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「夢のリサイクル」とうたわれたごみ固形化燃料・RDFの末路

桑名市にある三重県のRDF焼却発電施設。
杉本裕明氏撮影 転載禁止

さまざまなところで実行されているリサイクルですが、この9月、「夢のリサイクル」と呼ばれた施設が、17年間の歴史に幕を下ろしました。家庭ごみを原料とするRDFと呼ばれるごみ固形燃料を使った三重県企業庁の焼却発電施設。県が音頭をとって市町がRDFを製造し、この施設に持ち込んでいました。

90年代後半、家庭ごみが燃料に生まれ変わるとのふれこみで、国が強力に全国の自治体に普及を進めてきました。しかし、三重県だけでなく、他の自治体も数年先には事業終了の予定です。いったい何があったのでしょうか。

ジャーナリスト 杉本裕明

目次

17年間の稼働の末に

桑名市にある三重県企業庁の「三重ごみ固形燃料発電所」。17日午前見上げるほどの巨大な発電装置がその動きを止めた。2階の焼却発電監視室にある発電量を表示してきたモニターにゼロの数字を示すと、作業員が「発電終了を確認しました」と報告した。
これまで1日240トンのRDFを燃料にして発電し、約25%の高効率発電を続けてきたという。建設費は91億4,500万円した。RDFは地元の桑名市など14市町が製造し、ここに持ち込んでいた。

しかし、18年度は約6億円の赤字で、2003年の供用開始以来の累積赤字は約24億円。年度末には30億円を超える可能性があるという。解体費は最低でも10億円かかる。

県企業庁電機事業課の担当者は「解体費は2014年に行った見積もりなので、実際にはもっと増える可能性がある。RDFが当初の計画通りいかなかったのは事故による安全対策などでコストが高くなったことや、全国に広がると思っていたRDF施設が広まらずに終わったことが大きい。解体後に総括をすることになっている」と語る。

施設はしっかり管理されていたが


RDFの検品をする検査員。
杉本裕明氏撮影 転載禁止

RDFは、生ごみやプラスチックごみなどの家庭ごみを破砕して乾燥、それを葉巻状(直径約4センチ、長さ約10センチ)に固めた固形燃料のことだ。市町村のRDF製造施設で造られたRDFは、この発電所に運ばれ、焼却・発電に燃料として使われてきた。

私はこの施設を何度か訪れているが、タービン発電機は1万2,000キロワットの発電能力があり、焼却後に残る主灰は伊賀町にある三重中央開発に委託して路盤材や埋め立て処分。飛灰は藤原町にある太平洋セメントでセメントの原料に使われてきた。

搬入されたRDFの検査は厳格だった。一部のRDFを抽出、特別な装置でRDFを熱し、水分の含有量が基準を超えて自然発酵の原因にならないか、落下試験でRDFが壊れやすくないかなど、数項目の測定を行ってきた。検査員は「7人でチェックし、基準に合わないと搬入できません。RDFは高品質ですよ」と自慢した。

発電所の隣には桑名広域清掃事業組合の資源循環センターがあった。組合を構成する桑名市、いなべ市、東員町、木曽岬町の約18万人が排出した4万5,000トンの可燃ごみからRDFを製造、隣の発電所に提供していた。

発電した電気はFIT(固定価格買い取り制度)でバイオマス発電施設と認定され、キロワット時16円の買い取り価格が適用されてきた。家庭ごみには容積で約4割のプラスチック類が混ざり、16円で売電できるのはRDFの約6割で、中部電力に売電。残った発電量の4割分は入札で新電力会社に販売し、2018年度で総額7億5,000万円の収益があった。ところが、それでもこの事業は大赤字で、もともと採算のとれない事業だったというのだ。

悲惨な事故物語る安全祈念碑

発電所の旧貯蔵サイロのあったそばにワインカラーの安全記念碑「支え合うかたち」があった。職員が言った。「ここで毎年、慰霊祭を行い、安全運転を誓っているんです」

実は稼働した翌年の2003年8月に貯蔵サイロで発生した火災の消火活動で爆発事故があり、消防士2人が死亡、5人が重軽傷を負う惨事があった。その後この貯蔵サイロは撤去され、それに代わって低層の貯蔵施設が完成した。

事故後の県の原因究明で、RDFの危険性が明らかになった。生ごみなど有機物が混じったRDFを積み上げると発酵し発熱し、発火の危険性がある。火災はサイロに高く積み上げたために発酵が進み、可燃性のガスがサイロ内に充満し、爆発に至ったという。サイロにはスプリンクラーも検知機もなかった。

県の依頼で原因究明に当たった研究者は、こんな苦言を呈した。「海外の文献を読めば、どれだけ危険なものかがわかり、どんな設備と管理をしなければわかったはずだ。県は入札で一番安い建設費と高い発電効率を提案した企業に決め、選定にあたった大学教授らも効率だけを評価して推した」

県も発電所を製造・管理した富士電機もRDFの危険性を調べることなく、対策も取らずに導入し、事故に至った。しかし、その責任を誰が負うかをめぐって県と同社はお互いに責任をなすりつけ合い、裁判で争うことに。その後津地方裁判所は県に7億8,400万円、富士電機に19億600万円の支払いを命じ、ケンカ両成敗の形となった。

RDF推進した旧厚生省


RDF焼却発電施設。
杉本裕明氏撮影 転載禁止

こんな危険なRDFをごみ問題の救世主とうたい、積極的に推進したのは旧厚生省だった。1990年代後半、ダイオキシン騒動のさなかにあったごみ行政担当の厚生省は、ダイオキシンの発生を抑制するために対策を講じた焼却炉の新設や改修を行う自治体に補助金を出した。しかし、効率の悪い100トン未満の焼却炉は補助の対象から外すとする通知(97年)を出し、「RDFはダイオキシンを出さず、補助金も出る」と勧めた。

小さな焼却炉を抱える市町村は、焼却施設を造っても補助金が出ないのではと、次々とRDF製造施設の建設に乗り出した。

三重県は1995年に津市、四日市市、桑名市などブロックに分けて可能性を検討し、「焼却施設よりRDFの製造、発電の方がコストが低く、焼却灰も少なくてすむ」と結論づけた。98には広域化計画を策定し、26市町村を7区画に分けてそれぞれ一カ所のRDF製造施設を設置する図を描いた。

そして県の担当者は「燃料として売れる。夢のリサイクルです」と市町に働きかけた。ごみの処理に困っていた自治体にとっては、願ったりかなったりの勧誘だった。

これを推進した北川正恭三重県知事は、市町が造ったRDFを焼却発電する施設建設を強力に推し進めた。大牟田(福岡県)、能登(石川県)、福山(広島県)、鹿島(茨城県)でも三重県同様にRDFの焼却発電施設を造ることになり、これらの自治体がつくった「RDF全国自治体会議」の会長に北川氏が就任した。

無料で引き取るはずが高額の処理費


製造されたRDFを積んだトラックが届いた。
杉本裕明氏撮影 転載禁止

しかし、そんなうまい話があるのだろうか。計画が決まったころになると、県は「無料の引き取りになります」と説明が変わった。さらに、いざ、RDFを焼却発電所に持ち込む頃になると、「1トン当たり4500円の処理費をいただきたい」となった。売電収入が、電力の自由化で安くなったためという。

運賃は市町が負担する。遠方から運ばねばならない市町にとってはさらにトン当たり数千円から1万円近くの運搬費が発生する。
県は、供用開始の02年暮れから17年3月までの間に計75万トンのRDFを燃やし、7億6,000キロワットを発電。中部電力にキロワット時当たり9・7円で売電し、計74億円の売却益を想定していた。

自治体からトン当たり4,500円の処理費を徴収して得た計34億円と合わせ、計108億円の収入で事業が何とかペイするとしていた。これに市町が反発し、1トン当たり3,790円の処理費にすることで落ち着き、スタートした。

ところが、1日240トン燃やす能力があるのに、発電所に持ち込まれるRDFの量は少なく、熱量を確保するために助燃剤として石炭が購入された。さらに03年夏に貯蔵サイロが爆発、消防士2人が死亡する事故が起きて、安全対策への投資を余儀なくされ、赤字が膨らんでいった。

コスト高で処理料金値上げ

処理料金は、県と市町でつくるRDF運営協議会との協議で決めることになっていた。

それからは、県と協議会の協議の場は、処理料金の値上げ交渉に一辺倒した。06年に5,058円に値上げしても焼け石に水で、累積赤字に困った県は07年、08年度から9,420円に値上げするとともに、2016年度末で発電事業から撤退したいと提案した。02年末に造った施設をたった13年で取り壊そうというのである。

市町は「製造したRDFの行き場がなくなってしまう」と反発し、段階的な値上げを認めるかわりに20年度まで発電事業を延長することで決着した。ハシゴをはずされて、自前で処理することになれば、トン当たり数万円の処理費がのしかかってくるからだ。

12年度に7,600円に値上げすると、14年に志摩市、15年には松坂市が、自前の焼却施設をたてて脱退した。志摩市は「RDFは合併する前の旧浜島町が製造していたので合併後も続けていた。が、近隣の市町と構成する組合の焼却施設が14年に稼働し、旧浜島町のごみも燃やせる体制ができ、脱退することにした」(清掃美化課)。

17年度には1万4,145円と、スタート時の4倍に膨れあがった。当時の計画では発電事業は2021年3月まで継続することになっていたが、桑名市など4市町でつくる桑名広域清掃事業組合が焼却施設の建設を急ぎ完成を19年に前倒し、伊賀市も早期離脱を要望した。RDF製造量が多い事業組合が抜けると発電はなりたたず、19年9月での終了が決まった。

1トンの処理費が10万円の自治体も

RDFは固形燃料と呼ばれるが、熱量(カロリー)が低く、焼却施設やボイラーを傷める塩素を含むため、とても有価では売却できない。処理費を払って焼却炉で燃やすかセメント工場で焼成するしかない。おまけに爆発事故を起こしたように発酵性があるので、扱いが難しく、管理にお金もかかる。しかもRDFを製造する際、乾燥させるために大量の灯油を必要とする。

会計検査員が09年度に全国50のRDF製造施設を調べた報告書がある。それによると、RDFの製造コストはトン当たり平均6万2,606円。10万円を越えるところが4か所もある。三重県では、製造コストと県に払う処理単価を合わせると、桑名広域清掃事業組合でトン当たり6万4,000円。事務局は「助燃剤として使う灯油は年間320万リットル。2億4,000万円もかかる」。

13年3月に組合がまとめた報告書によると、RDFの製造コストはトン当たり3万2,000円。発電所の代わりに民間施設で処理してもらうと同1万5,000円~3万5,000円。これに対し焼却施設なら1万4,000円~2万2,000円、最終処分費を合わせてもRDFよりはるかに安いとなった。

他県も事業終了へ

三重県のように県が率先して発電施設を設置し、市町にRDFを製造させ、持ち込ませるという方式を採用した県は幾つもあった。
だが、大牟田リサイクル発電所(福岡県・大牟田市・電源開発)は2020年度で終了。福山リサイクル発電所(広島県、JFEエンジニアリング)は24年3月で終了。石川北部RDFセンター(4組合・1市・1町)は23年3月で終了の予定。RDFを持ち込むためにRDFの製造施設をつくった自治体は新たに焼却施設を造る。

鹿島共同再資源化センター(鹿嶋市など1市2町、77企業など)は鹿嶋市と神栖市が製造したRDFと産廃を受け入れている。だが、鹿嶋市と神栖市は数年後にRDF製造施設を廃止、新たに焼却施設を新設する方針を決めている。いずれも2000年代初めに稼働し、参加自治体が高コスト負担を強いられる構造は三重県とよく似ている。

ごみの資源化という発想は良い。しかし、灯油を大量に使い、生ごみを乾燥させて造ったRDFは環境に優しいとはとても言えない。「夢のリサイクル」として国の誤った政策に乗せられ、RDFを導入した県や市町が負ったツケを尻ぬぐいするのは、税金を払う県民や市民だ。RDFの教訓から学ぶことは多い。

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この記事を書いた人

朝日新聞記者を経て、フリージャーナリスト。廃棄物、自然保護、地球環境、公害など、環境の各分野に精通する。著書に『ルポ にっぽんのごみ』(岩波書店)『ディーゼル車に未来はあるかー排ガス偽装とPM2・5の脅威』(同、共著)、『環境省の大罪』(PHP研究所)、『赤い土(フェロシルト) なぜ企業犯罪は繰り返されたのか』(風媒社)、『社会を変えた情報公開―ドキュメント・市民オンブズマン』(花伝社)など多数。NPO法人未来舎代表理事として、政策提言や講演会などをしている。

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