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洋上風力発電の課題とは?日本の技術で欧州に対抗 内田准教授インタビュー①

エネルギーの脱炭素化に向けて期待される洋上風力発電。導入が進んでいるヨーロッパ各国に比べ後進国だった日本でも、2019年に施行された再エネ海域利用法によって、今後は本格的に普及することが予想される。こうした中、“日本版”洋上風力発電を実現することを目指す九州大学応用力学研究所が、東芝、日立造船といった大手企業4社との共同研究契約を締結した。本共同研究のコア技術を開発し、長年風力発電の研究を行ってきた内田孝紀准教授に、洋上風力発電の導入に向けての課題や、日本の風土に特化した新技術について話を聞いた。

目次

ヨーロッパの主力再エネである洋上風力発電


主要国の再生可能エネルギーの発電比率。
参考:経済産業省資料 再エネ海域利用法の運用開始に向けた論点整理

総発電量の半分を再生可能エネルギーで占めるドイツをはじめとしたヨーロッパ各国では、エネルギーの脱炭素化の流れが進んでいる。そのなかでも、主力とされているのが風力発電だ。近年では、累計導入量が年1,000~3,000MWと拡大しており、2017年時点で欧州における累計導入量は1万5,780MWに達した。

一方、日本では導入が遅れている。累計導入量は20MWにとどまり、すべて国による実証事業だ。こうした状況を鑑み、また、2050年のカーボンニュートラル化の達成に向けて、国は民間企業の積極的な参入を促すべく2019年に海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)を施行した。

再エネ海域利用法により「自然的条件が適当であること」「漁業や海運業等の先行利用に支障を及ぼさないこと」「系統接続が適切に確保されること」などの要件に適合した一般海域内の区域を促進区域と定め、その区域内で洋上風力発電を行う事業者に対して、最大30年間の占用許可を与えることができるようになった。

現在、秋田県の能代市、三種町と男鹿市沖、由利本荘市沖(北側)、由利本荘市沖(南側)、千葉県銚子市沖、長崎県五島市沖が促進区域と指定され、すでに事業者の選定が行われている。今年6月には長崎県五島市沖において、ENEOS、関西電力などが参画する(仮)ごとう市沖洋上風力発電合同会社の選定が発表された。ほかの促進区域でも随時、選定事業者が発表されるとみられる。

こうした状況下で、今後日本での普及に際しどのようなことが課題として考えられるか、内田准教授に話を聞いた――。

欧州メーカーと対等になるために、日本独自の技術形成が必須


内田孝紀准教授。

――洋上風力発電の領域に、民間事業者が今後参入していくことが予想されますが、どのようなことが課題として考えられますか。

日本に風車メーカーがないことが一番の問題だと考えます。かつては、三菱重工や日立製作所、日本製鋼所の3つのメーカーで風力発電機が作られていましたが、風車の大型化の流れに資金力などの面でついていくことができずに日本で単独製造※しているメーカーはいなくなってしまいました。

※三菱重工業は、デンマークの「ヴェスタス」と合弁会社「MHIヴェスタス」を設立。日立製作所はドイツの「エネルコン」と協業契約、東芝とGEリニューアブルエナジーが戦略的提携契約をそれぞれ結んでいる。

そうなると、今後日本で洋上風力発電の導入を促進する際は、どうしてもヨーロッパの技術で風車を建設することになります。日本においてヨーロッパで稼働している風車がそのまま建設されるイメージですね。もちろんそのことに対して反対はないのですが、日本で風力発電の技術が進まないのではないかと危惧しています。

おそらく、ヨーロッパの風力発電関連のコンサル会社が積極的に介入してくるでしょう。日本企業も参入するでしょうが、技術面で劣るため、どうしても主体はヨーロッパ企業になります。計画から建設、その後の維持管理に至るまでヨーロッパ企業が行ってしまうと、日本企業の技術関与はあまりできず、人材も育ちません。

――なるほど、日本で洋上風力発電を行うのにも関わらず、日本企業が主導権を握れないということですね。

その通りです。また、日本特有の波浪、風、気象がありますから、ヨーロッパ式のやり方をそのまま踏襲するのが正しいのかという疑問も残ります。

問題の一つに維持管理の面が考えられます。大型風車などを建設する場合、非常にコストがかかりますので、きちんと利益を得るためには、定期的なメンテナンスを行い、17~20年と言われている寿命を終えるまで、電気を生み出し続ける必要があります。そこをヨーロッパ企業に任せてしまうと、海外からエンジニアが定期的に来日してメンテナンスを行うことになるかと思います。それでは急なトラブルに対応できませんし、任せっぱなしにすることで、今後日本企業が何十年と技術を習得する機会の喪失と、メンテナンスを担う地元企業の創出やそこで働く人の雇用なども失うことにつながります。

そうした問題が容易に想像つくため、私たちは、日本の技術による、日本の環境に調和した“日本版”の洋上風力発電にこだわっています。


洋上風力発電の導入状況及び計画。
参考:経済産業省資料 再エネ海域利用法の運用開始に向けた論点整理

陸上風力発電での悔しい経験

――そうした考えに至った原体験などはあったのでしょうか。

ええ。私自身、長年陸上風力発電を研究してきたのですが、ある陸上風力発電の事業を行った時に、日本企業が資本を出して、ヨーロッパのコンサル会社に事業委託するケースが多くあります。その場合、だいたいは、その日本企業に風車の技術がないため、意見することができず、そのコンサル会社の言いなりになってしまって、イメージ通りの風力発電設備を建設することができなかったことがありました。

そうした経験を数多くしてきたことで、今回の洋上風力発電に関しては、われわれの技術でしっかり検証・計画したものを、ヨーロッパメーカーやコンサル会社に対して提案できるまでになりたいと考えています。お金を出すだけでなく、本当の意味での協業を目指していきたい。それで、同じ土俵でディスカッションした後に、それでもヨーロッパ式のやり方の方がいいとなれば、そうすればいいのです。ヨーロッパ式のやり方を反対しているのではなく、日本で技術をもつということが大事なんです。

風車の適切な配置には、風車ウエイクが鍵


風車ウエイクの気流構造の概念図(内田准教授提供)。

――“日本版”の洋上風力発電の成功にはどのような技術的関与が必要になるでしょうか。

基本的に、風力発電を行う際に重要となるのは風車の配置の仕方です。建設される場所は限られた空間になりますので、そこに建てる風車のサイズ、規格、本数、風車同士の距離といったことを考えます。当然、一番採算性があるような配置を考えるわけですが、そこで重要になってくるのが風車ウエイクです。

――風車ウエイク? 聞きなれない言葉ですがどういったものでしょうか。

ウエイクというのは、英語で“下流”という意味です。風車ウエイクは、風車ブレードの回転に伴って、その下流側に風速の欠損領域が形成されることを言います。つまり、前方にある風車の回転によって、後ろの風車の回転が弱まったり、風の流れが変化したりするということです。また、下流にいくにつれて、風車同士が相互に干渉しあい、その流動現象が非常に複雑なため、建設前に風車ウエイクの流れを見誤ってしまうと、発電量が減少したり、ウエイク内が乱れた風になるので故障の原因になったりと、採算性と耐久性の両面で失敗することになります。

ヨーロッパですと、洋上風力発電設備を陸からかなり遠い沖合に着床式で建設されることが多く、遠浅で1年中強い風が吹いていますので、そこまで厳密に配置を考えなくても採算性が高い場合が多いんです。しかし、日本の促進地区域は、岸に近いところで風がそこまで強く吹いていない。したがって建設前の風車ウエイクの厳密な予測が必要になってきます。そこで、提案したいのが、われわれが開発した「洋上版リアムコンパクト・ソフトウェア」です。

②に続く。

内田 孝紀(うちだ・たかのり)
1971年,福岡県出身.博士(工学)
1999年3月に九州大学大学院修了後,同年4月より九州大学応用力学研究所COE研究員として採用.2000年4月より助手,2007年4月より助教.
風工学に関する研究(数値シミュレーション,風洞実験,野外計測)に従事.
2006年10月に九州大学発ベンチャー株式会社リアムコンパクトを起業し,技術開発を担当する.
数値風況予測モデル・RIAM-COMPACT(リアムコンパクト)の開発責任者.
2011年9月より准教授となり現在に至る.
日本風力エネルギー学会/代表委員,日本流体力学会/代議員.
2010年科学技術分野の文部科学大臣表彰「若手科学者賞」受賞.

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