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リユースの請負人④ 小林富雄さん/埼玉の整理された中古品買取の現場!

「整理整頓こそリユースの命」と語る小林富雄さん。
杉本裕明氏撮影 転載禁止

浜屋のリユース事業を支えるのは、買い子さんと呼ばれる不要品回収業者が持ち込んだ中古の家電や雑貨を買い付け、保管し、コンテナに積み込んで港に送る仕事だ。重い家電製品を持ち上げ、運ばねばならない重労働だが、買い取りや品質のチェックは各自がipadで管理する。

全国16店舗のうち埼玉本店長(埼玉県東松山市)を務めるのが小林富雄さん(37歳)。仕事をスムーズに進めるコツはと聞かれ、即座にこう答えた。「整理整頓、無駄なものは捨てる。これに尽きるんです」

ジャーナリスト 杉本裕明

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中学時代の友人に誘われて


杉本裕明氏撮影 転載禁止

浜屋の本社のある埼玉県東松山市に生まれ育った小林さんが、中学時代の友人から「浜屋に来ないかい」と誘われたのは県立高校の3年生の時だった。一足先に先に浜屋のリユース現場で働いていた友人は「仕事はきついが、雰囲気がいいんだ」

埼玉本店で堀越勇専務と会った。小林社長が起業した時から苦労を共にしてきた人で、不要品回収業者から慕われる存在だった。「うちにおいでよ」。温厚で従業員思いの人柄が伝わってきた。本店では持ち込まれた中古家電を若い社員らがてきぱきと検品していた。「こんにちは」「ありがとうございます」。ひとりひとりに声をかけている。いい雰囲気だと思った。

「でも、入社し、本店で見よう見まねで作業が始まると大変だった。とにかく家電は重い。移動するのも大変です。本当に肉体的に疲れました」と小林さん。だが、先輩に教えてもらい経験を積むうちにコツを身につけた。マスターすると、あんなに重かった冷蔵庫がひょいと持ち上がった。「体で覚える」というのはこういうことなのかと知った。

初めて香川県の坂出支店(坂出市)の支店長になったのは本店で5年が経過した2012年。店長以下6人で、家族のように後輩たちとつきあった。そこに7年とどまると、大阪府岸和田市の大阪支店長になった。

しばらくして会社から「金沢支店が軌道に乗るまでしばらく面倒をみてほしい」と頼まれて金沢へ。週末に妻のいる大阪のマンションに戻り、すぐに金沢に戻る生活が1年続いた。

大阪支店長に復帰し売り上げを伸ばすと、次に福岡支店に。2年勤めたのち18年2月に最初に勤務していた埼玉本店に戻った。

大阪では回収業者から商売を学んだ


杉本裕明氏撮影 転載禁止

「多くの支店を経験してどこが一番、記憶に残りますか」。こんな質問に、小林さんは迷わず、「大阪支店です」と言う。「なぜって、商売を勉強できたこと。不要品回収業者には個性豊かな商売人が多かった。どう接したらいいのか、どんな話の持って行き方をしたらいいのか随分教えてもらった」

これまでの5、6人で家族のようだった支店と違い、埼玉本店は総勢25人の大所帯である。朝8時半から午後5時半までが通常の勤務時間で、毎日行う朝礼では、ローテーションで司会を決め、基本的なあいさつを復唱することから1日が始まる。
25人の長になっていても、パソコンで在庫を管理したりする以外は、ほとんど外で仕事をする。みんなとコミュニケーションをとりながら、気がついたことを伝える。

口ぐせのように後輩たちに伝えるのが、整理整頓の重要性だ。工場(倉庫)の中に、何がどこにどれだけ置いてあり、どんな不要なものがあるのか、見て回る。「誰かが使うだろう。いつか使うだろうといっていらないものがいっぱい置いてある。それを取り除いてやると、不思議なもので意識が変わってくるのです。職場はすっきりし、仕事を効率的に行うことにもつながる」

自分ができることをやれば道が開ける


杉本裕明氏撮影 転載禁止

整理整頓に気づいたのは、坂出支店長になった時だと、小林さんは言う。社員が少ないので、効率よく利益を出したいと考えた。そのためには効率よく中古家電を回さねばならない。しかし、仕入れる量は、保管する工場の規模から限られている。なら整理整頓し、いらないものを除去することだと考えた。

スペースが生まれ、仕入れを増やした。そうするうちに、それが仕事全体の効率化に結びついていった。間もなく利益の多い上位店にランクされることになった。

本店では、「5S報告書」と名付けたフォーマットを使い、整理、整頓、清潔、しつけの項目に定期的に入力し、パソコンで自己点検してもらっている。一方で率先して仕事に取り組み、後輩の相談にも心やすく応じる。

そんな小林さんだが、20歳の時、やめようと思ったことがあった。「体力勝負の世界の面もあり、若いうちはいいが厳しくなった時にどうするかと思った。でもここまでやっているんだからもう少し続けようと」。次第に仕事の面白さにとりつかれていったという。

悩んでいるだけでは前に進めない

小林さんは「悩んでいるだけでは前に進めない。自分のできることをやっているうち、何かしら道が開けてくるのだと思います」と話す。

そしてこんな例を出して説明し、抱負を述べた。
「例えば整理整頓を心がけると工場が見違えるようにきれいになる。するとお客さん(回収業者のこと)から、きれいになったねと褒めてくれる。すると他の業者に『浜屋はきれいでいいよ』とPRしてくれるから、仕入れも増える。何げないような心がけが好循環を生む。これからも前を見て進もうと思います」

整理整頓から品質のいい中古品が生まれ、それがめぐりめぐって途上国の人々を喜ばせている。それを小林さんも心の底から望んでいる。

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この記事を書いた人

朝日新聞記者を経て、フリージャーナリスト。廃棄物、自然保護、地球環境、公害など、環境の各分野に精通する。著書に『ルポ にっぽんのごみ』(岩波書店)『ディーゼル車に未来はあるかー排ガス偽装とPM2・5の脅威』(同、共著)、『環境省の大罪』(PHP研究所)、『赤い土(フェロシルト) なぜ企業犯罪は繰り返されたのか』(風媒社)、『社会を変えた情報公開―ドキュメント・市民オンブズマン』(花伝社)など多数。NPO法人未来舎代表理事として、政策提言や講演会などをしている。

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