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プラスチック社会を変えるか?プラスチック資源循環促進法の施行4月から 何が変わるのか解説

港資源化センターでのラインでの選別作業。異物を取り除く
杉本裕明氏撮影 転載禁止

プラスチックをめぐる様々な急速な動きが続いています。身の回りにあふれるプラスチック製品は、私たちの生活になくてはならないものです。しかし、マイクロプラスチックによる海洋汚染や、燃やした時に発生する大量のCO2など、負の側面もあります。そんなプラスチック社会を資源循環の観点から変えていくために、昨年、プラスチック資源循環促進法が制定されました。この4月1日に施行され、法律に沿って、いくつかの動きがでてきそうです。法律は何を求めているのか、その要点を解説しましょう。

ジャーナリスト 杉本裕明

目次

4月1日に施行されるプラ促進法のポイントは5つ

昨年6月に公布されたこの法律は、あえていうと、何でも取り込んだ法律。見方を変えると何をやるのかはっきりしない法律です。新聞やテレビは、法律の一部を切り取って、報道していますが、全体像がよくわかりません。

促進法の名の通り、国民や事業者に強い規制を負わせることのない法律です。国民に使い捨てプラスチックの削減を求め、プラスチック製品を製造、販売したり、プラスチックごみを大量に排出する業者が、自ら回収し、リサイクルしやすいような仕組みが取り入れられています。

ポイントは5つあります。

自治体のプラスチックごみの収集範囲が広がりそう

現在、全国の市区町村の3分の2が、家庭から出たペットボトルと、プラスチック製の容器や袋を回収しています。これは、容器包装リサイクル法が定めたもので、この法律に参加する自治体は、これらのプラスチックごみを集めたあと、リサイクル業者に引き渡します。

リサイクル業者は、これをペレットにしてリサイクル製品にしたりしています。このリサイクル費用は、容器包装を製造したり、中身を詰めて販売したり、消費者に販売したりしている事業者が分担して払っています。

ペットボトルは、逆にリサイクル業者がお金を払って手に入れ、リサイクルしていますから、費用を負担するのは自治体だけにとどまっています。


リサイクル工場に運ばれたペットボトルのベール
杉本裕明氏撮影 転載禁止

今度は、それに加え、製品プラスチックごみが加わります。例えば、文房具、CD、おもちゃ、100円ショップで買った日用品といったものがあてはまります。

家庭から排出されるペットボトルを除いたプラスチックごみのうち、これら製品プラスチックごみの比率はだいたい1~2割といわれています。

自治体がこれを行う時には、ペットボトルを除く容器包装ごみと一緒に製品プラスチックごみを排出し、自治体が回収することになります。参加は自由ですが、製品プラスチックの回収や保管・選別、そのあとリサイクル会社に払うリサイクル費用は、自治体が税金から支払うことになります。

容器包装のリサイクル費用は、事業者が負担しているのに、製品プラスチックのリサイクル費用を自治体が負担することになった理由について、環境省は「製造・利用業者が多すぎ、把握できない。一部の費用は国が補助することになった」と説明しています。

環境省によると、51自治体が興味を示し、実施にむけた検討などをしていますが、新たな負担を嫌って参加する自治体は少数にとどまるのではないでしょうか。

プラスチックのリサイクル量を増やすことが、政府の狙いですが、「そもそも、容器包装を分別収集せず、燃やしている自治体が全国の3分の1もある。東京23区では半分以上の12区が燃やしている。こちらの改善の方が先決ではないか」と指摘する声もあります。

メリットとしては、リサイクル量が増え、これまで燃やしていたプラスチックの有効利用が進むことがあります。

これまでは、プラスチック容器包装は「プラごみ袋」に、プラスチック製品ごみは「可燃ごみ袋」に、分けて出し、その際に、これはどっちだろうと悩み、かなりの容器包装ごみが、「可燃ごみ袋」に入れられ、燃やされていたことが、自治体の調査でわかっています。

名古屋市など、幾つかの自治体の調査では、容器包装ごみと製品ごみを一括して一つの袋に入れて出すことで、「プラごみ袋」に入る容器包装ごみの量が3割程度増えており、一括回収で、リサイクル量は間違いなく増えるでしょう。

使い捨てのスプーン、ストローなどが消えたり、有料になったりする

環境省は、22年1月、使い捨てプラスチックのうち、事業者に削減に取り組んでもらう「特定プラスチック使用製品」に12品目を指定しました。

具体的には、フォーク、スプーン、ナイフ、マドラー、ストロー、ヘアブラシ、くし、カミソリ、シャワー用キャップ、歯ブラシ、ハンガー、衣類用のカバーです。

これらを消費者に提供している事業者(ホテル、コンビニ、デパート、クリーニング店など)に、削減の努力が義務づけられました。無料配布をやめたり、有料化したり、別の素材に変えたり、受け取らなかった消費者にポイント還元したり、いろんな方法が例示されています。

その中で、年間5トン以上消費者に提供している事業者は、「特定プラスチック使用製品多量提供事業者」とされ、取組が著しく不十分な場合には、国は勧告し、従わないと公表し、それでもダメなら命令を出す仕組みもあります。また、5トン未満の業者に対しても削減努力を求めています。

しかし、この法律は、事業者に義務づけるのではなく、自主的な取組を促進するのが目的のソフトな法律で重い罰則もありません。指導、勧告、公表、命令は、緩い仕組みですが、それでも発動されることはほとんどないでしょう。

これは、使い捨てプラスチックに的を絞ったわかりやすい取り組みです。4月から12品目については、店やホテル、クリーニングなどで無料配布がなくなったり、様々な工夫が始まりそうです。

すでに実施されているレジ袋の有料化とよく似た効果があるのではないでしょうか。レジ袋は、有料化を義務づけた(これは容器包装リサイクル法の規定をつかっています。環境官僚は頭がいい)ことで、数割の辞退率しかなかったコンビニの辞退率は7割になりました。

ただし、スプーンとかの使い捨て製品の無料配布の禁止は、お隣の韓国では20年以上前にやっていますから、そんなに先進的な取り組みともいえません。

スターバックスが、プラスチック製のマドラーやストローをやめるとか、代替品に替えるといった報道が一時期、盛んだったように、すでに大手の事業者が取組を進めており、それが一気に広がりそうです。

ただ、プラスチック量としては、たかがしれています。900万トンにのぼるプラスチックごみの排出量に占める量は微々たるものだと言われています。

メーカーなどによる独自の回収が広がる

プラスチック製品を製造・販売する事業者に、利用量の削減などの対策を求めています。その動きを促進するために、事業者が、使用済みの製品を自主回収する「自主回収・再資源化事業計画」を作成し、環境省が認定した場合、使用済み製品を運んだり、リサイクルしたりする際必要な、廃棄物処理法上の認定(収集・運搬やリサイクル施設で処理することの許可をとるとか)が不要です。

すでに幾つかの大手のメーカーが取り組みをはじめています。例えば、花王とライオンは、洗剤を入れたボトルや詰め替え用の袋を使用後、消費者から共同して回収し、リサイクル工場で、リサイクルする準備を進めています。

これまでは、容器包装リサイクル法のもとで、自治体が家庭から回収していましたが、これからは、個別の企業が個別の使用済み製品について回収する取組が、広がっていくのではないでしょうか。

わかりやすいのが、スーパーのトレイの回収です。大手のエフピコがスーパーと協定を結び、消費者が回収箱に投入したトレイを回収し、リサイクル施設で、トレイに戻しています。これと同じようなことが、ペットボトル以外のボトルや容器で始まるのではないでしょうか。


スーパーには、ボトルやトレイの回収箱が置かれている。自治体に引き渡したり、自らリサイクル業者に渡して、リサイクルされる(川崎市)
杉本裕明氏撮影 転載禁止

メリットとしては、その製品を造ったメーカーは、その製品の材質などについてよく知っており、よりリサイクルするための努力をすることが期待できることです。他の容器包装と一緒に集めてやるよりも、均質の材質が集まることで、高度なリサイクルができる可能性があります。回収したボトルを再び、ボトルに再生することができるかもしれません。

ただ、容器包装を扱っている大手企業がこぞってやると、それまで、容器包装リサイクル法のもとで、自治体が集めていた容器包装ごみの量が減っていくことになります。単純に、企業が集めた分だけ、リサイクルが進むとは言えません。


プラスチックを集めても利用されないとこんなことになる。集めた業者は倒産し、工場のあとに、プラスチックごみの山があった(三重県)
杉本裕明氏撮影 転載禁止

プラスチックごみを出す事業者が自らリサイクルに取り組みそう

この法律では、年間250トン以上のプラスチックごみ(産業廃棄物)を排出する事業者は、「多量排出事業者」と位置づけられ、排出の抑制や再資源化に関する目標を定め、達成するための取組が求められます。「再資源化計画書」を作成し、国が認定した場合、廃棄物処理法に基づく許可は不要になります。取組が著しく不十分な場合には、勧告→公表→命令の仕組みがあります。それ以外の排出事業者も必要に応じて指導・助言を行うことになっています。

先のメーカーの場合と同様に、国の認定を受けると、プラスチックごみの輸送とリサイクルをする際に、手間ひまのかかる廃棄物処理法での許可を受けずにやれることで、やりやすくなります。国は、手続きを簡素化することで、リサイクルの動きを加速させようと考えています。

一方、産業廃棄物業界は、収集・運搬やリサイクル施設で処理することの許可、処理施設の許可をとって営業しているので、他の業界の業者がこの世界に参入されることを嫌っています。例えば、環境省の認定をうけると、普通の運送業者さんも、プラスチックごみを運ぶことができます。

産廃業界は、不適切な扱いや処理が行われる可能性があるので、環境省所管の団体が行っている講習会を受けさせよと要望しています。講習会の受講は事実上、義務となりそうです。

リサイクルしやすい製品設計を促す

3R+再生利用を意識した環境配慮設計に関する指針を環境省が示しました。指針に適合した製品であることを環境省が認定する仕組みによって、プラスチックを扱うメーカーは、この指針に沿って製品の設計や製造をすることを求められます。

リサイクルしやすい製品づくりは、長年の課題でした。今回、こういうものにしなさいという指針を示し、業界に求めるのはよいことだと思いますが、業界が一斉に動くかどうかは別問題です。それを促すインセンティブがあるかどうかが、大きな課題としてあるからです。

例えば、再生したプラスチック原料でつくったトレイが収納された冷蔵庫を販売しようとしても、消費者が買ってくれないと、メーカーは造ろうとしません。EU(欧州連合)では、環境配慮設計がかなり進んでいて、今回、EUは、容器包装の3割は再生プラスチックに替えることを事業者に義務づけています。

だから、プラスチックごみから再生されたペレットは高い値段で販売され、製品に使われています。消費者も100%バージンプラスチックで造った製品よりも、再生プラスチックを混ぜて造った製品の方を選択する傾向があるそうです。


ドイツでは、プラスチックごみの資源循環の取り組みが進む。スーパーのレジ袋の有料化は20年前から、ペットボトルのデポジット制はもっと前から。計り売りが多く、容器包装を抑制している
杉本裕明氏撮影 転載禁止

日本にはその仕組みがなく、消費者の環境志向が、ドイツなど欧州の先進国より弱いという問題があります。かたやEUは、廃棄物となったプラスチックを資源と見て、回収、リサイクルして製品化し、消費者の手に戻す。この循環の輪をどんどん広げていく「サーキュラー・エコノミー」と呼ばれる政策を進めています。どんどん先を行く、EUに置いてきぼりを食わないためにも、行政、事業者、市民の3者の取組を、この法律の施行で進めていかねばなりません。

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この記事を書いた人

朝日新聞記者を経て、フリージャーナリスト。廃棄物、自然保護、地球環境、公害など、環境の各分野に精通する。著書に『ルポ にっぽんのごみ』(岩波書店)『ディーゼル車に未来はあるかー排ガス偽装とPM2・5の脅威』(同、共著)、『環境省の大罪』(PHP研究所)、『赤い土(フェロシルト) なぜ企業犯罪は繰り返されたのか』(風媒社)、『社会を変えた情報公開―ドキュメント・市民オンブズマン』(花伝社)など多数。NPO法人未来舎代表理事として、政策提言や講演会などをしている。

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