと比べても効果の大きさがわかる。
市は、自分で歩きながら、気になったごみを拾う「エコウォーカー」の登録事業も行い、約1,070人が登録した。登録すると、ごみをつかむトング、BRITA社の浄水機能付きボトルと特製の「HOZUBAG」がもらえる。バッグは、亀岡市で盛んなパラグライダーの使用済みの帆を利用して作られたもので、丈夫で軽く、防水性のある「優れモノ」だ。おまけにデザインがよく、おしゃれだ。市が市内の芸術家の提案と協力を得て行った「KAMEOKA FLY BAG Project」で生まれた。
FLY BAGワークショップで市民が巨大なバッグを制作した
亀岡市提供 転載禁止
ハンググライダーの生地で作った買い物袋など
杉本裕明氏撮影 転載禁止
周囲を山に囲まれた盆地で、気流が安定している亀岡市は、パラグライダーや気球による「スポーツアクティビティ」の町としても知られ、それをうまく生かした取り組みといえよう。
保津川守る船頭の運動
こうした運動の源流は、2000年代初めにさかのぼる。京都府亀岡市を縦断するように流れる保津川がそうである。亀岡盆地から京都市の嵐山までの16キロ、さらに桂川となり、淀川に合流し、大阪湾に行き着く。渓谷の16キロ間は船頭の誘導で川下りを楽しむことができる。
大阪商業大学准教授の原田禎夫さんは、亀岡市民として保津川の環境保全活動を続けてきた人で、NPO法人プロジェクト保津川の代表理事を務める。その源流となるできごとを原田さんに語ってもらおう。
自然環境の保全活動を続けてきた原田禎夫大阪商業大学准教授
杉本裕明氏撮影 転載禁止
「亀岡に生まれた私は、保津川で魚をとったり、川遊びをしたりして育ちました。通った安詳小学校の校歌にも保津川がでてくるんですよ」
校歌はこんな詩だ。
♪千歳の山を あおぎつつ
保津の流れを むすびつつ
名も安詳の 学び舎に
いそしむ我らに 幸多し
ああたのもしや この集い
同志社大学で経済学を学び、大学院を出て大阪商業大学の専任講師になったばかりの頃だった。原田さんが参加する水問題の勉強会に保津川下りの船頭たちがやってきた。そして廃ペットボトルなどのプラごみがあふれかえる保津川の惨状を訴えた。
保津川の川岸にはペットボトルやプラスチックの袋類など大量のプラスチックごみが
原田さん提供 転載禁止
原田さんが語る。
「90年代になって、プラスチックが目立つようになりました。96年に小型ペットボトルの販売の自主規制が撤廃されたことから激増し、他のプラスチック袋なども含め、保津川は廃プラスチックの堆積場となってしまいました。それに頭を痛めたのが保津川遊船企業組合に所属する船頭さんたちで、森田孝義さんと豊田知八さんが清掃活動を始めたのが発端でした」
二人が始めた清掃活動は、やがて若手の船頭たちに広がり、05年から船頭の組合として清掃活動する「保津川ハートクリーン作戦」を始めた。
こんな形で保津川で清掃活動が行われている
原田さん提供 転載禁止
しかし、行政の関心は薄く、危機感を感じた豊田さんらが、原田さんが参加する勉強会に出て窮状を語ったのだった。保津川はすでに船頭だけの問題ではなく、原田さんが現地で調べるほど、ポイ捨てをやめましょうという程度の話ではないことが明らかになっていった。
そして、プラスチックごみは、保津川から桂川へ、さらに淀川に合流し、大阪湾に流れ込み、現在、大きな社会問題となっている海洋汚染をもたらすのである。
保津川下り400年を迎えた2006年、原田さんや、船頭さんたちは、市民を巻き込み、保津川を清掃するイベントを行い、約800人が参加した。
「これで終わっては惜しいと思ったのが、2007年のNPO法人化のきっかけでした」と原田さん。設立メンバーには、亀山市職員から同市議をへて、その年に府議会議員になったばかりの現市長の桂川孝裕さんもいた。
保津川の清掃活動。みんなで汗を流す
原田さん提供 転載禁止
京都学園大学の教授だった坂本信雄さんを代表理事に、原田さんを副代表理事にして、立ち上がった「プロジェクト保津川」は、やがて、毎月1回の清掃活動の参加者の激減に遭遇する。参加者がみるみる減って、NPO法人の理事たちだけでやっているような状態に陥った。「これじゃいけない」と悩んでいた理事たちの目を開かせる機会が巡ってきた。
山形県の最上川を舞台にごみマップを作る取り組みが、市民と行政が一緒になって行われていた。「県内全域で、どんなごみが、どこにどれだけあるのか、地図に落としてみる。ごみを拾うだけではなく、調べることが大事なんだ、市民と一緒につくることなんだと、わかったのです」と原田さん。
2009年頃から、保津川のごみマップを作り始めた。場所、写真、時期、ごみの種類を調べた。もちろん、回収する。これに自治会など多くの市民が参加していった。それを地図に落とし、データも含めて、スマートフォンで誰もが簡単に見ることができるようにした。
「調べることで、どうやったら減るのか、ごみを無くせるのかを考えるようになります。清掃活動の参加者も増え、いまは、ごみがほとんどないまでになりました」
保津川をゴムボートで下る。清掃だけでなく、こうした楽しみも保津川とかかわることで得られる
原田さん提供 転載禁止
2018年に調査した保津川のごみの組成を見ると、ポリ袋・シートの破片が261個、買い物レジ袋が107個、飲料ペットボトルが75個、硬いプラスチックの破片が63、飲料缶が57個、食品のプラスチック容器が46個など。大半がプラスチックだ。
2012年には、内陸部の自治体としては初の「海ごみサミット」を亀岡市で開催した。その頃には、行政の関心も高まっており、前年の11年には市の第4次総合計画に、「漂着ごみの発生抑制に努める」ことが明記された。そして保津川の清掃やプラごみの回収が始まった。ちなみに部長の山内さんは、市の総合計画にプラごみ削減を掲げた時、漂着ごみ対策を担当する環境政策課の担当係長だった。
会は、いま、坂本さんに代わり、原田さんが代表理事となって、毎月1回の清掃活動のほか、イカダ流しの復活、伝統漁法でアユを捕ってみんなで食を楽しむイベントなどを行っている。
集めたプラスチックごみを袋につめ、船で運ぶ
原田さん提供 転載禁止
原田さんが言う。
「レジ袋を禁止してもプラスチックの2%しかないという批判があるが、それは違う。まずはやれるものから実施することと、それが市民の行動変容につながるという効果がある」と語る。そして、国にこんな注文をつける。「日本は、20年前はリサイクルの技術開発も行い、世界のトップランナーだった。しかし、その後産業界に過度に配慮し、旧来のシステムを温存してきたために、世界に遅れてしまった。今後は、例えばリサイクルしやすい製品を設計させるというなら、それを促進させるような政策と仕組みが必要ではないか」
一括回収のメリットとデメリット
その亀岡市は、環境省の一括回収の実証実験に参加した。2021年11月、4地域で、従来の容器包装プラスチックに加え、製品プラスチックも回収したあと、袋を開けてその量や金属などの異物の種類と量などを調べた。それをもとに一括回収の可能性と課題を検討する。「埋立処分場の延命化もあり、製品プラスチックは埋め立てごみとして収集しているが、容器包装リサイクル法(容リ法)のルートに乗せるか、あるいは市で独自にリサイクルできるか検討していきたい」と、山内部長は語る。
盆地にある亀岡市は、霧のまちとしても知られる。それを利用し、市内の芸術家らの協力を得て、「かめおか霧の芸術祭」を展開している。国の「SDGs未来都市」に選定され、霧の芸術祭をハブに、行政と芸術家らが協働し、課題に取り組む「亀岡市SDGs未来都市計画」のモデル事業を進めている。
さて、筆者が亀岡市を離れた翌日、市役所地下1階のアトリエで、亀岡高校と南丹高校の生徒、BRITA Japanの社員、市職員らが参加し、これまでの学習や研究、取り組みの成果を話し合う「プラごみゼロトークセッション 」があった。
トークセッションでは、高校生たちが、環境学習の成果を発表した
亀岡市提供 転載禁止
亀岡高校では、この年、探求文理科1年生に7回の環境教育の授業があり、プラごみの現状や保津川を調べたりした。この日の発表では、同じ1年生全体を対象にしたプラスチックごみの意識調査では、マイバッグやマイボトルの持参率が高いことや、プラごみの知識にばらつきのあったこと、知識を身につけることの大切さを知ったことが報告された。
参考:亀岡市公式ホームページ 高校生が考える、プラごみゼロへの道
南丹高校では、3年生の人間科学分野を選んだ40人に12回の授業が行われた。生徒は、自分たちでつくったカレンダーやパンフレット、保津川をバックにきれいな川を守ろうと呼びかける動画を紹介した。
グループに分かれて議論した後、この日、環境学習を頑張った証として、桂川市長、BRITA Japanのマイケル・マギー社長から修了証が渡された。
景品を受け取って喜ぶ高校生
亀岡市提供 転載禁止
この成果報告会は、前年度も行われ、そこでマギー社長は、これら高校生の学習成果に対し、こんなコメントをしている。
「我々もコレクティブインパクトを大事にしている。ひとつの行動をいろいろな形、いろいろな人々がすることによって、大きな流れをつくるという意味だが、『つながりを大切にする』というのはとてもいいキーワードをみつけたと思う」(同社HP)
参考:BRITA 亀岡高校・南丹高校の生徒たちが「プラごみゼロアクション 成果報告会」で環境活動を報告
マギー氏の言うとおり、「コレクティブインパクト」が、これからは、亀岡市だけでなく、日本全体にとってこそ重要であることを、痛感させられる。
参考文献:『河川環境保全と水運文化の伝承に見る市民協働の展開と課題―保津川(桂川)の環境保全活動におけるレジデント型研究によるアプローチ―』(原田禎夫、景観生態学24,2019)
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