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牛乳買って牛の飼育環境を改善「アニマルウェルフェア認証」とは

われわれに食料を供給してくれる牛や豚、鶏といった家畜動物。日本では、これらの動物が世界的に見ると良好ではない環境で飼われている。

こうした中、生産者や研究者、獣医師などで構成されるアニマルウェルフェア畜産協会(北海道中札内村)は、家畜の飼育環境を改善するため「アニマルウェルフェア畜産認証」制度を立ち上げた。「暑熱対策を実施」「飼槽や水槽が清潔」といった基準を満たした農場からの畜産物に認証マークを付けて販売できる仕組みで、消費者がマークのついた商品を買うことで、生産者が支援され、家畜に配慮した畜産が広がることを目指している。

目次

乳牛から運用開始、豚や鶏にも広げる方針

アニマルウェルフェア(動物福祉)とは、動物の習性や生態を理解した上で、ストレスや苦痛を極力減らし、幸せに生きられるようにするという考え方。協会は、先進地の欧州の制度などを参考に、アニマルウェルフェアに配慮した畜産の認証制度を日本で初めて創設。2016年に、乳牛から運用を開始した。現在は肉牛の認証基準の策定を進めており、豚や鶏にも広げる方針だ。

瀬尾哲也代表(帯広畜産大准教授)は取材に対し、「農場で牛の行動を研究している時に、牛にストレスがかかっていることが分かり、飼育環境を良くしないといけないと思った」ことが、 認証制度を始めた理由の1つだったと語る。

畜産技術協会(東京都)の調査によると、日本では酪農場の73%が、搾乳牛をつなぎ飼いしており、85%が麻酔なしで除角している。

また、牛乳や肉の生産に必要なエネルギーやたんぱく質を摂取させるため、高栄養・高カロリーの濃厚飼料(穀物)を与えられるが、本来は草食動物であるため、やりすぎると病気にかかりやすくなる。

これに対し、アニマルウェルフェア認証では「(「悪天候時を除く」などの条件下で)放牧している」「除角する場合は、(痛みやストレスが少ないとされる)生後4週齢以内に行う」「濃厚飼料の給与量が平均採食量の半分以下」「牛床の柔らかさが適切である(50mm以上の敷料やマットレスを使用)」「皮膚病を発症している牛が 1 頭もいない」「断尾を1頭も実施していない」といった52の点検項目(取材時点)を設けている。


審査の様子(アニマルウェルフェア畜産協会 提供)

審査員による立ち入り検査で、8割以上を満たした農場や、認証農場の畜産物のみを使って商品を製造する事業所に認証が与えられる。認証農場の牛は、こうした要求事項に従い育てられることで、つなぎ飼い・放し飼いにかかわらず、より快適かつ健康に過ごせるようになる。


放し飼いの牛舎(アニマルウェルフェア畜産協会 提供)

審査員は、アニマルウェルフェアの研究者や食品製造関連の実務経験者が務める。協会によると、これまでに北海道と岩手県の 13農場と、 6食品事業所(取材時点)が認証を取得。オンラインストアや直売所、道の駅などで認証製品を販売している。


店頭に並ぶ認証製品(アニマルウェルフェア畜産協会 提供)


アニマルウェルフェア認証マーク(アニマルウェルフェア畜産協会 提供)

「牛目線」の畜産が実現、担い手確保にも期待

坂根牧場は、北海道大樹町で100頭の搾乳牛と60 頭の育成牛を飼育する。「人と牛を幸せにする牧場」を経営理念に掲げている同牧場は、2017年に認証を取得した。現在は道の駅やウェブショップ、新千歳空港などで認証マークの付いたチーズを販売している。

認証取得の動機について、取材に応じた坂根遼太代表は「牛を元々大事にしていたが、厳しい審査基準をクリアすることで、取り組みをより明確に伝えられると思った」と話す。


坂根牧場の放牧地でのびのびと過ごす牛たち(坂根牧場 提供)

認証を受けるために牛の生活環境を整えたことで、良い変化があった。「従業員が人間目線ではなく、牛目線で考えてあげられるようになった。従来は、子牛にバケツで牛乳を与えていたが、ルールに従い哺乳瓶から飲ませるようにした。手間はかかるが、自然な授乳に近いため、子牛のストレスが軽減された」(坂根氏)

また、水槽や飼槽をこまめに掃除したことで、牛が水や餌を多くとるようになり、乳量が増えていったという。坂根氏は「初期投資はかかるが、改善策を実施したことで、牛がより快適・健康に過ごせるようになり、生産性も向上した」と説明。若い世代はアニマルウェルフェアへの関心が高く「働き手の確保にもつながる」と強調した。今後も「動物を苦しめて作られる畜産物は食べたくない」と考える消費者のニーズを満たすため、認証製品を届けていきたい考えだ。

日本の家畜のアニマルウェルフェア、評価低く

欧州を中心に、アニマルウェルフェアへの意識が高まり、家畜の飼育環境に配慮した食品の調達が進む中、日本の畜産業には厳しい目が向けられている。

世界動物保護協会(本部英ロンドン)は、20年版の動物保護指数(API)レポートで、日本の家畜のアニマルウェルフェアについて、中国やロシア、中東・アフリカ諸国と同じ最低ランクの「G」と評価した。

アニマルウェルフェアに関する法制がない点を問題視しており、 法整備や農場・と畜場の定期検査のほか、檻(おり)での飼育禁止やブロイラーの飼育密度の緩和、麻酔下での手術の実施、長距離輸送の禁止、食肉解体前の気絶処置などを推奨している。


家畜のアニマルウェルフェア評価(世界動物保護協会ウェブサイト掲載図を基に筆者作成)

畜産技術協会や日本養豚協会(東京都)の調査によると、日本では養豚場の9割が、母豚の飼養管理にストール(檻)を使用しており、そのほとんどが方向転換できないほど狭い。97%の養豚場が、無麻酔で雄豚の去勢手術を行っている。

また、養鶏場の94%が、卵を産む採卵鶏をケージ(鳥かご)で飼育。鶏同士がつつき合って傷つかないよう、84%がくちばしを切断している。

参考:世界動物保護協会ウェブサイト Animal Protection Index

家畜の飼育環境に関心を

日本で家畜の飼育環境の改善が進まない理由について、アニマルウェルフェア畜産協会の瀬尾氏は「消費者の関心が薄い」ことを挙げる。「犬や猫には関心を持ってもらえるが、家畜動物については、どうせ食べるから、仕方ないなどと考えられてしまう」と指摘。「畜産の現場を見て、家畜の飼育環境について知る機会が少ない」(奥野尚志事務局長)ことや、「アニマルウェルフェアは欧州発の考え方であり、遅れて入ってきたこと」(今野洋理事)も一因とみられる。

消費者が家畜の現状について知り、飼育環境に配慮した製品を手にとるようになれば、 生産者は、家畜がより快適・健康に過ごせるようにするための設備に投資できるようになる。

また、こうした商品の需要が高まれば、アニマルウェルフェアに配慮した畜産に挑戦する農家が増えるだけでなく、生産者が手塩にかけて育てた家畜を大切に扱おうとの気運が高まり、と畜場での動物の扱いや、食肉処理の手順が改善されていくことも期待される。

さらに、快適な環境で飼育された家畜は病気にかかりにくく、薬剤の使用が減らせる。生産コストの増加により、価格は上昇するかもしれないが、消費者はより安全で、質の高い畜産物を購入できるようになるだろう。

瀬尾氏は、「まずは消費者に関心を持ってもらい、アニマルウェルフェアに配慮した製品を求めてもらうことが重要だ」と強調。協会は、認証制度やセミナーの開催などを通じて、普及活動を続けていきたい考えだ。

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この記事を書いた人

時事通信社を経て2019年よりフリーランス記者。環境や農業に関する記事を中心に執筆。趣味は温泉旅行とグルメ探索。

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