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市民参加で市役所隣に美術館のような清掃工場を造った武蔵野市の実験(上)

クリーンセンターの外観はおしゃれだ
杉本裕明氏撮影 転載禁止

家庭から出た可燃ごみを焼却する清掃工場は、住民に必要な施設であるにもかかわらず、迷惑施設として嫌われがちだ。だから、住宅地から離れた山の中に設置されることが多い。しかし、最近は、ごみを燃やした熱を利用して発電し、売電する「エネルギー供給施設」の役割を期待されている。そんな中、住民の理解を得て、市役所隣に設置したのが東京都武蔵野市だ。閉鎖的なごみ処理施設から、市民に開放され、市民活動の拠点としての「地域にあってほしい都市施設」への脱却を目指したユニークな施設は、どうやってできたのか。

ジャーナリスト 杉本裕明

目次

市役所隣におしゃれな清掃工場があった

JR東の中央線、三鷹駅からバスで10分。東京都武蔵野市役所の裏隣にクリーンセンターがある。

そばの煙突を除くと、景観に配慮した高さ15mの雑木林をデザインした建物はまるで美術館のようで、「グッドデザイン賞」を受賞したのもうなずける。

概観は、パリ市の隣のムリノ市に広域事業体SYCTOM(パリ市と周辺の計85市町で構成)が設置した大規模清掃工場に似ている。


運ばれてきたごみは、下のピットに落とされる
杉本裕明氏撮影 転載禁止

半地下構造で、焼却炉を地下に埋めた。ごみ収集車が地下室のピットに吸い込まれていく。煙突の見えない清掃工場だった。1日に1,500トン燃やせる大工場で、パリ市民が出した家庭ごみを処理している。

建設当時、現地を取材したが、立地の選択と環境にどう配慮したかを、SYCTOM幹部が、筆者にこう語ったことを思い出した。

「すぐそばに企業が幾つもあり、蒸気供給することができる。セーヌ川の側だから、船で建設資材を運ぶことができる。景観に配慮し、コストは高くなるが、地下に埋めることにした。これからの処理施設は、住民から歓迎されるような施設でないといけない」

清掃工場を受け入れたムリノ市の市長は、筆者にこう言った。

「フランスでは、清掃工場を受け入れた市には、財政支援があります。環境に配慮した立派な清掃工場ならよいと、市内での立地を受け入れました」

武蔵野市のクリーンセンターも同じ発想からできていた。

蒸気を市役所や総合体育館に供給

2017年春に稼働したクリーンセンターは、市役所の隣に設置されている。発電した電気と蒸気を市役所、総合体育館、コミュニティセンター、中学校などの公共施設に供給している。焼却炉は60トン炉が2炉、日120トンの処理能力と、23区にある清掃工場と比べて数分の1の大きさだ。

しかし、発電能力は2,650kwあり、年間1万3,595M(メガ)w時発電し、供給した残りの4,310Mw時を売電している。FIT(固定価格買取制度)が適用され、余剰電力を電力会社に売電し、年に6,500万円の収入を得ている。


太陽光発電量を知らせるパネル
杉本裕明氏撮影 転載禁止

屋上には太陽光発電施設(最大出力10kw)が設置され、さらにプラント内を循環する管の中の水の落差を利用し、水車を回して小水力発電設備(最大出力3kw)が設置されている。屋根には雨水を集めて地下のピットに貯め、クリーンセンターのトイレの洗浄水や屋上につくった菜園の水やりに使うなど、エコが満載された施設になっている。

ガラス越しに様々な装置が


クリーンセンターの中はまさしくガラス張りだ
杉本裕明氏撮影 転載禁止

施設の入り口は2階にあり、フロアから見学コースに入る。他の自治体の清掃工場と違い、市民に開かれ、だれでも、いつでも見学できるところが素晴らしい。

壁にあるパネルに沿って歩くと、大きな窓があり、そこから内部を見ることができる。その脇の壁に説明を書いたパネルがあり、液晶画面をタッチすると説明が始まる。

施設をコンピューターで制御する中央制御室は、普通は公開されていない。しかし、ここでは、ガラス張りで、職員らが画面を見ながら操作、チェックしている様子をガラス越しに見ることができる。


プラントの制御室もガラス張りだ
杉本裕明氏撮影 転載禁止

重要な装置もガラス越しに見ることができる。


プラントの様子もこの通り
杉本裕明氏撮影 転載禁止

焼却炉室は、その一部がむき出しで、太いパイプが見える。パネルにこんな説明があった。
「ごみを燃やす『焼却炉』と『ボイラ』『エコノマイザ』『ろ過式集じん装置(バグフィルター)』という装置が設置されています。『焼却炉』は、階段状の火格子『ストーカ』の上で、ごみをゆっくり動かしながら2~3時間かけて完全燃焼させ、灰にする装置です――」

発電施設はこんな説明だ。
「『蒸気タービン発電機』は、ごみを燃やしてつくられた高温高圧蒸気を使って発電する装置です。『蒸気タービン』の内部には大きな『羽根車』が並んでおり、これを高温高圧蒸気の力で回転させ、『減速機』を介して『発電機』を回すことによって、1時間あたり最大2,650kw(一般家庭約6,000世帯分)の電気を生み出すことができます」

「合意形成が大事」と市

このクリーンセンターの建設計画に携わった、ごみ総合対策課地産地消エネルギー推進担当の神谷淳一課長補佐に話を聞いた。
「市役所の隣、しかも、住宅密集地のど真ん中と言ってもよい。こんなところに造ると言って、住民がよく反対しなかったですね」

尋ねると、神谷さんが言った。
「元々の焼却施設がこのクリーンセンターの隣にありました。老朽化し、建て替えなければならなくなりました。そこでどこに建てるか、どんな形式にするかについて、立地からデザインまで、すべて住民と話し合いながら決めました。市役所の仕事は、住民との合意形成を進めることで、私の仕事の大半をそれが占めています」

旧施設の老朽化に伴い、市は施設の機能検査を行い、大規模改修と建て替えを比較考量し、建て替えが不可欠との結論を得た。

2008年6月に策定された基本構想では、課題を整理し、その後の議論を市民参加による委員会に任せることになった。同年8月に「新武蔵野クリーンセンター施設まちづくり検討委員会」が設置され、「整備用地」「施設のあり方」「周辺のまちづくり」の3点を検討することになった。

その初回の委員会には、現クリーンセンター周辺の住民代表や商店街の代表、公募委員からなる。寄本勝美早稲田大学教授が委員長、田村和寿桐蔭横浜大学教授が副委員長に選ばれた。

「トップクラスの市民参加」

邑上守正市長(当時)があいさつした。
「いろいろな人に愛されるきれいな街・武蔵野市であるのは、ごみ問題や環境に関心がある市民が多い事があると思われ、今後もその努力を続けていかなければいけない。クリーンセンターの建設・運営は地域の方々とのパートナーシップに基づいて行われ、そのパートナーシップを基に新しいクリーンセンターのあり方を考えて欲しい」

寄本さんが語った。
「現在のクリーンセンター建設の時も委員としてかかわらせていただき、とても感慨深く思い出します。クリーンセンターの建設は世界的にトップクラスの市民参加の仕組みで行われました。どうぞ皆様と一緒に1つの成果を出していければと思います」

寄本さんは、現クリーンセンターの建設場所をめぐって住民紛争が起きた時、市が設置した委員会の委員長となり、紛争をおさめた人だ。市民参加のもとで施設づくりの基礎をつくり、武蔵野市が市民参加を基本とする市政を行うのに貢献した。

市民の自己紹介が続いた。現クリーンセンター周辺住民と市による運営協議会があり、センターの運営が開示され、定期的に協議がされている。住民によるチェック組織とも言える。その協議会から3人が委員に選ばれた。

「第二の人生つぎこんで議論」

早川峻委員(運営協議会・吉祥寺北町五丁目)「クリーンセンターは、炉もすぐに修理する事や排ガスの排出制限も厳しく設定して遵守し、非常に素晴らしいなと思っています。最新の技術で新しい焼却炉を建設していきたい。どこに建設しても、その建設した場所の住民には被害を最小限に抑えていくという形でやっていきたい」

越智征夫委員(同・緑町三丁目)「クリーンセンターがある緑町3丁目には旧地主が多く、新しいクリーンセンターを良いものにし、しっかりとその説明をしなければいけない重責を感じています。クリーンセンターが出来て24年、思った以上に悪いものではなかったなと思っています。メンテナンスをしやすい施設にし、建て替えを100年くらいのスパンで考えられるよう考えて準備したいと思います」

石黒愛子委員(同・緑町二丁目三番)「今のクリーンセンターを建てる時にもかかわり、一回目は私の青春時代をつぎ込んだのですが、今度は第二の人生をつぎ込むことになりそうです。建設の時には行政側と丁々発止をいたしまして、煙突のしま模様ひとつでも行政側は縦じまに、私たち周辺住民は横じまにというように、かなり刺激的で対立的な会議でした。煙突が59メートル、稼働が59年、当時の市長が『まさか市民参加で建つとは思わなかった』と号泣したという事で、『59会』という同窓会もあります。今では同窓会をできるまでにパートナーシップを作るようになっている状況なので、こういう形での委員会がこのままうまく円滑に進んでいけばいいなと思います」


煙突だが、煙突のように見えない?
杉本裕明氏撮影 転載禁止

「嫌な施設払しょくを」

9月の第2回委員会。

委員「土地の選定に対しては地元として苦しいところであるが、ここで建て替えざるを得なくなったのは、本来もっと建物を大きく作れば中でメンテナンスをする事が出来た。大都市の中でつくるのだから、緑のバンドをつくり、市民に還元するレジャー的なものにしなければならず、相当大きな規模が必要。それが武蔵野のどこに当てはまるかをもう一度議論したい」

委員「新たな用地選定はそれを知らない限りどこになっても一緒。ごみだけではなくて環境全体を含めた啓蒙施設にしたいと提案している」

委員「嫌な施設だというのを払しょくしなければ、最終的に適地がここだと合意されれば作ることになるのであろうが、どうせあそこだと思っている人が何も問題としてとらえない。30年後には誘致運動が起きるような施設を考えたい。全市民の問題として自分の問題として考えてもらうのが市民参加だと思う。まだ自分自身の問題になっていない。短い期間であるが出来るだけ多くの人の話を聞く。あらゆる所で話題にして欲しい。マイナスの面も共有して欲しい」

田村副委員長「場所を決めるだけで良ければ甘えてしまう。この6回でより良い施設にするためのコンセプトをたてられないか。そこに色々な意見を集約していくのが我々の役目」

焼却炉の規模を小さくした

他の清掃工場を見学したり、コミュニティセンターで市民と意見交換したり、委員らは議論を続けた。

どんな施設がふさわしいのかを検討し、次に立地場所などの検討に入った。

新施設による焼却処理量は、3万607トンとし、07年度に比べ14%減とした。これによって、現行の日195トン(3炉)から120トン(2炉)とし、新粗大・不燃処理施設(マテリアルリサイクル推進施設)は処理能力を日10トンとするとした。

こうしたことから、敷地面積を13,000平方メートルとし、現施設のある場所も含め、市内で1.3ヘクタール確保できる公共用地を14カ所リストアップし、さらに4カ所に絞り込んだ。

現クリーンセンターのある場所を除くと、いずれも公園で、都市計画決定するのに時間がかかったり、土地の成約があったりし、現実的には現クリーンセンターの隣の空き地しかなかった。

委員会では市が提出したリストをもとに検討し、委員らが意見を述べたが、場所の最終選定を行うことはさけた。10人の委員が責任を持てないことや、委員会が熟議し、市民の意見も聞きながら、施設のあり方について報告書をまとめることを目的としているためだ。

最終報告書で、「地域にあってほしい施設」求める

09年にまとまった最終報告書には、こんな表現が入った。
「相応のコストや困難条件を克服して新規用地を選択するか、これまでの蓄積の継承・活用を重視し現在の市役所北エリアを選択するという2つの選択肢を想定する」
「委員会の検討内容を踏まえ、行政の責任において適切な整備用地を決定すべきである」

そして、「迷惑施設」から脱却し、「次世代型都市施設」として「地域にあってほしい施設」で、足を運びたくなる施設が求められているとした。

さらに、そのためには、まちに対して開かれたものでなければならず、塀や垣根をなくし、だれでも自由に散策でき、四季を感じられるものとすることを求めた。

これを受け、市は、説明会などをへて、市の責任で新施設を旧クリーンセンター敷地内の東側に造ることを決定した。施設のあり方や運営について、市が委員会の提言を生かして造ったのが、新クリーンセンターだった。

白煙防止装置は無駄と

ただ、最近の建設費高騰の影響や、景観に配慮し半地下構造などにより、建設費は111億円(うち約3分の1が国の交付金)とかなり高くなった。運転・管理は103億円でプラントメーカーが出資する特別目的会社(SPC)が行う。

神谷さんは「エネルギーの地産地消に力を入れ、夜間の電気を事故託送により学校などに送ったり、蓄電池を導入して蓄電しています。蒸気供給も最大限生かし、市役所の冷暖房などを賄っています」と語る。

小さいながら、高効率発電と蒸気利用で34.9%のエネルギー効率を誇る、このクリーンセンターには白煙防止装置がない。

実は、多くの清掃工場では白煙防止装置がついている。煙突から水蒸気の白煙が出るが、住民が有害物質を含んだ煙と誤解すると判断し、水蒸気をヒーターで熱して出ないようにしているのだ。しかし、そのために無駄なエネルギーを使うことになる。

そこで、武蔵野市は、旧クリーンセンターにあった白煙防止装置を止める実験を行い、周辺住民に周辺環境が悪化しないことを確認してもらい、理解を得た上で、防止装置をつけないことにした。これも温暖化防止対策の1つである。

蒸気供給できる立地が大事

これまで清掃工場は迷惑施設とされ、多くの自治体は、住宅地から離れた山林や市町の境界線に造ることが多かった。人目につかない辺ぴなところに造ると、発電した電気を送電することはできるが、蒸気供給の先がなく、エネルギー効率は極端に悪くなる。

その点、武蔵野市のクリーンセンターは、発電だけでなく、電気と蒸気を近くの公共施設に供給しているところが、他の多くの清掃工場とは違う。

今回も多くの自治体関係者が見学に訪れたが、新しい施設を見るだけでなく、なぜ、この場所に建設することが可能だったのかを、よく知ることが重要だろう。

カーボンニュートラルの社会を目指すには、CO2を大量に排出するごみ焼却量を減らし、焼却施設の数を削減していかねばならない。同時に、焼却施設の熱回収率を飛躍的に高めることが不可欠となる。

日本の清掃工場の発電効率は約13%。蒸気供給する先がないためで、蒸気供給している施設は少ない。EU(欧州連合)諸国では、両方行うのが当たり前で、ドイツでは多くの清掃工場が、80%以上の熱回収率を達成している。ドイツの基準でいうと、日本の清掃工場は、エネルギー回収施設とはとても見なされない。

重要なのは、どこに立地するかということになる。

なぜ、武蔵野市で、それが可能だったのか。次回は、旧クリーンセンターの建設計画時にさかのぼり、その秘密を解き明かしたい。

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この記事を書いた人

朝日新聞記者を経て、フリージャーナリスト。廃棄物、自然保護、地球環境、公害など、環境の各分野に精通する。著書に『ルポ にっぽんのごみ』(岩波書店)『ディーゼル車に未来はあるかー排ガス偽装とPM2・5の脅威』(同、共著)、『環境省の大罪』(PHP研究所)、『赤い土(フェロシルト) なぜ企業犯罪は繰り返されたのか』(風媒社)、『社会を変えた情報公開―ドキュメント・市民オンブズマン』(花伝社)など多数。NPO法人未来舎代表理事として、政策提言や講演会などをしている。

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