最近では、植林活動やCO2排出削減などの環境保全活動に取り組んでいる企業がよく見られるようになりました。一見、企業の事業内容とは何も関係がない活動に思えますが、企業はどのような目的で行っているのでしょうか。
今回は、企業が環境保全活動に取り組む理由やメリット、具体的な活動事例などについてみていきましょう。難しそうに見える用語も、わかりやすく簡単に説明します!
目次
企業が取り組む環境保全活動は「CSR活動」の一部
企業の社会的責任を果たす活動を「CSR活動」と言います。CSRとはCorporate Social Responsibilityの略語で、日本語では「企業の社会的責任」と訳されています。
「企業の社会的責任」とは、企業が事業を行うことで発生する、さまざまな社会への影響に対して、果たすべき責任のこと。企業が社会で持続的な経営をするためには、企業の利益のみを重視するのではなく、事業を行うことで発生する影響についても責任を持つ必要があるのです。
CSR活動の領域はさまざまですが、以下の図のように、企業と利害関係のある従業員や顧客、自治体などの「ステークホルダー」との関係を良好にすることや、「環境問題」への対策をすることなどが主です。
CSR活動の領域
よくCSR活動は「社会貢献のための活動」という意味で、ボランティアなどの慈善活動のみを指していると思われがちです。しかし消費者が企業の商品を安全だと感じたり、従業員が企業の経営に満足したり、株主から信頼を得ることもCSR活動と言えます。「環境保全活動」も、CSR活動の一部。企業と関わるものすべてに対して、責任をもって社会に貢献する活動全般がCSR活動なのです。
CSR活動は、2015年に国連サミットで採択された「SDGs(エスディージーズ)」と深い関係があります。SDGsとは、2016年から2030年までに行うとした、世界が平和的に持続するために達成すべき「世界全体の共通目標」のことですが、17つある目標には、CSR活動の環境保全活動と関連する目標もあり、CSR活動に取り組むことでSDGsを達成する努力をしている企業もみられます。
企業が環境保全活動に取り組むことでどんなメリットがあるのか
事業には関係があまりなさそうに見える環境保全活動を行うと、企業側にどんなメリットがあるのでしょうか。
1.企業の評価が上がる
社会に貢献すべく環境保全活動を行っている企業は、事業以外でも評価されていきます。企業の利益だけを考えるのではなく、自社が行う事業が環境に負荷を与えている場合に責任をもって対処する姿勢を見せることで、企業のイメージアップにつながるのです。
すると企業の商品やサービスを利用したいと思う人が増え、商品やサービスを紹介するだけでは難しい競合他社との差別化を図ることができます。さらに企業のイメージがアップすれば、就職希望者が増加し、有能な人材の確保にもつながります。
企業の評価が上がることで、結果的に企業の利益もアップするという効果があるのです。
2.メディアへの露出の機会が増える
環境保全活動のような社会貢献活動は、メディアで取り上げられる機会があります。CMだけでなく、メディアに露出する機会が増えれば、より多くの人に企業のことを知ってもらえる機会が増えるのです。
3.新たなビジネスを生み出す
環境保全活動を通して、さまざまな業界と接点を持てるようになります。新しい業界と接点を持つことで、新たなビジネスにつながる場合もあるのです。
4.従業員の満足度が上がって生産性が上がる
社会に貢献できる環境保全活動に取り組んでいる企業であれば、従業員にとっての企業の評価も上がります。活動内容に共感する従業員は、その企業に勤めていることを誇らしく思い、生産性のアップにもつながることもあるのです。
5.持続的な資源の確保ができる
環境に負荷を与える事業を続けていると、事業に必要な資源が調達できなくなるリスクがあります。環境保全活動に取り組むことで、持続的に資源を確保しやすくなり、経営も持続させることができます。
企業は利益を得なければ、経営を続けることができませんが、利益だけを追求していては持続的な経営は難しくなります。環境に負荷をかけ続ける生産をしていては、利害関係のある消費者や自治体などからの信頼が得られなくなり、社会から必要とされる企業でいることは難しくなるでしょう。
企業が環境保全活動に取り組むことには、利害関係のある対象や環境によい影響を与え、持続可能な経営につながるメリットとなるのです。
環境保全活動に取り組む企業の活動内容
それではここからは、実際に企業が行っている「環境保全活動」についてご紹介します。
「キッコーマン」は醤油粕や油を再利用
醤油メーカーとして有名な「キッコーマン」は、おいしさを届けるために必要な「健康な自然」と「豊かな自然」を守る取り組みをしています。
醤油メーカーならではの取り組みで、醤油を搾ったあとに残る醤油粕(しょうゆかす)や、醤油の油などの廃棄物を再利用。
醤油粕には、脂肪分やビタミンE、ビタミンK1、イソフラボン類など、豊富な栄養素が含まれています。醤油粕を乾燥させて家畜の飼料とし、ほぼ100%畜産農家に提供することで、廃棄物を削減しているのです。
醤油の油は、工場で使用するボイラーの燃料として使用。化石燃料の代替として使用することで、CO2の排出量を削減しています。
参考:キッコーマン 環境保全活動事例集
「クボタ」はSDGsの目標を達成する取組みを積極的に実施
農機具の販売や農業設備の構築をしている「クボタ」では、「食料・水・環境」の分野で社会課題の解決に貢献する取組みを行っており、SDGs達成にも力を入れています。SDGsの17の目標のうち、「環境への取り組み」では以下の目標を達成するための取り組みを実行しています。
- 目標1. 貧困をなくそう
- 目標2. 飢餓をゼロに
- 目標3. すべての人に健康と福祉を
- 目標6. 安全な水とトイレを世界中に
- 目標7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに
- 目標8. 働きがいも経済成長も
- 目標9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 目標11. 住み続けられるまちづくりを
- 目標12. つくる責任つかう責任
- 目標13. 気候変動に具体的な対策を
- 目標14. 海の豊かさを守ろう
- 目標15. 陸の豊かさを守ろう
出典元:株式会社クボタ クボタとSDGs
上記のSDGsの目標を達成するため、具体的に以下のような環境保全活動に取り組んでいます。
気候変動の対策にCO2の削減を実現
CO2の削減目標を明確にし、2020年までの目標については達成を実現しています。
・2020年までの目標
- 海外での生産拠点CO2排出源単位を2014年度比の14%まで改善
- エネルギー使用源単位を2014年度比の10%改善
→CO2排出源単位は14.3%改善、エネルギー使用源単位は11.8%改善しました(2018年度実績)。
・2030年までの目標
国内のクボタグループでのCO2排出量を2014年度比の30%削減
→17.1%削減しました(2018年度実績)。出典元:株式会社クボタ 環境保全中長期目標
工場でのLEDの使用拡大、太陽光発電システムの導入、物流の積載効率の向上、車両から船舶への切替などによって、CO2の削減を実現しています。
環境に配慮した製品・サービスの開発
クボタでは、ミニ耕うん機の電動化や、芝刈り機の燃料消費量の削減など、CO2の排出量を抑えた製品作りをしています。
上下水道インフラ・農業用水パイプライン、集合住宅などで使用するプラスチックパイプについては、より薄くすることで、原料である樹脂の重量を2/3まで削減。重量を削減することで運搬効率をあげ、CO2排出削減にも貢献しています。さらにパイプはリサイクルして使用することも可能で、持続可能な生産まで考慮しているのです。
参考:株式会社クボタ 環境保全活動
「ニトリ」はリサイクル製品作り・梱包資材選び・エコカーで貢献
家具・インテリア販売メーカーの「ニトリ」では、商品の素材や梱包材の工夫、エコカー化の推進などで環境の保護に取り組んでいます。
ランドセルをペットボトル繊維からつくる
500mlのペットボトル6本分のリサイクル繊維を、ランドセルの素材に使用。石油を原料とする素材をランドセルに使用する場合よりも、CO2排出量を47%低減、エネルギー消費量については33%低減できるとしています。
梱包資材を発泡スチロールからパルプ素材の緩衝材へ
発泡スチロールは梱包資材として多用されていますが、焼却処分にコストがかかり、CO2を排出する原因にもなります。
ニトリでは完成家具の梱包をリサイクル可能な「パルプ素材の緩衝材」にシフトすることで、年間で約34tも発泡スチロール使用量を削減することに成功。CO2の排出量を約115t削減した実績があります(2017年度)。
エコカーの推進
今後、電気自動車が普及することを見越して、店舗に来店する顧客向けに電気自動車充電設備を導入しています。さらに従業員が業務で使用する車両に、電気自動車を導入。CO2排出量の少ない車両の利用推進で、環境への負荷低減に貢献しています。
参考:ニトリ公式企業サイト 環境保全活動
環境にやさしく持続可能な経営をするための企業の努力を知ろう
企業は利益のみを重視した経営を続けていては、社会の中で必要とされ続けることが難しくなってきています。社会から必要とされる企業であり続けるためには、事業活動を行うことで発生するさまざまな影響に対して、責任をもって対処をする必要があるのです。
環境保全活動は、コストがかかったり、直接的に利益を得ることが難しかったりと、敬遠する企業も多いかもしれません。しかし、環境への負荷が高い事業は、資材の調達が難しくなったり、会社のイメージが悪くなったりと、結局は経営の持続を難しくします。目先のことだけでなく、これからの地球環境を考えることが、これからの企業の経営にとって重要になるかもしれません。
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