きらびやかなファッション業界は、意外と多くの問題を抱えています。
それは、児童労働のような社会問題や大量廃棄のような環境問題までさまざまです。
ファッション業界と環境問題の関係を、Sunday Morning Factory株式会社の北山里菜さんにお話しいただきました。
また、エコやエシカルがさらに重要となるこれからの時代、いかにファッションと向き合うかを伺いました。
ただの服好きがファッション業界の環境問題を知った
――北山さんが所属するSunday Morning Factory株式会社は、環境問題や社会問題の改善を目指すアパレルブランドを運営していると聞いています。北山さん個人としては、いつから環境問題や社会問題に関心を持ったのでしょうか。
きっかけは就活でした。
それまで、私はただの服好きな大学生でしかなく、就活を始めたときもファッション業界しか考えていませんでした。
しかし、いくつか企業の面接を受けるなかで、面接官の一人に「なぜファッションが好きなの?」と問われ、私は困惑しました。
当時の私は、好きなものは好きで、そこに理由はありませんでした。だから、その質問に「映画や雑誌で見るような、キラキラした世界に憧れたから」とシンプルに答えたのですが、面接官にファッション業界の一部を切り取ったものしか見えていないことを指摘されてしまったのです。
ファッションを楽しむ北山里菜さん。古着屋さんのファッションショーで。
ファッションについて何も知らなかった、と反省した私は、服が作られる工程を1から勉強します。原料であるコットンの栽培から、どこの国のどんな人が携わっているのか。そうしているうちに「ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~」という映画に出会いました。
その映画はファッション業界の裏側を描いたドキュメンタリーで、暗い工場で何十時間と服を作り続けても、わずかな賃金しか得られないバングラデシュの子どもたちに焦点が当てられていました。
そこで私は、自分が好きなファッションの世界とは、これだけ悲しい出来事の上に成り立っているのだ、と衝撃を受けました。
だから、私自身も解決の一部になりたいと考えるようになり、ファッション業界を変えようと活躍する人々の存在も知りました。
そして、Sunday Morning Factory株式会社に入社したことで、さらに多くの環境問題や社会問題を知ることになります。
環境問題や社会問題に関心を持つきっかけは、もう1つあります。
それが、かつてゲストハウスのアルバイトで一緒だった、ヴィーガンの女の子です。
彼女は食べ物だけでなく、動物が使われた素材は使わない、必要以上に物は買わない、とヴィーガンを超えて本当に深いところまで考えていました。
また、彼女がヴィーガンになったのも、環境や社会の問題に寄り添った結果、そこに行き着いたと言うのです。
そういう生き方もあるのか、と衝撃を受けた私は、大学生の頃から始めていたメディア「SetMeFree」でも環境問題や社会問題に関する情報も発信するようになりました。
ファッション業界と環境問題の関係
――ファッション業界が抱える環境問題や社会問題を教えてください。
ファッション業界による環境問題は、大量生産・大量消費による廃棄量の増加です。
手ごろな価格で手に入るファストファッションが流行ったこともあり、廃棄される量も増えてしまいました。
大量に服が作られることは資源の消費になり、廃棄量が増えることで二酸化炭素の排出も増えてしまいます。
だから、ファッション業界は環境の面だけで言えばいいことはないと思っていますし、極端なことを言えば新たに作り出さないことが一番だと言えます。
しかし、最近は店舗で服の回収を行ったり、サスティナブルやエシカルをファッションで発信したり、ブランドを通した表現者が増えています。そういう面では、多くの人が環境問題を知るきっかけになったのでは、と考えられます。
知らなければ行動できないし、環境問題を改善する動きもできません。だから、知るきっかけが増えるという意味で、長い目で見たら大きなインパクトになるのではないでしょうか。
商品会議中の北山里菜さん(右)。彼女が所属するSunday Morning Factory株式会社もブランドを通してサスティナブルやエシカルを表現している。
社会問題の面で言えば、児童労働など労働環境に関する問題です。
先程も触れたように、ファッション業界はファストファッションの登場で、大量生産・大量消費がさらに激しくなりました。
私たちも安くて質のいい服が手に入るので、気軽に買い替えてしまいがちです。
このような消費行動は、コスト削減の上に成り立つもので、貧困地域で安い賃金で雇われ、過酷な環境で働く人々が、そのしわ寄せを受けています。そして、そこには大勢の子どもも含まれています。
さらに、今回のコロナ禍によって問題にもなりましたが、そんな子どもたちが働く縫製工場が潰れてしまっても、保証はまったくありません。何か問題が起こった場合は切り捨てられてしまうのです。
これは業界の仕組みにも問題があることですが、どこかでしわ寄せがあることを多くの人が知らない、という状況が一番怖い。
ファストファッションのお店でアルバイトした経験があり、毎日のように何千着という服が運ばれて仕分けもしていた私も、子どもたちが苦しみながら働いていることを知りませんでした。
そして、このような知らない環境が作られていることも怖いと感じたのです。
だから、まずは知ることが大切であり、発信者や表現者が増えることで、多くの人が問題に向き合うようになることが一番だと思います。
ちなみに、日本には縫製工場が少なく、次々に潰れています。
やはり、消費者の思考が大量消費になってしまってから、単価が高い日本では縫製工場はどうしても続けられません。海外で安く工場を動かした方がコストも安いからです。
日本の工場は賃金も安いから夢を持って服作りをしようと考える人も少なく、限られた人間だけで回し、一人でも抜けたら回らなくなって潰れてしまうことから、少しずつ減っているような状況です。
ファッション業界による環境問題への取り組み
――ファッション業界で活躍するなかで、北山さんは環境問題に対し、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
私がSunday Morning Factory株式会社に入社してから、最初に任されたのは「おさがりワクチンProject」でした。
このプロジェクトの内容は、すぐにサイズアウトしてしまうベビー服は比較的に綺麗なまま捨てられてしまうことが多いので、回収してリユース品として販売し、その利益の一部を「世界の子どもにワクチンを 日本委員会」に寄付するというものです。
「おさがりワクチンProject」はリユース品のベビー服を販売し、利益の一部を寄付している。
最初はブランドイメージとして、リユース品を扱うことに抵抗があり、回収した後のアクションに悩みました。
リサイクルコットンとして使う案もありましたが、まだ着られる服をリサイクルしてしまうことは、もったいないことです。3Rの優先度はリデュース、リユース、リサイクルと言われるように、環境負荷が少ない方法を優先し、リユース販売としました。
2021年2月からはベビー服以外にも環境負荷が少ない日用品の販売をスタートし、私たちのブランドからエコな選択ができる取り組みも開始します。
参考:haruulala.life おさがりワクチンProject
また弊社は、児童労働や貧困の連鎖を断ち切るため作られた、という面もあり、貧困地域の雇用創出にも力を入れています。
貧困地域に自社アパレルブランドの縫製工場を建てることで、現地の人々が安定した仕事を得られます。縫製の仕事は力の弱い女性でも働くことができ、服作りの技術も手に入れられるので、貧困から抜け出すきっかけになると考えられます。
Sunday Morning Factory株式会社のバングラデシュにある縫製工場とそのメンバー。
ファッション業界は環境問題を生み出すものですが、たくさんの人がこの業界で職を手にして生活を維持しています。なので、地球へのインパクトをできるだけ減らし、環境問題の悪い面だけが注目されないよう、バランスを取りながらファッション業界が社会問題を解決するような未来を目指したいです。
このように、弊社では環境や社会にいいものを選択するという判断軸があり、社内でも徹底した取り組みが行われています。
FSC認証の段ボールやバイオマス素材のOPP袋を使用したり、植林活動で輸送時に排出した二酸化炭素の回収を行ったり、オフィスの電力は自然電力100%など、できることは全部やっている状態で、可能なものから環境負荷が低いものに切り替えています。
細かいことも挙げると、社内ではペットボトルではなくマイボトルを、割り箸ではなくマイ箸を、そして自分で出したゴミは必ず持ち帰るなど、エシカルな選択が当たり前な環境です。
バングラデシュの縫製工場も自然電力を取り入れた。
――北山さんが個人で行っている取り組みはありますか。
私も自宅で使う洗剤や歯磨き粉、シャンプーなど海に流れるようなものは、環境負荷が少ない植物由来のものを選択するようにしています。
例えば、エコストアさんから出ている商品です。どれもデザインが可愛いし、生分解性も高く、価格帯も高すぎないので続けやすいという特徴があります。
エコベールさんから出てる商品も、どれくらいで生分解されるのか記載され、容器もリサイクル可能。そして、続けやすい価格帯です。
ハンブルブラッシュさんから出ている竹の歯ブラシも使っています。持ち手はサスティナブルな素材として注目される竹で、ブラシの部分は生分解性素材のナイロンです。
他にも、ベッドカバーやカーテンも天然素材を選び、メイク用品も徐々にオーガニックなものに切り替え、洋服もリユース品を選ぶようにしています。
古着を選ぶ北山里菜さん。
ただ、一貫しているのは自分が心地いいと思う範囲で選ぶことです。
オーガニック製品は、通常の製品に比べると価格が高く、ルールとして徹底してしまうと、しんどくなってしまいます。
だから、洋服も本当に欲しいものがあれば買いますし、その代わり長く大切に着続けるようにするなど、無理のない範囲で選択することを心がけています。
これからのファッション業界と環境問題
――これからは、さらにエコやエシカルが問われる時代になると思います。そのなかで、環境問題を意識しながらファッションを楽しむにはどうすればいいでしょうか。
簡単に意識できることは、できるだけ新しいものを消費せず、リユース品を選んでほしいと思います。古着を楽しむ方は、環境問題を意識せず、ただ好きだから選ぶ人も多いでしょう。だから比較的に環境を意識しながらファッションを楽しめるはずです。
他にも、服を選ぶ前に、一度立ち止まることも重要だと思います。食材を選ぶとき生産地が明記されていて、それを確認する人は珍しくありませんが、服を選ぶときにそんなことは意識しません。
しかし、それを意識することが、ファッション業界の問題を解決するための一歩だと思うのです。
ファッションやアクセサリーも、どこかの国の誰かが作っていることを、買う前に考えてみる。さらに一歩踏み込むのだとしたら、気になった服を作っているブランドが、どういう理念を持って、どんな取り組みを行っているのかも考えてみる。
ブランドがどんな想いで服を作っているのか知るだけでも楽しいし、目の前にあるものをただ消費するだけ、という行動も減るきっかけになると思います。
また、このように楽しみ方を深堀りしてみれば、自然と多くの問題を知ることになるはずです。
そして、耳にした情報に違和感や意見があったら、飲み込まずに発信してほしい。私も多くの知識があるわけではないのですが、自分の中で留まらず発信しているうちに賛同者や共感者が現れてくれました。
発信することで多くを巻き込み、最終的にはエコやエシカルを意識する人が多数派になる。それで消費行動が変われば、生産者の意識が変わり、社会問題や環境問題の解決にもつながるのではないでしょうか。
Sunday Morning Factory株式会社のTwitter → https://twitter.com/SundayMorning_f
北山里菜さんのInstagram → https://www.instagram.com/__rinaboo/
北山里菜さんのTwitter → https://twitter.com/rinabo1997
北山里菜(きたやま りな)
1997年生まれ。学生時代、就活をきっかけにファッション業界の問題を知る。Webメディア「SetMeFree」を立ち上げ、ファッションからエコやエシカルの情報を発信。現在はSunday Morning Factory株式会社に所属し、PR広報、SNSの運用を担当。ファッションの問題に関する共感者を増やすため、日々Twitterやインスタも更新中。
コメント