グリーン発電大分の貯木場。
木口実氏撮影 転載禁止
日本では、未利用のまま山に放置されている間伐材や枝条などが年間約2,000万立方メートル発生しています。そうした林地残材などを有効的に活用しようと林野庁を中心に木質バイオマスの利用が全国で進んできました。そうした木質系バイオマス利用の現状について、森林総合研究所のバイオマス担当ディレクターを務め、長年木質バイオマスの研究をしている日本大学生物資源科学部森林資源科学科バイオマス資源化学研究室の木口実教授に話を聞きました。
小規模化される発電所!木質バイオマスとは
インタビューに応える木口実教授。
――木質系のバイオマス発電所の現状は、どうですか?
木質系のバイオマス発電所は、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度) によって固定した販売価格が20年間担保されたため全国で大分普及しました。元々、廃棄するしかなかった切り捨て間伐材などの未利用材をエネルギーにして販売できるということで参入する業者も多かったように思います。
FITが始まった当初は大規模な発電所が多かったのですが、現在は小規模な発電所を建設する流れに変わってきています。国は、小規模な発電所の建設を促すため、2,000キロワット以下の発電施設ならkWh当たり40円で、それを超える発電所だったら32円というようにFITの買取価格を変更しています。
――どういった理由が大きいのですか?
一つは原料調達の問題ですね。バイオマス発電は、エネルギー効率があまりよくなく原料に大量の木材が必要になります。例えば、5,000キロワット規模の発電所では、原料である木材が年間で7万~10万立方メートル必要です。10万立方メートルの木材を集めるところが難しい地域もありますし、無理に集めようとすると山が荒れてしまう危険性があります。
また、大規模発電施設のなかには、コスト削減のために木材を原料とせずにPKS (パーム油を採る椰子の実の「殻」の部分)を使用しているところもあります。これは、マレーシアやインドネシアなどから非常に安価で購入することができます。大規模施設の方が小規模の施設よりも発電効率は上がりますから、買取価格が安い分PKSから大量に電気を生み出して利益に繋げようという戦略です。ただ、これだと海外から輸入してくるので、「日本の未利用材を使用する」という本来の目的とは変わってきてしまいます。
国内の未利用材を使用しているグリーン発電大分の木質バイオマス発電所。
木口実教授撮影 転載禁止
――小規模な発電所はやはり地方に建設でしょうか。
そうですね。都市部に建てるというよりは、中山間地域で小規模な発電所を作って電力を賄うとか、暖房とか冷房に使っていくのがいいんじゃないでしょうか。地域外に販売するのではなく、地元で使用する。今まで暖房するために石油とか購入していた分を木質バイオマスの再生エネルギーで賄うというふうにすれば、対外的な支出だったものが地域内の利益として還元されるので、未利用材を使用して地産地消に繋げることが一番理に適っているのではないでしょうか。
例えば、ガス化発電方式のバイオマス施設がある群馬県の上野村では、発電所に隣接するきのこセンターの電力を賄うと共に、FITでは売れない発電で発生した熱をきのこ栽培の冷暖房用に転換して使用しています。
単に電気の販売が目的だと、大規模なバイオマス発電所はFITが終わればコストが合わず閉鎖するところが多いと思います。小規模の発電所を作り、安定的に電気と熱を作り出し持続可能な社会にしていくことが大事だと思います。
※ガス化発電方式:木質バイオマス燃料を化学反応(熱分解や酸化還元)により可燃性のガスを発生させ、エンジン(ガスタービン)を回して発電する方式。
木質バイオマスの新素材!セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバーについて説明する木口教授。
――バイオマスのマテリアル利用として近年セルロースナノファイバー が注目されていますが、どういったものでしょうか。
「セルロースナノファイバー」は、1990年代に京都大学の矢野浩之教授のグループが開発した木質系新素材です。
木材を形成する主要成分はセルロース、ヘミセルロース、リグニンの3つです。そのうち、木材の約50%を占めるセルロースを特殊な方法で細かくほぐしていくと、非常に微小な繊維がとれます。それがセルロースナノファイバーです。鉄の5分の1程度の軽さで、強度が鉄の5倍もあるという特徴があります。
軽くて非常に強いということで、プラスチックなどの良い強化材になるんじゃないか、と。それまでプラスチックの強化材と言えばグラスファイバーだったんですけど、使用中に材料の表面に飛び出すなどして危険だし、廃棄の際は再利用が難しいという問題点がありました。
代替品としてセルロースナノファイバーでプラスチックなどが補強できれば、プラスチックの軽量化や高強度化が可能となり、熱膨張も少なく廃棄も容易になります。すでに自動車用のプラスチックパーツをセルロースナノファイバーで作り、自動車の軽量化、低燃費化の研究も行われています。
――製紙業界がセルロースナノファイバーのおかげで活気づきましたね。
そうですね。製紙業界は、セルロースナノファイバーの研究開発に相当力を注いでいます。
書籍などはどんどんデジタル化していっていますし、ペーパーレスが騒がれている世の中で紙需要が減少しています。そんななか、紙と同様にパルプから作るセルロースナノファイバーの登場は、製紙業界にとって非常に喜ばしいことでした。製紙用パルプから紙にしてもキロ何十円にしかなりませんが、セルロースナノファイバーは高価で、今はキロ数十万円で売れますからね。
――製紙用パルプから作るんですね。
製紙用パルプっていうのは木材からセルロース繊維だけを取り出したものです。この製紙用パルプをほぐしてセルロースナノファイバーを作ります。
――作り方は?
まず、製紙用パルプをほぐしてナノファイバーにすることをナノ化といいます。ナノ化にはさまざまな方法があります。セルロースは幅が3-4ナノメートルで、ここまで微細な繊維にするのは多くのエネルギーが必要で非常に大変。太さは髪の毛の2万分の1に相当します。最初は、石臼による解繊機で細かくしていました。しかし、それでは能率が低いということで、ウォータージェット法などの解繊方法が開発されました。
ウォータージェット法は、製紙用パルプを水の中に入れて、ノズルを両サイドに二つ置き何千気圧という圧力をぶつけることで、中のパルプはバラバラにするという方法です。
一方、このような物理的な製造方法とは別に、TEMPO酸化という化学的な方法が開発されています。TEMPO酸化法は、東京大学の磯貝明教授が発明しました。
TEMPO酸化触媒でセルロースを処理すると、幅約4ナノメートルの均一なナノファイバーが取れることが分かったのです。この方法は比較的簡単で使いやすく、均一な繊維が得られることで、工業的に広く用いられています。このようなセルロースにイオン性官能基を導入する方法として、リン酸化やカルボキシメチル化などの方法も開発されています。
またTEMPO酸化やリン酸化した後にウォータージェットなどの物理的処理をすることで、低エネルギーでセルロースナノファイバーが製造できます。
――それでは未利用材もかなり製紙用パルプの原料に使われそうですね。
確かに、セルロースナノファイバーが増えてくれば当然パルプの原料である木材の使用量が増えます。
ただ、製紙メーカーが使用する製紙用パルプのうち7-8割は外国産パルプです。国産は2割ぐらい。日本は運送費が高騰しているため、運送費が高く、倉庫代、乾燥代も高いため、国産パルプより安い外国産パルプを原料として使用しているのです。
つまり、国産材はパルプの需要が増えてもなかなか使用量が増えない。間伐材などの未利用材をもっと使用するには、中山間地域で国産材からセルロースナノファイバーを安価に製造するか、外国産パルプより性能の高いセルロースナノファイバーを製造するなどの差別化をしなくてはいけないでしょうね。
(後編に続く)
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