食品を保存したり、温めたりするときに使用する食品用ラップは、今では欠かせないキッチン用品の一つですね。毎日大量に廃棄される食品用ラップですが、実はリサイクルすることが難しく、海の生き物を苦しめる原因にもなっているのです。
そんな環境問題を解決するべく、開発されたのが「食べられるラップ」です。世界各国で「余った野菜くず」や、「牛乳のたんぱく質」、「海藻」などの食品を用いた食品用ラップが開発され、注目されています。そこで今回は、以下の2点について解説していきます!
- 食品用ラップが開発され始めた理由と背景
- 世界各国で開発されている食品用ラップの紹介
「食べることでゴミを出さない」という新しいゴミの削減方法を知って、今問題となっているプラスチック製品のゴミ問題について考えてみましょう。
食べられるラップが開発された理由は「プラスチックごみの削減」
最初に、食べられるラップが開発されるようになった理由について解説していきます。
食品用ラップはプラスチックごみとして問題になっている
自然界で分解されないプラスチックによる環境汚染が、世界中で問題視されています。
これまでに生産された世界のプラスチック量は、約83億トン。そのうちの63億トンが、プラスチックごみとして廃棄されているのが現状です。内訳をみてみると、焼却処分されているプラスチックは12%、リサイクルされているのは9%、埋め立てられている、または自然環境に散乱しているプラスチックは79%とされています。
関連記事
ttps://ecotopia.earth/article-1168/
このような状況の中、私たちが普段使っている食品用ラップも、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンなどのプラスチックの一種です。
プラスチックごみのなかでも食品用ラップは、以下のような理由でリサイクルが難しいとされています。
- 薄くて柔らかいので、専用のものでなければ機械を詰まらせてしまう
- 汚れがついていると処理にコストがかかる
- 焼却すると毒性の高いダイオキシンを放出する可能性
このような理由から食品用ラップはリサイクルが難しく、埋め立てられることが多くなってしまうのです。
海洋生物への影響
食品用ラップを始めとしたプラスチックごみは、埋め立てられるか、自然環境に散乱しています。その多くは海に流れ込み、その量は全世界で毎年800万トンにもなると推定されているのです。
海にプラスチックが流れると、クジラやカメなどがプラスチックを餌と間違えて、飲み込んでしまいます。ビニールは胃袋で消化されずに残るため、餌が食べられずに餓死する原因になっているのです。さらにプラスチックごみは波や紫外線によって細かくなり、マイクロプラスチックになります。魚や貝が、マイクロプラスチックを餌と間違えて食べてしまうことも問題になっているのです。
PVCやPVDCなどのプラスチックは、有害化学物質である残留性有機汚染物質(POPs)を吸着する能力が高いことが知られています。POPsは生物の体内の脂に溶けやすいので、体内にとりこまれやすいのです。それを海洋生物が食べて体に濃縮し、さらにそれを人間が食べることで人体に害を及ぼします。
関連記事
ttps://ecotopia.earth/article-582/
環境ホルモンの影響
食品用ラップには、透明で柔らかくするために「可塑剤(かそざい)」という化学物質が含まれています。その中には、環境ホルモン(内分泌かく乱物質)と言われている物質もあり、これが体内に取り込まれると、以下のように人体に様々な影響を及ぼす恐れがあると言われています。
- 女性は早熟になったり、生殖器に異常を起こしたり、乳がん誘発のリスクが高まる
- 男性は精子の減少、前立腺がんの誘発のリスクが高まる
食品用ラップのようなプラスチックごみを海の生き物が食べて濃縮し、それを人間が食べることで、環境ホルモンが体内に取り込まれていく危険があります。
食品用ラップは海の生き物や、人体へ影響を及ぼす可能性があるプラスチックの一つと考えられています。そのため、プラスチック製の食品用ラップのゴミの削減が世界で重要視されているのです。
プラスチックごみの削減に役立つとして、「食べられるラップ」は今、世界中で開発が進められています。
さまざまな国でつくられている食べられるラップを紹介!
プラスチックの削減を目的として開発が進んでいる「食べられるラップ」には、どのような種類があるのでしょうか。ここでは、さまざまな国で開発されている「食べられるラップ」を3種類ご紹介します!
アメリカ発!牛乳のたんぱく質から作られた食べられるラップ
アメリカでは、牛乳のたんぱく質である「カゼイン」で作った食べられるラップが開発されています。味はしないのですが、そのまま食べることもできますし、生物分解性(微生物が分解する性質)が高いため、埋め立てても土に還るのです。
石油由来の食品用ラップの500倍も酸素を通しにくい性質のため、食品の鮮度を保つ機能は十分高いと言えます。さらに柑橘類の「ペクチン」という食べられる物質を添加することで、温度と湿度にも強い作りになっているそうです。実用化には至っていないようですが、2016年の時点では3年以内に実用化を目指していると発表しているので、商品化される日も近いかもしれません。
ポーランド発!「野菜くず」から作った食べられるラップ
ポーランドで開発された食べられるラップは、本来は捨てられるはずだった農家の余った野菜を原料に製造。既に販売されており、「SCOBY」という商品名で「MakeGrowLab」の販売サイトで購入できます。柔らかくて破れにくく、水にも強い作りのため、水分を含んだ食品を包むことも可能です。もちろん、もとは野菜なので、そのまま食べることもできるうえに、有機肥料としても使えます。
インドネシア発!海藻から作った食べられるラップ
インドネシアは、海洋に流出したプラスチックごみの量が2番目に多い国とされています。この問題を解決するために開発されたのが、インドネシアで豊富に採れる「海苔」を使用した包装紙「エボウエア(Evoware)」です。印刷して使うこともでき、お菓子の包装紙として既に実用化されています。開封後は食べられますし、生物分解性があるので、捨てても環境に負荷は低いと言えます。
しかし難点なのが、水分に弱いこと。水分を含む食品の保存には適さないため、お菓子の包装への需要が世界各国で高まっています。現段階では従業員数が5人で、全社員も20人程度と小規模なため、2019年中には量産できるように準備している段階です。
食べられるラップが広く販売される前から、ラップの削減に取り組もう
これまではプラスチックのゴミの削減方法といえば、「リサイクル」という考えが一般的でした。人が食べることによってゴミを出さないという新しい発想は、ゴミの排出を削減できるだけでなく、リサイクルによって排出される二酸化炭素の量も削減できるかもしれません。
まだ食べられるラップは製品化に至っていないものが多いですが、今後一般で販売することになれば、プラスチック製の食品用のラップの消費量を一気に抑えられるのではないでしょうか。
しかし食べられるラップが一般的になる前に、私たちにできることはたくさんあります。残ったおかずはラップで保存せずに、保存容器(ガラス・ステンレス・ホーローなどプラスチック製ではないもの)に入れるようにするだけでも、日々のラップの消費を抑えられるのです。
今日ラップを手にしたときに、「本当にラップでないと保存できないのか?」と、いったん立ち止まって考えることから始めてみませんか?
コメント