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不要品回収業者を正しく理解しよう⑥ 規制強化の効果は?

港のヤードに山積みされた雑品スクラップ。
写真は記事とは関係ありません。
杉本裕明氏撮影 転載禁止

中国への破砕された家電を含む雑品スクラップの規制強化は、2017年の廃棄物処理法とバーゼル国内法の改正で行われることになりました。中国で有害物質を含む雑品スクラップが環境汚染を起こしていることから、改正廃棄物処理法では廃棄物となった家電製品を保管したり破砕したりしている業者に都道府県と政令都市への届け出を義務づけ、国や自治体がチェックできるようにしました。

破砕された家電が混じった雑品スクラップの輸出を規制するのが目的でした。ところが、法律が施行され、届け出が締め切られると、それは意外な結果をもたらしたのです。

ジャーナリスト 杉本裕明

目次

届け出は263件

「届け出の期限が迫っているのですが、一件も届け出がないのです」。兵庫県庁で筆者の取材を受けた担当者がため息をつきました。

廃棄物処理法に定めた家電ごみを保管したり、破砕処理したりする事業者は2018年10月1日までに届け出を行うことを義務づけられています。その期限が目前に迫っていました。

「業者から問い合わせの電話は来ないのですか?」。こう尋ねた筆者に、職員は「数件あっただけです。これを機会に事業をどうしようか迷っているという電話もありました」と言いました。

環境省のまとめによると、10月1日までの届け出の件数は263件(保管のみが228件、保管・処分が35件)。受理した自治体数は66。法律を改正して作った制度ですが、少なさに驚かされます。例えば廃棄物を収集・運搬したり、処理・処分する業者は同じ廃棄物処理法で自治体の許可を得ることが定められていますが、その許可件数は5万とも6万ともいわれます。

環境省は届け出件数があまりに少なかったことに疑念を抱いたのか、後に自治体に行ったアンケート調査で、届け出義務を除外した件数と理由を尋ねています。それによると、除外した事業所数は431。理由は「障害者を雇用し、パソコンを解体し、基板を取り出している」「家電のリース業」「リユース業者で、壊れた家電を処分するために一時保管している」などでした。

一方、廃棄された家電の取り扱いをやめるという相談を受けた自治体にその内容を尋ねている。その理由は「保管しているが、法律で定められた汚水の発生と流出を防止するための措置が困難」「有価で売却できなくなり、逆に処分費を払うことになったため」「取引先の業者が有価買い取りをしなくなった」などです。

また、アンケートは経営者の国籍について尋ねているが、回答があったのは137件で、そのうち日本は87件、中国が30件、韓国3件、ブラジル2件、ガーナ2件などとなっています。

自治体も拍子抜け


玄関先に置かれた中古製品を大切に回収する不要品回収業者。
写真は記事とは関係ありません。
杉本裕明氏撮影 転載禁止

この簡易的なアンケートでは、自治体ごとの件数も実態がよくわかりません。そこで幾つかの自治体に、10月1日までの届け出件数と当時の状況を尋ねてみました。まったく、届け出がなかったのが兵庫県です。市の担当者が言いました。「当初は港周辺に100業者以上いると言われたが、蓋を開けたら一件もありませんでした。相談件数も数件あったぐらいです」(兵庫県、2020年1月現在で届け出は2件)、「400業者いるとも言われていましたが、1件しかありませんでした」(千葉県)。そのほか、大阪府11件、神奈川県8件、川崎市3件など。全体数が少ない上、ばらつきが大きいのが特徴です。こうした自治体ごとの件数について、環境省は公表していません。

ところで届け出た業者の反応はというと、「真面目に何十年もリユース事業をしていた。パソコンを数十台保管するだけで、許可制の廃棄物処理業者と同等の規制と罰則を受けるとは」(リユース会社)。「県の担当者から、『届け出は全国で300件にも満たないと聞いた。うちの県も10件ぐらいしかなかった』と聞かされた。法改正の意味があるのか疑問に思う」(金属業)。

川崎港、千葉港、船橋港はじめ、全国の主要な港や港周辺には、かつて雑品クラップの輸出を手がけたり、輸出業者に雑品スクラップを供給する業者が多数存在していました。今回の法改正はこの港と港の周辺にあるヤード業者を規制することが目的でした。ところが、6県・市に届け出た業者を見ると、その多くは事業規模が小さく、本来対象外であるはずのリユース業者も混じっています。そして、肝心の川崎港や船橋港はじめ主要な港にヤードを持ち、雑品スクラップを輸出していた業者はほとんど見当たらないのです。

スクラップヤードから次々と撤退

川崎港の川崎市営埠頭には通称スクラップヤードとよばれる一角があります。本来はここから鉄スクラップを船に積み、海外に輸出するスクラップ業者が集まっていましたが、2008年から品質の劣る雑品スクラップをメーンで輸出する業者が進出し始め、2016年には、21業者のうち半分が、雑品スクラップの輸出業者になりました。これらの業者は、今回の法改正による届け出を嫌がり、廃棄物の家電を扱うのをやめたのでしょうか。

ところが、この問題をリサーチしている業界紙の市況通信によると、2017年11月現在で、雑品スクラップをメーンにする業者は6業者にとどまり、4業者が撤退したといいます。

実は、これは「中国ショック」と呼ばれる雑品スクラップ規制が大きく影響していたのです。2017年7月、中国国務院は「固形廃棄物輸入管理制度改革実施案」を発表しました。環境保護を軽視する思想が存在し、利益獲得のために向こう見ずな行為をし、海外ごみの違法輸入問題は幾度禁止しても絶えることがなく、人民大衆の身体健康と国の生態環境の安全に厳重な危害をもたらしているとして、2019年までに固体廃棄物の輸入の段階的な停止を行うとし、廃プラ、金属くず(雑品スクラップ)、ミックスペーパーなどが示されました。

翌月にはそのリストが公表されました。雑品スクラップの輸入が禁止されたのは2019年からですが、その前から「中国環境保護部の指導で調査団が全省で再生加工企業の調査を行い、1,795社のうち6割以上の1,074社が摘発され、ホームページで公表」(7月)、これによって主要港湾で雑品スクラップの搬入が止まり、中国政府の18年のライセンス(輸入許可)の見直しや香港経由の密輸とコンテナ検査の強化によって、それを察知した日本国内にいる中国系の業者を中心に撤退の動きが強まったのです。そして日本から150万トン輸出されていた雑品スクラップは18年からほぼそっくり国内に滞留することになったのです。国の法改正による雑品スクラップ輸出規制はこうした事態を想定することなく実施されました。

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この記事を書いた人

朝日新聞記者を経て、フリージャーナリスト。廃棄物、自然保護、地球環境、公害など、環境の各分野に精通する。著書に『ルポ にっぽんのごみ』(岩波書店)『ディーゼル車に未来はあるかー排ガス偽装とPM2・5の脅威』(同、共著)、『環境省の大罪』(PHP研究所)、『赤い土(フェロシルト) なぜ企業犯罪は繰り返されたのか』(風媒社)、『社会を変えた情報公開―ドキュメント・市民オンブズマン』(花伝社)など多数。NPO法人未来舎代表理事として、政策提言や講演会などをしている。

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