MENU

コロナが環境に与えた影響—プラごみ急増、大気汚染は改善

世界保健機関(WHO) が2020年3月、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を宣言してから1年が経とうとしている。感染拡大を防ぐため、世界中で移動制限といった措置が敷かれ、市民が外出時にマスクを着用するなど生活様式が一変した。そこで今回は、コロナがもたらした社会の様々な変化が、環境に与えた影響について、国内外の研究者や環境団体が発表した調査結果をまとめた。

目次

15億枚以上のマスクが海に、海洋生物に悪影響も


近所を30分歩いて見つけたマスク(筆者撮影)。

新型コロナウイルスの最初の症例が2019年に、中国で確認されて以降、ウイルスは瞬く間に世界に広がり、多くの命を奪った。WHOによると、2021年1月25日時点で世界の感染者数は約9,780万人に達し、死者数は約210万人に上っている。

こうした中、コロナの感染拡大を防ぐため、市民はマスクの着用を求められるようになった。一方で、使用済みのマスクが落ちているのを目にする機会が増えた。これらのマスクの一部はいずれ、雨などにより川や海に流れ着くことになる。

香港の環境団体オーシャンズアジアが発表した報告書によると、世界全体で2020年に520億枚のマスクが生産され、このうち3%に当たる15億6,000万枚が海に流れ込んだ。一般に使用されている不織布マスクの多くは、ポリプロピレンなどのプラスチックで作られており、4,680〜6,240トンのプラスチックが流入したことになるという。同団体は、これらのマスクが海の中で細かく砕かれてマイクロプラスチックとなり、海洋生物に長い間、悪影響を及ぼし続けると指摘。各国政府に対し、再利用可能なマスクの奨励や適切な処分、ポイ捨てに対する罰金の引き上げといった対策を講じるよう求めている。

日本のプラごみ排出量、過去10年で最多か


プラスチック製容器包装(白色トレイを除く)引取量(日本容器包装リサイクル協会のデータを基に作成)。

石油の浪費や、プラスチックごみによる海洋生物への被害を防ぐため、世界中で近年、プラスチックの使用を削減する動きが広がっていた。しかし国連は、コロナ禍のデリバリーの利用増加や感染対策により、食品包装や消毒剤の容器といったプラ製品の使用や廃棄が増えたとの見方を示している。

筆者が住む街でも、パンや野菜がポリ袋で個包装されて売られるようになり、飲食店には飛沫防止のためのアクリル板が設置されるようになった。医療現場では、プラ製のフェイスシールドやガウン、手袋が日々使われており、プラスチックの使用は増えたと感じる。

世界全体のプラごみ量に関するデータはまだ公表されていないが、シンガポール国立大学の卒業生が行った調査によると、同国では2020年4〜5月の都市封鎖(ロックダウン)期間中、2階建てバス92台の重量に相当する1,334トンのプラごみが発生した。デリバリーやテイクアウトの増加に伴い、プラ製の容器やカトラリーの使用が増えたのが影響した。香港紙サウスチャイナ・モーニングポストが中国政府当局者の話として報じたところによると、武漢の病院でコロナの流行ピーク時に発生した1日当たりの医療廃棄物は、平時の6倍の240トン以上に上ったという。

1人当たりのプラごみ排出量が、米国に次いで世界で2番目に多い日本でも、プラごみが急増したとみられる。公益財団法人日本容器包装リサイクル協会によると、2020年にリサイクル事業者が市町村から引き取ったプラ製容器包装は、前年比4.2%増の67万6,605 トンとなり、直近10年間で最多だった。同協会は取材に対し、要因について「年度が完了しておらず、十分な分析が出来ていないため、正式な回答はしかねる」とした上で「コロナ禍の巣ごもり需要で、家庭から排出されるごみが増加し、市町村からの引取り実績が増えているのは間違いない」との考えを示した。

国連は各国に対し、紙や天然繊維といった代替素材の使用や、プラスチックの適切な収集・処理を呼びかけている。

2020年のCO2排出量が減少、下げ幅は過去最大


上空を飛ぶ飛行機(筆者撮影)。

こうしたマイナスの影響があった一方で、プラスの影響もあった。

 

コロナ禍がもたらした最も大きな変化といえば、人々の移動の減少だろう。各国政府は市民に対し、感染拡大を抑えるため、不要不急の外出を控えるよう呼び掛けた。同時に、国境や県境をまたぐ移動を制限し、ステイホーム(自宅で過ごすこと)や在宅勤務を奨励した。こうした施策は、温室効果ガスの排出に多大な影響を与えた。

国立環境研究所などが参加する国際共同研究グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)は、2020年の世界の化石燃料消費による二酸化炭素(CO2)排出量について、前年比で約7%減少するとの見通しを発表した。下げ幅は過去最大という。各国で都市封鎖や移動制限が行われたことで、自動車や航空機など運輸部門からの排出が大きく減ったのが影響した。製造など産業部門からの排出量は春に減少したものの、既に前年の水準またはそれ以上に戻っている可能性があるという。

(ところで筆者は、外出自粛や在宅勤務により、各家庭での電力消費が増え、CO2の排出量も増加したと想像していた。しかし、国際エネルギー機関 (IEA)の予測によれば、2020年の世界の電力需要は前年比約2%減となり、発電由来のCO2排出量も大幅に減った。商業・産業用需要の減少分が、住宅用需要の増加分を上回ったためだ。ただ、IEA は2021年の電力需要は3%増と、世界経済の回復に伴い再び増加すると見込んでいる。)

排出量が多い4つの国・地域を比較すると、米国が12%減、欧州連合 (EU)が11%減、 インドは9%減と、軒並み大きく下がった。一方で、世界最大の排出国である中国は、早期に感染を封じ込め、経済活動を再開させたことで、1.7%減にとどまった。

 

世界の平均気温は観測史上最高「大気汚染の改善」も影響か


米国の高速道路を走る車(筆者撮影)。

ただし、コロナでCO2の排出は一時的に減ったものの、それまでずっと増え続けていたので、大気中のCO2濃度は過去最高になった。

米航空宇宙局 (NASA)によれば、2020年の世界の平均気温は2016年と並び、観測史上最高だった。CO2 など温室効果ガスの増加に加え、コロナによる経済活動の停止で大気中の粒子状汚染物質が減り、日光が地表に届きやすくなったのも影響したという。

GCPは、コロナの収束や、各国政府による景気刺激策により、CO2の排出量は今後元に戻る可能性もあると警告した上で、 森林破壊の阻止や再エネの導入、ウォーキングやサイクリングの奨励といった対策を強化するよう訴えている。

水質も一時的に改善、コロナが突きつけた現実

コロナ対策で工場の閉鎖や移動制限が行われ、経済活動が縮小したことで、空気や水がきれいになったとの報告が世界各地で上がった。インドでは、全土で大気汚染が改善し、北部のパンジャブ州では数十年ぶりに、遠く離れたヒマラヤ山脈が見晴らせるようになった。イタリアのベネチアでは、観光客や水上交通量が激減したことで、運河の水が澄んで見えるようになった。

大気汚染や水質の改善は、NASAの研究でも裏付けられている。同局は2020年11月、大気汚染物質の二酸化窒素(NO2)について、世界の濃度が2月以降、20%近く低下したとの調査結果を発表した。輸送や生産活動の停滞で、化石燃料の使用が減ったのが影響した。米ニューヨーク市西部を流れるハドソン川の一部では、通勤客の減少により、濁度が40%以上低下したことが衛星データなどで確認されたという。

経済活動を止めれば、環境は幾分改善されるかもしれないが、我々は生計を立てたり、余暇を楽しんだりすることが出来なくなる。コロナは、人間と自然の共存の難しさを改めて痛感させた。

同時に、多くの人々に、空気や水がきれいになるといったメリットを享受させたことで、環境を犠牲にして成り立ってきたこれまでの「豊かな」生活を見直す機会を与えたように思う。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

時事通信社を経て2019年よりフリーランス記者。環境や農業に関する記事を中心に執筆。趣味は温泉旅行とグルメ探索。

コメント

コメントする

目次