森の様子。
高田宏臣さんのインタビューの中編です。今回は、中村哲さんがアフガニスタンに緑の大地を戻した話から、高田さんの現在の活動までお聞きました。
アフガニスタン 緑の大地計画
不毛な大地を緑豊かな大地に変えた事例があります。残念ながら昨年亡くなってしまいましたが、アフガニスタンで医療活動に従事された中村哲さんです。中村さんは、アフガニスタンの砂漠に水路を掘り、不毛の大地を緑の大地に戻した人で有名ですね。
中村さんは、地元のアフガニスタン人と一緒に水路を作ったのですが、この水路の作り方は医者で土木の素人だからできたものです。
というのも現代土木では、まず水源地から砂漠を通って街にまで水を持ってくるときは、コンクリートを固めて蓋をして水路を設けるからです。これで蒸発せず、一滴も水を逃さず水を運ぶことができる。
ただ、これでは大地に水がしみ込まないので土地が全く育ちません。
そこを中村さんは素掘りで掘って、石積みにして、その中に木の枝を絡ませ、地面の中が呼吸できるようにしたんです。そこに水が流れてくると、しみ込んだり、湧き出したりを繰り返しながら、周りの土も砂だったところが涵養されていきます。
掘った川の岸に柳を植えていきましたが、柳の根っこが石垣自体も補強します。
そうして、5年後には緑の大地を復活させてしまう。広大な砂漠を広大な緑に変えたんですね。これは先ほども述べましたが、今の現代土木の発想じゃできません。
そう考えると、私たちが今まで発展させてきた土木技術は、なんだったのか。実際は非常事態の際にコンクリートで力任せに押さえつける絆創膏のような役割しか果たしていなかったことが分かってきたのです。長期的には、そういうやり方は、自然環境を傷めてしまいますからね。
自然を守りたいと思って始めた仕事が、実は自然を蝕んでいた
生い立ちを話す高田さん。
――山に興味をもったきっかけはどういうものでしたか。
中学の時から山など自然の中にいるのが好きでした。家の裏山には川があり、たくさんの魚が泳いでいて、山にもたくさんの虫が生息していました。朝早くから虫取りに行って、野山で遊んだものです。高校生になり山登りを始めてから漠然と将来は自然を守る仕事がしたいって思い始めました。
大学も農学部林学科に入って、森を守る仕事をしようと思いました。卒業後は、コンクリート工事の設計や開発などをしていました。
そのなかで、転機がやってきます。自分が開発したコンクリート擁壁の上部の山が荒廃しているのを目の当たりにしたのです、衝撃的でした。
そして、2年後にはそこに生えていた巨木が倒れました。根っこを見ると腐って残っておらず、環境を良くしようと思ってやったことが逆のことをやっていたんだなと、その時気づきました。
また、仕事で農薬も散布していたのですが、自分の身体を壊してしまいました。それで、思い切って農薬散布をやめたら、何年後かに大量発生していた害虫が消え、自分の体調も良くなりました。
今まで何をやっていたのだろうって悩みましたね。農薬を散布していたことが、反対に害虫にやられやすい環境を作っていたのではないかって思うようになりました。
そこから私自身、初めて自然との対話が始まりました。こういう植え方をすれば、木は健康に育つな、など自分自身様々な試行錯誤を行いました。
山も観察することが増えました。荒廃している山はどこに問題があるのかなど特に注目して観察していました。ちょうど33歳ぐらいの時ですね。
山が好きで、自然環境を良くしたいと思ってスタートした仕事のはずなのに、コンクリート擁壁などで水脈などを分断して、大地の呼吸を奪い、農薬を散布していたことで、自然環境のバランスを崩していたことを悟りました。
地球守での啓蒙活動も活発に行う
地球守での活動について話をする高田さん。
――地球守は、どういった団体ですか。
2016年12月に設立した特定非営利活動法人(NPO)地球守では、「生態系を養いうる自然環境のポテンシャル」の視点をもって、環境講座や環境改善指導、環境診断、環境調査を全国各地で行っています。
現在は、地球守の自然読本と題して全6回の小冊子を作っています。これは、大地が今傷んでいる現状をより多くの方に知ってもらおうと学校など様々な場所に無償で配っています。まずは、皆さんに現状を知ってもらいたい。
――ワークショップや講演会も数多く開催していますね。
ワークショップや講演会などは毎月行っています。環境関係の団体が主催している講演会にゲストとしてお伺いする場合も多いですね。全国どこでもいきます。年間で30~40回、月に2~3回はどこかで話していますね。その土地に合わせて資料も毎回作りなおします。
講演会では、実践者として自分で行った環境再生の事例を中心に図や写真を見せながら、実際に何が環境を悪化させているのかを伝えています。時には、山で実際に説明したりもします。こういうことを地道に続けていくことが大事だと思います。
例えば、ワークショップでは、参加者の皆様と一緒に森で木を植えたりします。すると2カ月後、木が元気になったのを見ると、参加者の方々は非常に感動します。これは喜びを伴う体験になるんですね。
大地に行って、そこの空気を吸って、自分の身体にエネルギーが満ちるのを体感すると倦怠感が取れて活気がでてきます。
土をいじって、自然に感謝をすることが本来の人間らしい営みです。太陽の恵みを直に感じる。土地もこうすれば回復するんだっていうことを自分の五感で感じてもらい、次の世代にどんどんつなげていきたいです。
――参加者も増えたとお聞きしましたが。
増えましたね。ワークショップの開催告知を出すと、すぐに定員が埋まるようになりました。環境に対する危機意識を持っている人が増えたのではないでしょうか。世の中をよくしようというエネルギーが高まっているのを感じますね。
みんなが分かってくれれば、それが世の中を変える原動力になりますから。
高田宏臣(たかだ・ひろおみ)
株式会社高田造園設計事務所代表、NPO法人地球守代表理事。1969年千葉生まれ。東京農工大学農学部林学科卒業。1997年独立。2003~2005年日本庭園研究会幹事。2007年株式会社高田造園設計事務所設立。2014~2019年NPO法人ダーチャサポート理事。2016年~NPO法人地球守代表理事。国内外で造園・土木設計施工、環境再生に従事。土中環境の健全化、水と空気の健全な循環の視点から、住宅地、里山、奥山、保安林などの環境改善と再生の手法を提案、指導。大地の通気浸透性に配慮した伝統的な暮らしの知恵や土木造作の意義を広めている。行政やさまざまな民間団体の依頼で環境調査や再生計画の提案、実証、講座開催および技術指導にあたる。最新刊は「土中環境」(建築資料研究社)。
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